2000年 学界展望
労働経済学研究の現在─1997~99年の業績を通じて(全文印刷用)

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目次

出席者紹介

  1. 第1部 はじめに , 討論論文リスト
  2. 1. 雇用システムと労働市場
  3. 2. 仕事と家庭
  4. 3. 高齢者関係
  5. 4. 失業・転職・離職
  6. 5. 所得分配
  7. 6. 賃金・昇進制度・技能形成
  8. 7. 政策・法の評価
  9. 第2部 90年代後半期日本の労働経済研究─全体的特徴と今後の方向性
  10. 文献リスト

出席者紹介

玄田 有史(げんだ・ゆうじ)学習院大学助教授(司会)

1964年生まれ。東京大学経済学部卒業。学習院大学経済学部助教授。主な論文に「就業と失業─その連関と新しい視点」(『日本労働研究雑誌』共著、No.466、1999年)など。労働経済学・マクロ経済学専攻。

三谷 直紀(みたに・なおき)神戸大学教授

1949年生まれ。東京大学大学院理学系研究科修士課程修了。経済学博士(神戸大学)。神戸大学経済学部教授。主な著書に『企業内賃金構造と労働市場』(頸草書房、1997年)など。労働経済学専攻。

川口 章(かわぐち・あきら)追手門学院大学助教授

1958年生まれ。オーストラリア国立大学Ph.D.(経済学)。追手門学院大学経済学部助教授。主な論文に「コース選択と賃金選択─統計的差別は克服できるか」(『日本労働研究雑誌』No.472、1999年)など。労働経済学・ミクロ経済学専攻。

阿部 正浩(あべ・まさひろ)一橋大学助教授

1966年生まれ。慶応義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得満期退学。一橋大学経済研究所助教授。主な論文に「中高齢期における独立開業の実態」(『日本労働研究雑誌』共著、No.452、1998年)など。計量経済学・労働経済学専攻。


はじめに

玄田

労働経済学が一体どういう方向に向かっていて、どういう問題にチャレンジしているかを、経済学以外の労働研究者にもご理解いただけるような議論ができればと思っています。

今回取り上げる論文は、1996年10月から99年10月半ばまでに刊行されたもので、原則として、刊行されていて、一般に手に入る論文です。最近も多くの調査・報告がなされ、その中にすぐれた研究が多数ありますが、未公刊調査は今後の公表への期待も込め、対象には含めていません。

順番として、まずいくつか個別テーマを設定し、その研究動向を議論したいと思います。ミクロ的にもマクロ的にも多くの労働環境の変化があり、その背景や今後の動向を明らかにしてほしいという経済学への期待が高まっています。今回もリストにあるように多くの研究が出ていますが、われわれが一体どこまで期待にこたえているのかも率直に議論していただきたいと思います。

討論論文リスト

日本労働研究雑誌に掲載された論文は、当機構「論文データベース」で全文をご覧になれます。

1. 雇用システムと労働市場(阿部)

  • 櫻井宏二郎(1999)「偏向的技術進歩と日本製造業の雇用・賃金」『経済経営研究』日本開発銀行設備投資研究所、Vol.20-2
  • 玄田有史(1999)「雇用創出と雇用喪失」、中村二朗・中村恵編『日本経済の構造調整と労働市場』日本評論社
  • 中馬宏之(1997)「経済環境の変化と中高年層の長勤続化」、中馬宏之・駿河輝和編『雇用慣行の変化と女性労働』東京大学出版会
  • 三谷直紀(1997)「高齢者就業と自営業」『企業内賃金構造と労働市場』勁草書房

2. 仕事と家庭(玄田)

  • 永瀬伸子(1997)「女性の就業選択─家庭内生産と労働供給」、中馬宏之・駿河輝和編『雇用慣行の変化と女性労働』東京大学出版会
  • Nakamura, Jiro and Atsuko Ueda(1999) “On the Determinants of Career Interruption by Childbirth among Married Women in Japan,” Journal of the Japanese and International Economies, Vol.13, No.1
  • 森田陽子・金子能宏(1998)「育児休業制度の普及と女性雇用者の勤続年数」『日本労働研究雑誌』No.459

