論文要旨 年齢差別禁止と定年制─EU法・英国法の展開を手がかりに

櫻庭 涼子(神戸大学大学院法学研究科准教授)

日本では、高齢者の雇用は、定年延長・継続雇用の推進・義務づけを通じて着実に促進されてきた。使用者が定年を設けるとき、その定年年齢は60歳を下回ってならない。65歳までの雇用確保のための雇用確保措置も講じなければならず、この措置は、2012年改正高年齢者雇用安定法により、労働者全員を対象としなければならなくなった。このように雇用政策によって対処するのが日本のアプローチであった。

これに対し、米国やEU諸国などの諸外国では、高齢者雇用をめぐる中心的なテーマはいまや年齢差別である。定年制も、年齢差別禁止法に反しており無効なのか、それとも例外として許容され有効なのかということが問題になる。この点について、10年前に年齢差別禁止規制を導入したEUでは、定年制は、公的年金支給開始年齢に接合していれば適法であるという取扱いが定着し、認められてきたが、近年では微妙な変化が見られる。労働協約の定年の定めについての審査は控えられるものの、個別労働契約については、年金支給に接合していても、正当化理由があるかどうか、かつ適切・必要なものかどうかが吟味される。若年者を雇い入れるなどの理由を個別の定年ごとに企業に説明させる方向に進んでいるのである。今後の日本法の方向性を考える上で見逃せない動きである。

2014年特別号(No.643) メインテーマセッション●高齢社会の労働問題

2014年1月24日 掲載