論文要旨 ドイツにおける時間政策の展開

田中 洋子(筑波大学人文社会系教授)

ドイツでは「時間」の使い方が、政策立案のために強く意識されている。それは社会全体の労働――就業労働という支払労働と、ケア労働にみられる不払労働――を、いかに持続可能な形で分配できるようにするか、という考え方にもとづいている。

政府はさまざまな時間調査を行い、国民の時間利用の分析を行いつつ、就業労働時間と世代間のケア労働の間を移動できる時間政策を試行している。育児や介護など人生のさまざまな出来事に対応して自分の時間を使えるように、時間の融通を保障するための政策が、国レベルでも企業レベルでも展開しつつある。

政府は立法を通じて、育児のための親時間、介護のための家族介護時間、パートタイム正社員の拡大を広げてきた。これらは、時間と同時に一定の給与と雇用を保障することによって、安心して人々がケア労働に移動し、また職に復帰できるような制度設計となっている。

企業内においても様々な形の時間柔軟化政策が行われ、労働時間口座による労働時間の柔軟化やパートタイム正社員への移動、家族の事情を考慮した休暇制度の充実、時間の融通のきく保育所の設置などが、ルフトハンザ社はじめドイツの多くの企業で実施されている。

これらの時間政策を通じてドイツは、ケア労働と就業労働のバランスを保ち、個人・企業・社会のいずれにとっても持続可能となるような制度の整備に向かっていると考えることができるだろう。

2012年特別号(No.619) 自由論題セッション●Bグループ

2012年1月25日 掲載