3. 高齢者関係(川口)

  • 大橋勇雄(1998)「定年退職と年金制度の理論的分析」『日本労働研究雑誌』No.456
  • 小川浩(1998)「年金が高齢者の就業行動に与える影響について」『経済研究』Vol.49、No.3

4. 失業・転職・離職(川口)

  • 阿部正浩(1999)「企業ガバナンス構造と雇用削減意思決定─企業財務データを利用した実証分析」、中村二朗・中村恵編『日本経済の構造調整と労働市場』日本評論社
  • 太田聰一(1999)「景気循環と転職行動:1965~94」、中村二朗・中村恵編『日本経済の構造調整と労働市場』日本評論社
  • 照山博司・戸田裕之(1997)「日本の景気循環における失業率変動の時系列分析」、浅子和美、大瀧雅之編『現代マクロ経済動学』東京大学出版会

5. 所得分配(玄田)

  • 川口章(1999)「コース選択と賃金選択─統計的差別は克服できるか」『日本労働研究雑誌』No.472
  • 堀春彦(1998)「男女間賃金格差の縮小傾向とその要因」『日本労働研究雑誌』No.456

6. 賃金・昇進制度・技能形成(三谷)

  • 馬駿(1997)「技能形成のためのインセンティブシステム─日本の電機企業M社の事例研究を通して」『日本労働研究雑誌』No.450
  • 中馬宏之(1999)「技能蓄積・伝承システムの経済分析」『日本労働研究雑誌』No.468

7. 政策・法の評価(三谷)

  • 中馬宏之(1998)「『解雇権濫用法理』の経済分析─雇用契約理論の視点から」、三輪芳朗・神田秀樹・柳川範之編『会社法の経済学』東京大学出版会
  • 大竹文雄(1999)「高失業率時代における雇用政策」『日本労働研究雑誌』No.466

1. 雇用システムと労働市場

論文紹介(阿部)

櫻井宏二郎「偏向的技術進歩と日本製造業の雇用・賃金」

櫻井論文は、SBTC(skill-biased technological change; スキル偏向的技術進歩)に注目し、IT(information technology; 情報技術)の進展がわが国の労働市場にどのような影響を及ぼしたのかを分析している。この論文は、公表されている「工業統計表」を利用するが、産業を4ケタ分類(428業種)までさかのぼることで緻密な分析を行っている。その結果、 [1] 80年代後半の日本の製造業では非生産労働者のシェアが上昇している一方で、生産労働者と非生産労働者間の賃金格差に変化は見られないこと、 [2] 非生産労働者のシェア変化は過半が産業内で起きていること、 [3] その変化を説明する要因としてSBTCが考えられること、などを観察したうえで、 [4] 技術進歩の代理変数であるコンピュータ投資比率が非生産労働者の賃金シェア変化に大きく影響していること、 [5] 賃金格差があまり変化しなかったことについては、非生産労働者への需要シフトが労働供給要因により相殺された、ことを確認している。

玄田有史「雇用創出と雇用喪失」

本論文は、最近注目されている雇用創出・喪失分析の手法を用いて、近年の労働市場の変化を検討している。この手法は労働需要側の視点を重視したものであると同時に、供給側の視点からの失業分析と対になって分析が精力的に進められている。玄田論文は「雇用動向調査・事業所票」の個票を利用して、事業所レベルの雇用変動をとらえることに成功している。そこで得られたファクトファインディングは、 [1] 日本の雇用創出と喪失はOECD諸国に比べて少ない可能性がある、 [2] 雇用創出・喪失は小企業ほど大きい、 [3] 個別事業所間での雇用創出率・喪失率の違いを企業規模や産業属性だけでは説明できない、 [4] 雇用喪失による離職は会社都合による離職に比べて相当大きい(特に小企業で顕著)、 [5] ひとたび雇用が喪失すると元の水準に戻ることは難しく、1990年代前半に発生した雇用喪失の8割程度が2年後も失われたままである、などである。

