論文要旨 教育訓練が高齢者の賃金に与える影響に関する実証分析

馬 欣欣(慶應義塾大学産業研究所共同研究院)

少子化・高齢化が進んでいる日本社会では、高齢者の就業を促進することは重要な課題となっている。日本高齢者の労働供給に関する先行研究では、学歴、55歳時点の職種、調査時点の職種などの要因を人的資本の代理指標として用いた実証分析がほとんどであり、教育訓練が高齢者の賃金に与える影響に関する実証分析は行われていないため、その効果が明確となっていない。

本稿の目的は、2009年8月に実施された労働政策研究・研修機構(JILPT)『高年齢者の雇用・就業の実態に関する調査』の個票データを活用し、同時決定およびサンプル・セレクション・バイアスの問題を考慮したうえで、実証分析を行い、(1)どのような要因が高齢者の教育訓練を受けることに影響を与えるのか、(2)その教育訓練がどの程度高齢者の賃金に影響を与えるのか、の2つの問題を明らかにする。

主な結論は以下の通りである。第一に、労働者が持つ一般的人的資本が多くなるほど、55歳以後に教育訓練を受ける可能性が高くなる傾向にある。長期的職業キャリアの形成を経て、職業キャリアの初期における人的資本の格差が、その後の教育訓練への再投資の差異を通じて、高年齢期にさらに拡大する可能性がある。第二に、他の条件が一定であれば、中高年期に教育訓練を受けたことは高齢者の賃金を高める効果を持つことが確認された。

分析結果から、高齢者の就業を促進するため、また継続就業をしている高齢者の賃金水準が大幅に低下する問題に対応するため、中高齢者向けの公的教育投資政策(例えば公的教育訓練制度、教育訓練援助金制度など)を実施することが必要であるということが示された。

2012年特別号(No.619) 自由論題セッション●Aグループ

2012年1月25日 掲載