論文要旨 経済のグローバル化が日韓の労働者にもたらす影響の総合的研究─労働力の非正規化と家族の変化が所得に与える影響

大沢 真知子(日本女子大学人間社会学部現代社会学科教授)

金 明中(ニッセイ基礎研究所生活研究部門研究員)

本稿では労働力の非正規化を家族の変化との関係で考察した。日本も韓国も男性稼ぎ主モデルが前提となって社会システムが作られてきた。その背後には男性が正社員で世帯主、女性が無償労働に従事し、家計補助的に働き、大多数が結婚し、家族を形成するという前提があった。

しかし、その前提が90年代になって大きく揺らいでいる。労働力の非正規化がすすみ、男性世帯主が非正規労働者である割合も増加している。また、家族形態も大きく変化し、非婚化や晩婚化、離婚率の上昇などによって、何かあったときに家族に頼れないひとも増えている。しかもその多くは非正規労働者として働いている。

日本と韓国を比較してみると、日本の方が、性別役割分業を意識した社会システムが作られている。税制度における配偶者控除や年金制度における第3号被保険者制度などがそれである。また、フルタイムとパートタイム労働者とのあいだの待遇格差も法律で禁止されていない。

また、両国では国際的にみて最低賃金の水準が低く、日本の場合はパート賃金が最低賃金に準拠して推移している。そのために、貧困層の多くは働いているにもかかわらず、貧困から抜け出せない。

さらに、日本も韓国も企業の福利厚生や社会保険制度の加入において、雇用形態間で大きな格差があり、それが非正規労働者を採用するコストメリットとして労働力の非正規化を進めている。日本の場合には年金制度の空洞化にもつながっている。

企業が世帯主の雇用を保障し労働者はその見返りに会社につくす。家族は福祉の担い手として無償労働をおこなう。国は企業が労働者の雇用維持ができるように調整金などの支給によって企業を支える。このような国と企業と労働者の関係がいま大きく変化している。

核となる人材の割合が縮小するなかで、政府の政策は、企業の雇用維持への支援からそこに入れないひとのための就業支援や失業対策あるいは家族に頼れないひとのためのセーフティーネットの拡充。さらには、すべてのひとを包括する社会保険制度改革などが必要となっている。

また、30代の若年層の所得が低下するなかで、第2の稼ぎ手の役割が重要になっている。そのために、正規労働者と非正規労働者とのあいだの均等待遇を確立する必要がある。

労働市場や家族のあり方が大きく変化するなかで、政府の政策の大きな転換が求められている。

2011年特別号(No.607) 会議テーマ●非正規雇用をめぐる政策課題/自由論題セッション:Bグループ

2011年1月25日 掲載