紹介者コメント

阿部

「雇用システムと労働市場」ということで、労働市場のマクロ的側面から見て最初に、櫻井論文と玄田論文を紹介したいと思います。

まず、先進諸国の労働市場で1980年代以降に高学歴・熟練労働者に対する需要が増え、一方で低学歴・未熟練の需要が減ってきたわけです。その結果、イギリスやアメリカでは熟練・未熟練の賃金格差が拡大し、一方で欧州は低学歴者や未熟練労働者の失業率が上昇した。こうした観察事実に関して労働経済学者がどんな研究をしてきたかというと、一つはこういう事態を起こした原因を分析する研究、もう一つは、国によって失業率が上がったり、賃金格差が拡大するのはなぜかを分析する研究がある。

櫻井論文は、労働市場の構造変化の要因として基本的にはスキル偏向的技術進歩に注目し、分析している。構造変化の原因には技術革新だけではなくて、国際競争もあるはずですが、櫻井論文では取り上げていません。もちろん、それにはいくつか理由があると思うんですが。

玄田

意外に国際競争を取り扱った労働研究って日本には少ないですね。

阿部

ええ。たとえば樋口・玄田論文注1のように中小企業を対象にした分析がありますけど。国際競争については重要な論点でしょうね。

僕がこの論文に注目したもう一つの理由は、櫻井さんが「工業統計表」の公表データを利用している点です。産業を428業種まで細かく分け、労働者の移動や生産性の変化を見ていることには感心しました。僕たちはすぐ個票で分析しないとまずいと思うのですが、それを集計公表データで分析している。

玄田

個票データがほとんど使えないころはこういった研究が多かったんだけど、今は珍しくなっている。

阿部

珍しいですよね。しかし、その努力がよくて……。

玄田

個票データを使うのが増えたこと自体はいいことだけれども、こういう研究の重要性も評価されていいと思う。

阿部

最近、失業率が上がってきたわけですが、もう一方で企業経営のダイナミズムが失われつつあるとも言われています。後で三谷論文を紹介しますが、自営業の分析でもそういう問題点から分析が進んでいくんだろうと思います。

ところで、企業経営のダイナミズム、という、どちらかというと労働需要側から失業構造をとらえる形で、雇用の創出と喪失を分析しているのが玄田論文です。

この論文では雇用動向調査の事業所票の個票を利用して、事業所レベルでの雇用変動を分析しています。従来の研究の多くは失業の変動を供給側から分析してきたわけですが、最近では需要側の行動でとらえて、しかもミクロレベルで見ていこうというスタイルが出てきたことは重要ではないかと思います。

話題としては、学界全体について言えることでもありますが、最初の櫻井論文について言ったように、国際競争が労働市場に与えたインパクトが大きかったと言われているにもかかわらず、それがちゃんと分析されている論文をあまり見かけません。

それから、日本の労働市場の需要構造が変化した結果、失業率が高まったのか、賃金格差が大きくなったのか、という点をちゃんと分析したい。そうすると、やはり国際比較をやるべきではないかと思いますが、この3年間で国際比較をやっている文献は、今回の学界展望ではあまり登場してこなかったなというのが、残念です。

もう一つ、日本の雇用システムに関しては比較制度分析など労働経済学以外でも分析されているわけですが、理論的仮説をしっかり実証分析する必要もあるのではないかと思いました。

討論

玄田

ありがとうございました。櫻井さんのも僕のも、労働市場のマクロ的側面を扱った論文です。ただ阿部さんが言ったように、いわゆるマクロ問題をマクロデータでやる研究がすごく減っていて、雇用創出・喪失研究もミクロデータがなければできない状態になっている。これは最近の労働研究に関する一つの大きな特徴だと思います。

