論文要旨 スウェーデンの労使関係─企業レベルの賃金交渉の分析から

西村 純(社団法人関西国際産業関係研究所専任研究員)

本稿は、過去(1960年代)と現在(1993年以降)における企業レベルの賃金交渉を通して、スウェーデンの労使関係の特徴を明らかにしている。1960年代、スウェーデンの賃金は、中央集権的な団体交渉システムの下、中央協約、産別協約、企業別協約の三つによって決められていた。しかしながら、その当時、出来高給の下で働いていた労働者は、職場において標準時間等を巡る交渉を通じて能率をごまかすことで、賃上げを行っていた。こうした賃上げは、賃金ドリフトの発生を引き起こした。上部団体の労使は、そうした賃上げを問題視していたが、それを抑えることができず、逆に賃上げ補填保障を通じて、賃金ドリフトを労働市場に波及させていった。この賃上げ補填保障は、労働市場の平等化を促進させたと言われているが、だとするならば、そうした平等化は、職場労働者の交渉力が動力となり実現したことは、見逃してはならない点だと思われる。1993年以降、労使関係は分権化し、賃金は査定込みの月給へと変化していく。しかしながら、賃金に査定が導入されたにもかかわらず、組合の企業レベルの交渉力は衰えておらず、査定をベースアップのようなものにしてしまっている。このように、この間、交渉形態や賃金制度は変化したが、企業レベルの組合の交渉力に大きな変化は見られず、今なお強い交渉力を維持していると言える。このことから、企業レベルの組合の強さこそが、スウェーデンの労使関係の特徴であると結論づけている。今後の課題として、組合が現在に至るまで交渉力を維持し続けている理由を、明らかにしていく必要があると思われる。

2011年特別号(No.607) 会議テーマ●非正規雇用をめぐる政策課題/自由論題セッション:Aグループ

2011年1月25日 掲載