論文要旨 韓国における就業規則による労働条件の不利益変更

朴 孝淑(東京大学大学院法学政治学研究科博士課程)

韓国の労働条件決定システムは、日本とほぼ同様であり、勤労基準法 (以下「勤基法」)が労働条件の最低基準を定め、労働協約、就業規則、個別労働契約等によって具体的労働条件の決定・変更がなされる。近年、個別的労働条件設定の機運が高まりつつあるとはいえ、なお労働条件を労働者と使用者が個別的に議論して決定することは稀で、多くの場合は労働協約や就業規則によって集団的に決定されている。そして今日、労働組合組織率の低下による労働協約の機能後退などにより、集団的労働条件の設定手段として重要な役割を維持しているのは就業規則である。

日本同様、韓国でも就業規則変更による労働条件の不利益変更が大きな問題として議論されてきた。

ただ、日本と異なり、韓国では1977年に不利益変更に集団的同意が必要とする判決が下されたが、その後、合理性があれば不利益変更を可能とする判例法理が形成されていった。こうした中、1989年の勤基法改正は、前者の判例の立場を採用して、就業規則の不利益変更に集団的合意が必要とするルールを明文化した。しかし、判例は1989年の法改正後も、合理的就業規則変更であれば、集団的合意は不要とする立場を維持発展させている。

本稿は、日本と同様、労働条件変更問題において就業規則が重要な機能を担っている韓国の状況について、日本の判例法理の影響を受けつつも独自の法改正と判例法理の展開をしてきた韓国を分析・検討し、日韓両国の経験から比較法的示唆を得ようとするものである。

2011年特別号(No.607) 会議テーマ●非正規雇用をめぐる政策課題/自由論題セッション:Bグループ

2011年1月25日 掲載