知的熟練と賃金格差

三谷

この2本とも最近の日本の労働市場問題をマクロ的にとらえていて、非常に問題意識の高い論文でおもしろいと思います。

櫻井論文に関して、先ほどちょっと阿部さんもいわれたように、比較制度分析などでこれまでいろいろ知られていることがあるわけですね。たとえば賃金格差にしても日米に差がある。櫻井論文によれば、日本では需要側で賃金格差が拡大する傾向にあるけれども、供給サイドでの進学率上昇などにより、それが相殺されているという結論になっているわけです。しかし、その点はまだ分析する余地がたくさん残っているんじゃないかと思います。事業所や企業の中での配転、あるいは技能形成のやり方など、日米で随分と違うということが明らかにされていますから、それらが賃金格差にどう影響しているのか。これは政策的にも非常に重要な点ですから、まだまだやる余地があると思います。

玄田

アメリカだと熟練・未熟練は学歴で分けられて、そのレベルが入職段階ですでに確定しているニュアンスで受け取られがちですが、日本の場合、熟練・未熟練はむしろ入職後の訓練機会の影響を大きく受ける。だから、熟練労働者が今後増えるかどうかは、おっしゃるように技能形成自体がどうなるかと密接に関係しています。

阿部

日本では、知的熟練と言えば高卒の現場の方たちをイメージしますよね。熟練を持っている人たちをどう考えるかという視点も重要です。櫻井論文では学歴だけで分析している。

三谷

かなりステレオタイプなとらえ方ですね。

玄田

そういう意味では、阿部さんが言われた高卒の知的熟練を念頭に置いた研究はあるのですか。最近は中高年ホワイトカラーに意識が向いていますが、ブルーカラーで知的熟練者という部分の研究はどうなっているのでしょうか。

三谷

「6. 賃金・昇進制度・技能形成」で、それに関連する論文が出てきますが、ただ、統計的計量的な分析に乗るような論文は、割に少ないですね。

阿部

計量分析をどうやればいいのかというのも問題ですね。

玄田

データの問題ですか。

阿部

データの問題なのかもしれませんが、どういう視点から分析して、実証分析の俎上にのせるかというのも、難しい問題だと思います。たとえば、賃金格差を分析するにしても、勤続や学歴などの変数を使って、その収益を測ってきたわけですが、同じ学歴でも全然違う人たちがいるというところが重要だと思います。

三谷

ちょっと脱線しますが、最近のフランスの賃金構造調査の中に企業内の職場組織や技能形成に関する項目があります。たとえば「変化と異常への対応を行うのは誰ですか」といった知的熟練に関する質問項目なんかもあって、やや粗いのですが賃金構造との関係を分析できるようなデータもあるわけです。

玄田

それは政府統計ですか。

三谷

政府統計注2です。こういったデータが日本にもあれば、計量的な手法で知的熟練を分析できて非常におもしろいと思うんですが……。

阿部

櫻井論文に戻ると、需要側から分析する場合、生産性というのは重要な一つの指標で、それに賃金や雇用量も必要な指標です。この三つの指標を利用して分析したい。ところが、個票で需要サイドを分析するのは難しいなと思うのは、現状の日本のデータでは、賃金は「賃金センサス」が、生産性に関するものは「工業統計表」がとっている。われわれが本当に必要なのは、それらをマッチングしたデータです。そういう統計が出てくると、生産性がどれぐらい上がったのか、それが分配面で賃金にどうかかわっているのか、という分析ができると思います。

玄田

最近、有価証券を使う研究が増えてきました。有価証券の財務データは、賃金や雇用に関する定義が非常にラフです。財務データでも労働関連の統計をもっと整理しようという議論をそろそろ始めないといけない。金融と労働で問題意識が重なってきても、今のデータでは限界がある。

三谷

玄田論文に関してですが、雇用創出・雇用喪失という分析手法は、たしかに雇用創出のダイナミズムをとらえて非常にいいんですが、こういう手法だけでは、同じ産業、同じ規模の中で、片方の事業所では雇用が伸びて、片方はどんどん縮小していっているという実態はわかっても、その変動要因は何なのかというのが結局はわからない。たとえば、日本で比較的事業所間の配転が多いのは他のOECD諸国に比べて雇用創出率が少ないことに関連があるのかどうか。今後の研究の方向として、そういうことをやるのも非常におもしろいのではないか。

