論文要旨 職業能力開発を行う上での時間的制約の問題
─中小製造業データの分析から

高見 具広(東京大学大学院博士課程)

本稿では、中小製造業における技能職・技術職に従事する正社員の能力開発に関して、いかなる場合に働く者が能力開発に問題を感じるのかを、企業・従業員マッチングデータを用いて考察する。その際、特に労働時間が長いことによる能力開発への影響に着目した。

分析の結果、まず、労働時間が長い場合には、日々の仕事を離れての教育訓練受講に対して忙しさが制約を課す問題(「忙しすぎる」問題)が発生しやすい。加えて、理論上は労働時間が制約条件となるわけではない「日々の仕事の中で能力を向上させる際の問題」についても労働時間の長さが関係する。ただし、労働時間が長いことで個人の能力開発の実施量が少なくなり問題が発生するわけでは必ずしもない。

なお、能力開発を阻害する「忙しさ」には、労働時間の長さという量的側面のみならず職場環境という質的側面も関係する。突発的業務が多いなど時間面で裁量性の乏しい職場環境は、長い労働時間とともに、日常業務を離れての教育訓練受講を阻害する「忙しさ」を構成する。一方で、仕事が個々の裁量に任されている職場では、日々の仕事を行う中での能力開発問題は起こりにくい。この背景には、仕事が個々の裁量に任されている場合に、企業のOJTに関する取組みが効果的に行われやすいことが関係する。

本稿の結論から、企業がOJTに関する取組みを効果的に行い、能力開発に問題を生じさせないためには、労働時間の量的な短縮のみならず、時間に対する従業員個々の裁量性を高めることの重要性も示唆された。

2012年特別号(No.619) 自由論題セッション●Cグループ

2012年1月25日 掲載