特集解題「介護労働者の現状と課題」

2002年5月号(No.502)

『日本労働研究雑誌』編集委員会

介護保険制度が始まって2年が経過した。昔から看護や介助を必要とする人は存在したので、介護という仕事自体は決して新しいものではない。しかし、介護がひとつの職業として成立したのは、「提言」にも述べられているように比較的最近のことである。しかも、社会保険という形で、介護労働が社会システムの一部に明確に組み入れられた。日本労働研究雑誌編集部は、新たな職業である介護労働をできるだけ正確に理解する必要があると考え、今月号の特集を組んだ。

鈴木論文は、介護サービスに対する需要について、確度の高い長期推計を行うための方法論を展開している。介護は、新しい雇用機会を提供する場として大きな期待を持って始まった。民間シンクタンクが次々に需要予測を発表し、巨大なビジネスチャンスがあるとして介護ビジネスがもてはやされた。しかし、現実には、需要はそれほど伸びておらず、介護保険市場の将来に対する悲観的な見方も出ている。鈴木論文は、介護保険制度導入後の在宅サービス介護費の増加を説明するには認定率の変化をどう推計するかが最も重要であることを見いだし、制度が定着すると現在よりも約20ポイント高い83.4%の認定率になるという結果を導き出している。

介護労働に対する需要があっても、労働供給が十分でなければサービス取引は成立しない。篠崎論文は、主として在宅介護を担当するホームヘルパーと施設で介護サービスを提供しているケアワーカーに対するアンケート調査の結果を使って、介護労働者がどのような意識を持ち、どのような点を問題だと感じているかを分析している。ホームヘルパーとケアワーカーで抱える悩みは少し異なっているが、両者に共通している問題点として、処遇が不安定であること、感染症対策を含めた安全面での配慮が不十分なこと、精神的・肉体的負荷が想像以上に大きいこと、医療行為への関与のしかたが不明確であることなどが指摘された。ホームヘルパー等の資格を持っている人は多いにもかかわらず、実際に働く人は慢性的に不足状態にある。労働供給を増やしていくために政府とサービス提供事業者が取り組むべき課題が明確に示されている。

介護労働は新しい職業であるため、具体的にどのような能力が必要とされているのかについてもわからない点が多い。小笠原論文は、ある民間事業者で雇用されている704名の職務について詳細な分析を行っている。小笠原は、入浴介助、食事介助、衣服整理・補修の3課業を3段階の難易度に分け、さらにそれぞれについて能力レベルを測るという手法を使って、職務遂行能力を明らかにした。その結果、初期段階の系統的な育成が重要であること、家事援助と身体介護の能力は同時に伸びていくこと、介護の能力には個人差があるにもかかわらず賃金面での差はあまり明確でないことが明らかになった。介護労働を一つの職業として成り立たせるためには、適切な育成と処遇の仕組みが不可欠であることが強調されている。

介護も労働である以上、労働法にしたがわなければならない。4つ目の菅野論文(紹介)は、ホームヘルパーの労働をめぐる法律上の問題点を整理している。社会保険への加入、時間外労働に対する正当な支払い、ヘルパーがサービス利用者に損害を与えた場合の責任の所在、ヘルパーの安全確保など、これまでの労働形態では考えられなかった問題が介護労働では発生する可能性がある。介護労働について、法律面でも解決すべき課題は多いことが明らかになった。

責任編集 藤村博之・大内伸哉・佐藤厚(解題執筆 藤村博之)