論文要旨 「日本型」高校就職指導を再考する
本稿の目的は、高校-企業間の信頼に基づく継続的な関係(実績関係)を軸とした「日本型高校就職指導モデル」の成立要件を探ることを通じて、これまで自明視・単一視されてきた日本の高校就職指導像について再考することである。
日本の高校就職指導の最大の特徴は、学校生活における社会化と一体化したメリトクラティックなマッチングにあり、マッチングによる生徒の質の保証が実績関係を支えてきたとされてきた。そこで本稿は高校就職指導の選抜規範に着目し、4つの類型に分類した。従来の日本の典型的な高校就職指導(学校で事前に成績による選抜を実施)を「80年代型就職指導モデル」とし、このモデルの対極にある選抜機能を喪失した就職指導を「自由型就職指導モデル」と呼ぶことにした。さらにこの2つの類型の中間に「準80年代就職指導モデル」、「準自由型就職指導モデル」を措定した。
就職者を5名以上送り出す全国の高校に対して実施した質問紙調査によれば、これまで支配的だとされてきた「80年代型就職指導モデル」は、2010年現在においては全体の2割にとどまる。また「80年代型就職指導モデル」は、雇用情勢が良く(製造業が強く県外就職者が少ない地域)、就職者人数が多い高校で成立しやすい傾向が見られ、こうした条件にあてはまらない場合には「自由型就職指導」が成立していた。雇用情勢が良く、就職者人数が多いという条件のもと成立する「80年代型就職指導モデル」は、70年代後半から80年代当時の日本の高卒就職指導の「理念型」のひとつであったのかもしれないが、実態としては80年代当時も一部にのみ成立していたにすぎなかったにもかかわらず、日本全体の高校就職指導像として一般化された可能性が示唆される。
2012年特別号(No.619) メインテーマセッション●若年者雇用をめぐる政策課題
2012年1月25日 掲載