特集解題「非典型雇用」

2002年8月号(No.505)

『日本労働研究雑誌』編集委員会

景気は回復基調にあると言われながら、失業率は下がる気配を見せず、雇用の不安定感が増している。そのような中で、本誌8月号は「非典型雇用」を特集テーマとして取り上げ、これからのわが国における雇用のあり方をどう考えるのかという問題を論じている。

これまでの雇用に対する考え方は、期間の定めのない雇用は安定しており、期間の定めのある雇用は不安定だというものであった。前者を正規従業員、後者を非正規従業員と呼び、前者が「主」で後者は「従」というとらえ方をしてきた。しかし、非正規労働者の割合は年を追うごとに増加し、多くの産業で基幹的な仕事を任されるまでになっている。これは、正規-非正規という従来通りの区分があまり意味をなさなくなっていることを表しており、雇用形態についての新たな視点が求められている。

古郡氏は、提言の中で、非典型労働が典型化していることを述べ、正規従業員ではない働き方を選択している人々を正面からとらえた政策や雇用管理の必要性を説いている。いろいろな場面で、「個人化」への対応が大きな課題だという指摘は重要である。

特集最初の小倉論文は、国際比較を通して非典型雇用の概念整理を試みている。非典型雇用の代表としてパート労働者をとると、その雇用労働者に占める比率は、国によって大きく異なる。また、1980年代以降の増減傾向もさまざまである。また、非典型雇用の定義は国によって千差万別であり、EU諸国でさえ一様ではない。そのような違いをていねいに整理しながら、小倉氏は非典型雇用の概念を手際よくまとめ、これからの研究課題を提示している。

馬渡論文は、派遣や請負といった「非直用」の雇用形態で働く人々が増加している点に注目し、ポスト・フォーディズムの時代に合った労働法体系の必要性を論じている。例えば、ある人が個人事業主として請負の仕事を得た場合、その人の「労働者性」が強くても、事業主であるという理由で労働者保護の規定が適用されない場合が多い。あるいは、労災の規定にもさまざまな不備が見られる。馬渡氏は、ILOでの議論を紹介しながら、これからわが国の労働法が直面する問題点を指摘している。

3番目の木村論文は、FSA(Flexible Staffing Arrangements)が組織のパフォーマンスにどのような影響を与えるかに関する実証研究である。FSAとは、パート、派遣、請負といった非正規社員を必要に応じて使っていくことであり、そういった従業員が増加すると組織運営上、問題が発生する可能性が指摘されている。木村氏は、連合総研が実施したアンケート調査を駆使して、生産・技術職場と事務・営業職場で計測される影響にどのような異動が見られるかについて分析した。生産・技術職場と事務・営業職場で少し異なる結果が出たが、両職場に共通して言えるのは、量的な要因によって生じる問題は少なく質的なデメリットの方が大きい点である。木村論文は、この分野の先駆的な業績だと言える。

最後の小林論文は、電機総研が実施した実態調査をもとに、電機産業で進行している非典型労働力の利用状況を描き出している。電機産業の製造現場では、工場の一部を請負労働者に任せることが一般的になりつつあり、場合によっては工場全体を請負に出してしまうこともある。このような労働力の非典型化に対して、電機連合はどのような方針で望もうとしているのかについても紹介されている。

日本において、非典型雇用は、これからも比重を増していくと考えられる。社会として、組織として、個人としてこの問題にどう対応すべきかを真剣に考える時期に来ていると言えよう。

責任編集 藤村博之・玄田有史・佐藤厚(解題執筆 藤村博之)