論文要旨 労働契約の規制手法としての任意法規の意義と可能性
─“default rules”をめぐる学際的研究からの示唆

坂井 岳夫(同志社大学法学部法律学科助教)

近時、任意法規について、法学・経済学・心理学の協働によって、興味深い知見が提供されている。その1つが、任意法規に、(当事者の合意による逸脱を認めることにより)選択の自由を保護しながら、(任意法規の内容に対する当事者の現状維持バイアスを利用することにより)厚生を増進する方向に個人を誘導する機能を認める、Thaler & Sunstein の見解である(以下、このような機能をもつ任意法規を「誘導型任意法規」とする)。このような機能は、労働者の就業意識や使用者の人事管理が多様化する中で、労働契約当事者の選択に十分な配慮を払いつつ、一定の法政策を遂行していくためにも、有効であると考えられる。そこで、本稿は、誘導型任意法規を活用する可能性を探求すべく、「誘導型任意法規の内容は、いかなる基準によって定められるべきか」、「誘導型任意法規からの逸脱は、どのような法規制(要件)の下で許容されるべきか」、「誘導型任意法規は、どのような局面で活用しうるのか」といった課題について考察を行っている。そして、これらの課題に対する考察の成果を基礎として、わが国の法制度に対しても、努力義務規定と誘導型任意法規とを対比し、「非正規雇用の活用」や「労働時間の規制」における誘導型任意法規の活用について検討することで、若干の示唆を導いている。

2011年特別号(No.607) 会議テーマ●非正規雇用をめぐる政策課題/自由論題セッション:Bグループ

2011年1月25日 掲載