玄田

後の阿部君の論文もそうですが、企業ガバナンスも個別企業の雇用調整に影響を与えているかもしれない。今後もっと増えていくべき研究の方向ですね。……。川口さん、座談会なんだから、うなずくだけじゃなくてしゃべらなきゃ。

阿部

「うなずく」って書いておこうか(笑)。

川口

(笑)。この玄田論文は、僕が担当した戸田・照山論文と非常に関連があります。戸田・照山論文はマクロの分析ですけれども。マクロで見た雇用の増減と、玄田論文のようにミクロで見た増減と量が全然違うんですね。だから、三谷さんはちょっと厳しいコメントをされましたが、僕としては、やはりこういう研究があるというのは、摩擦的な失業の重要性を分析するうえで非常に重要だと思います。

雇用創出に関する政府統計整備の必要性

玄田

雇用創出に関する統計は、最終的に政府で整備すべきだと思います。失業率や有効求人倍率がマクロ全体の労働市場の動向を表すものとして注目されていますが、この二つだけでは表せない変化もある。今後、経済構造が変化していくと、雇用創出も雇用喪失も同時に増えるでしょうが、その状況を客観的に示せる統計を政府が整備する時代になっている。

阿部

ホルティワンガーたちがつくったデータ注3は米国政府がつくっているんですか。

玄田

Bureau of Statistics注4

阿部

日本でもあのようなデータをきっちり作るというのが重要ですよね。

玄田

最近、会社ができることによる雇用創出とか、会社がつぶれたりすることによる雇用喪失にすごく関心は集まっているけど、それを議論するのに耐えうる年次レベルのデータは日本にはまだない。だから、みんながほんとうに知りたい、事業所新設が雇用創出に与えるインパクトとか、事業所がなくなることによる雇用喪失のインパクトというのを正確に測れないまま、何となく「緊急雇用対策で70万人雇用創出」といった言葉だけがひとり歩きしてしまう。これに対しては経済学者がもっと「客観的な評価をするためのデータを創ろう」という声を上げていくべきだと思うんだけど。

三谷

私も全く同感です。行政の持っている業務データがもっと使えないかとも思います。たとえば雇用保険の適用関係のデータなどを、もっと使っていったらいいのではないかと思いますね。

玄田

使えないでしょう、雇用保険の業務データは。

三谷

ドイツの場合、ニュルンベルクの連邦雇用庁に同じような社会保険のデータがあって、それをうまく使って、雇用創出・喪失の分析用に非常にいいデータをつくっていますよ。だから、日本でももっと社会保険の業務データを使って、分析できるようになればよいと思います。もちろん、プライバシーの保護には十分注意しなければいけませんが。

論文紹介(阿部)

中馬宏之「経済環境の変化と中高年層の長勤続化」

本論文は、個票データをつぶさに観察することで、1980年代に中高年層の長期勤続化傾向が進展していたことを明らかにしており、興味深い研究と言える。具体的に長期勤続化の指標として、「正社員比率」「平均勤続年数」「終身雇用者比率」「終身雇用者の残存率」を用いているが、80年代に入り、 [1] 民間企業の多くがパートタイマー志向の強い女性労働力を多く活用することで雇用柔軟性を確保する一方で男性の正社員比率には変化がないこと、 [2] 中高齢者の平均勤続年数が延びており勤続年数の長期化傾向が観察されること、 [3] 年齢や学歴や企業規模にかかわらず終身雇用者比率は年々高まっていること、 [4] 各人が属するコーホートによって動きがまちまちであるが、終身雇用者の残存率は平均的に高まっていること、が観察される。さらに、中馬論文では年齢や企業規模、学歴、地域、産業の点から長期勤続化の要因についても検討を行っている。一般には労働市場の流動化が高まっていると言われているが、中馬論文での観察事実によればむしろ終身雇用制度が広範に普及しているのではないかと考えられる。

