論文要旨 嘱託(再雇用者)社員の人事管理の特質と課題
─60歳代前半層を中心にして

藤波 美帆(高齢・障害者雇用支援機構常勤嘱託調査研究員)

大木 栄一(職業能力開発総合大学校准教授)

本稿では、著者が参加した高齢・障害者雇用支援機構(2010)『人事制度と雇用慣行の現状と変化に関する調査研究(第一次報告書)─60歳代前半層の人事管理の現状と課題』のアンケート結果の再分析から以下のことを明らかにした。

第一に、60歳代前半層の非社員(「高齢社員」)の活用に関わる人事管理(配置管理と労働時間管理)と、高齢社員の労働意欲の維持・向上をはかるための報酬管理の間に整合性がとれていないことが明らかになった。活用の面では、役職者を除き、「現職継続」を原則として、労働時間の面では基本的にはフルタイム勤務が一般的であり、60歳前の正社員(「現役正社員」)と同様に、あるいはそれに近い形で活用することを基本に管理の仕組みが設計されている。しかしながら、報酬管理は報酬の基本を形成する基本給のなかに「昇給なし」の仕組みが組み込まれており、現役正社員とは異なる扱いをする、あるいは、それに近い仕組みがとられている。そのため、高齢社員のモチベーションの向上につながるような人事管理が構築されていないのが現状である。第二に、現役正社員との連続性を意識した人事管理をとっている企業は、70歳までの雇用に対して積極的であることが明らかになった。

しかながら、高齢社員を対象にした人事管理のすべての領域で現役正社員と連続性を維持する人事管理にすることが、働き方のニーズが現役正社員とは異なる高齢者の活用・処遇に際して、必ずしも合理的ではないとも考えられる。したがって、どの領域を現役正社員と同じ仕組みに近づけることが、高齢社員の納得性を高めるとともに、70歳雇用の推進につながるのかを明らかにすることが、今後の残された課題である。

2011年特別号(No.607) 会議テーマ●非正規雇用をめぐる政策課題/自由論題セッション:Cグループ

2011年1月25日 掲載