論文要旨 ドイツにおけるワーク・ライフ・バランスと非典型雇用

田中 洋子(筑波大学大学院人文社会科学研究科教授)

本報告では、2009年に行ったドイツ企業7社(ダイムラー、ドイツ銀行、ドイツ・テレコム、SAP(ソフトウェア)、フラポート(運輸)、ヴェレダ(化粧品)、ベルリン化学)およびドイツ家族省・ドイツ商工会議所での聞き取り調査をベースに、ドイツにおけるワーク・ライフ・バランス政策の進展状況を明らかにするとともに、その限界を考察している。

ここ十年余、ドイツ政府は仕事と家族の調整政策の推進について政権のトップテーマの一つとして取り組み、親時間・親手当制度の導入や、パート・有期労働法を通じた雇用形態の柔軟化、保育園設置の拡大をはじめとする立法・政策をうちだしてきた。これらに対応する形で、多くのドイツ企業においても様々な改革の試みがなされている。ドイツの特徴としては、第一に労働協約を通じた労働時間口座・長期口座制度の導入など時間政策の展開、第二に日本でいう短時間正社員としてのパート労働者の雇用形態の促進をあげることができる。こうした試みは、企業にも従業員にも時間の融通性を増加させ、仕事と家庭との調整に寄与すると共に、これまで硬直的とも言われてきたドイツの労働条件の柔軟化を進める面をもっている。

ただしその一方では、パート・有期雇用からフルタイムに戻る人が相対的に少ないことが統計的に認められ、企業内でのキャリア形成の差や、雇用・所得格差の固定化という意味では、なお問題を残していることが指摘された。

2011年特別号(No.607) 会議テーマ●非正規雇用をめぐる政策課題/自由論題セッション:Aグループ

2011年1月25日 掲載