論文要旨 産業別労働協約の分散化によるドイツ型労使交渉の諸要素の変容と行方─労働組合と経営協議会を中心に

陳 浩(立命館大学大学院国際関係研究科博士後期課程)

ドイツには、協調的な労使関係が、米国発のグローバルな金融危機が雇用に与える打撃を最小限に防いでいる。この論文は、このような状況を踏まえて、ドイツの労使関係を分析し、とくにドイツ型二元的労使交渉制度の重要性を明らかにしている。

ドイツ型二元的労使交渉は、戦後のドイツにおける安定的な労働関係の形成に貢献したが、高度成長期以降、ドイツ経済が低迷を続ける中で、企業の経済状況を十分に考慮していないと、産業別労使交渉の硬直性に対する批判が次第に高まるようになった。そのような状況の中で、1980年代以降、ドイツの使用者は、産業別労働協約に、労働時間をはじめ、補足・修正条項を盛り込むようになり、産業別労働協約の事実上の分散化が進むことになった。この論文は、かかる過程を詳細に分析し、とくに労使交渉における経営協議会の役割に焦点を当て、ドイツの労使交渉が産業別のそれから企業レベルの経営協議会における交渉に次第に重心を移しつつある状況を描いている。とはいえ、産業別の労使交渉において、労働組合は依然として大きな影響力を維持しており、経営協議会における交渉にも、労働組合は深く関与している。産業別労働協約を維持しているが、労働組合は弾力的にコントロールしていることを、この論文は主張している。

2011年特別号(No.607) 会議テーマ●非正規雇用をめぐる政策課題/自由論題セッション:Aグループ

2011年1月25日 掲載