論文要旨 文系大学による人的資本形成効果の分析─青森県の事例から

大矢 奈美(青森公立大学経営経済学部准教授)

猪原 龍介(青森公立大学経営経済学部准教授)

山本 志都(青森公立大学経営経済学部准教授)

本研究の目的は、地方大学が、その教育によって労働者の生産性にどのような影響を与えるかを明らかにすることにある。この分野における先行研究では、分析に用いられる成績の指標が主観的であるというデータの制約があった。また大学教育を通じて育成されるコミュニケーション能力などが新卒者の就業や生産性に与える影響について、十分な研究がなされているとは言えない。

そこで本研究では、(1)教育内容およびその成果である成績が卒業後の就業に与える影響(専門教育という人的資本を蓄えた人材の供給)、(2)教育内容および成果が収入(生産性)に与える影響について分析をおこなった。使用したデータは、コミュニケーション科目の必修を課している文系D大学の卒業生アンケートおよび卒業時成績データである。

就業関数、収入関数等の計量分析の結果、学業成績は、卒業時点の就業確率および正規従業員としての就業確率、就業継続の確率を高めることが明らかになった。一方で労働生産性を表すと考えられる収入に対し、学業成績は全く影響を及ぼさないという結果を得た。就業後の労働生産性には、就業してからの経験などの方が強く影響する、あるいは外部効果の存在による実際の生産性と収入の間に乖離があることが考えられる。

ただし、卒業生アンケートの集計結果からは、学んだことが仕事に役立っているという評価も得られており、大学での教育は何らかの形で生産性を引きあげる効果を持つものと言って良いだろう。

2013年特別号(No.631) 自由論題セッション●Bグループ

2013年1月25日 掲載