論文要旨 職歴・ライフコースが貧困リスクに及ぼす影響
―性別による違いに注目して
本稿では、1995年と2005年の『社会階層と社会移動調査』を用い、性別によって貧困に至るプロセスがどう違うかを明らかにした。具体的には学歴や職歴、婚姻状況が貧困に与える影響について、地位達成過程モデルに沿って分析、考察した。さらに、未成年の子供を持つ世帯において、子供の年齢と女性の就労状況が貧困をどう規定しているのかを検討した。主な結果は次の2点である。
第一に、男性は、一度の失業が貧困に持続的な影響を及ぼすものの、ほぼ現職での階層的地位によって貧困が決定している。それに対して、女性は、結婚に至るまでの教育や初職段階での階層的地位が、その後の貧困率に継続的な影響を及ぼしている。このことは、女性の方が男性よりも早い段階で機会構造上の分断に直面し、一度貧困状態に陥ると、そこから抜け出しにくいことを示唆している。
第二に、既婚無職女性(専業主婦)の貧困リスクが高いことに加え、4歳以下の子供を持つ世帯では、母親が正規労働者として就業することが、貧困リスクを低減している。これらは、世帯収入に占める女性の働きのウェイトの高まりを示しており、女性が正規労働者として働ける就労支援政策が、貧困リスクの軽減に有効であることを意味する。同時に、両親の就業状況を考慮してもなお、4歳以下の子供を持つ世帯の貧困率が高いことから、低年齢の子供を持つ世帯への社会保障や扶養控除を充実させるべきである。
2012年特別号(No.619) 自由論題セッション●Aグループ
2012年1月25日 掲載