論文要旨 非正社員活用の多様化と均衡処遇
─パートと契約社員の活用を中心に

島貫 智行(一橋大学大学院商学研究科専任講師)

本稿では、正社員と非正社員の均衡処遇の問題について、事業所のデータを用いて非正社員の組合せや活用の実態を概観した上で、同じ仕事に従事する正社員と非正社員の賃金格差の規定要因を統計的に検討した。

具体的には、まず正社員と非正社員の仕事の重なりに注目して、正社員と同じ仕事にパートを活用する「パート重複型」、正社員と同じ仕事に契約社員を活用する「契約社員重複型」、正社員と非正社員の仕事を区別する「非重複型」に類型化した。三類型はいずれも、正社員を中核業務に従事させ非正社員をその周辺業務に従事させるという非正社員の伝統的な活用とは異なる特徴を持っており、近年のわが国企業の非正社員の活用が伝統的なタイプから幾つかのタイプに分化している可能性が示唆される。

その上で、「パート重複型」と「契約社員重複型」を取り上げて、同じ仕事に従事する正社員とパート及び契約社員の賃金格差の実態を確認し、その規定要因を統計的に検討した。その結果、非正社員の仕事の重さや労働条件が正社員に類似しているほど両者の賃金格差が縮小している一方で、正社員について新卒長期雇用といった伝統的な雇用管理方針を維持している事業所ほど賃金格差が拡大している傾向が示される。今後、正社員と非正社員の均衡処遇を進めようとするならば、わが国の正社員の伝統的な雇用管理についての再検討が必要となることを示唆している。

2011年特別号(No.607) 会議テーマ●非正規雇用をめぐる政策課題/パネルディスカッション

2011年1月25日 掲載