三谷直紀「高齢者就業と自営業」

三谷論文では、まず、わが国の高齢者層の労働力率は欧米諸国に比べてかなり高いが、それには高齢自営業主の存在が大きな影響を与えていることを公表データから明らかにしている。また高齢自営業主の多くは若いころから自営業に従事しており、雇用対策の一つとして独立開業を促進するためには若年層に対する独立・開業支援を行わなければならないと指摘している。またアンケート調査の結果から、 [1] 勤務経験の有無によって開業者の属性が異なること、 [2] 開・廃業率の高い業種や新しい職業での開業者が多いこと、 [3] 開業者の中で他社経験がある人の多くは中小企業出身者であること、 [4] 開業者に大卒者は少ないこと、 [5] 企業の退職管理を機に開業した人はわずかであること、 [6] 開業後2~4年は開業者の経営は厳しいが、公的融資により切り抜けたとする人の割合が高いこと、などをつまびらかにしている。最後に、自営業者の年収を分析しているが、 [1] 開業者と事業継続者ではそのプロファイルの形状が異なること、 [2] 開業者のそれは一見して年功カーブに見えるが、 [3] 開業した年齢にかかわらず事業が軌道に乗るまでには市場の厳しい選別が待っており、それが年収に大きな影響を及ぼしている、といった点を明らかにしている。

紹介者コメント

阿部

中馬論文と三谷論文を紹介します。

巷では労働市場が流動化しているのではないかと言われていますが、中馬論文は個票データから80年代に中高齢者の長期勤続傾向が強まってきたということを明らかにしているのが一番の特徴です。

最近は、中高齢者の雇用危機と言われていますが、中馬論文では全然逆のことが起きていると言っている。世代効果を考える論文が最近は出ていますが、それらと中馬論文をどう比較検討するかというのも重要だと思います。中馬論文の観察事実もよく見ると、世代によってちょっと動きが違っている。

もう一つは、最近の国会でも中小企業をどうしていくかということが重要になっていますが、開業率は日本では依然として低いわけです。そのなかで中小企業や自営業などのダイナミズムを取り戻すためにはどうしたらいいかという議論はやはり重要だと思います。

三谷論文はそれを意識した分析で、タイトルに高齢者とありますが、結論は高齢者ではないですよね。つまり、高齢になってからでは独立開業には遅いというところにインパクトがあって、「そうか!」と思いました。三谷論文はアンケート調査を独自にされていますが、高齢者といいながら、企業の退職管理を機に開業をした人はわずかであって、自分から開業している人が多いというのが、こういうデータで確かめられたというのは興昧深かったですね。

それから、開業後、2年から4年間は新規開業者の経営は厳しいけれども、公的融資で切り抜けたとする人の割合が高いということは、結果的に公的融資は結構効いているということです。労働経済には直接関係ないけれども、民間の銀行はベンチャーキャピタルに関して何やっているのかなと、読んでいて思いました。銀行が独立開業にどのように影響しているのかというのが次の研究課題だろうと思います。

さらに興味深いのは、自営業者の年収構造を分析していて、開業者と事業継続者では形状が違っていることを見いだしている。開業者のほうは、一見して年功的に見えるけれども、実際には開業した年齢に関係がないから、年功的とは必ずしも言えない。結局、事業が軌道に乗るまでは低い所得に甘んじて、事業が軌道に乗ると、所得が上がっていく。今まで自営業というのは、どちらかというと中小企業論や二重構造論的に語られることが多かったのですが、別の視点からの分析が出てきました。独立開業=転職の一形態というとらえ方ですね注5。もう一つは、事業家・経営者としての能力を分析して、それが所得にどうはね返っているのかという分析も興味深いなと思いますね。

討論

独立開業と雇用創出

玄田

労働経済学のなかで自営業研究が増えてきているのも最近の特徴ですね。阿部さんも自営業を研究しているから、三谷論文にご不満があればどうぞ。学界展望は、褒めるのとけなすのと両方やるのが大事だから。

阿部

不満よりむしろ、僕たちは高齢者だけのデータしか使っていないので、三谷論文のおかげで、見えなかったところが見えたなと思いました。

川口

三谷論文に関して一つお聞きしたいのは、先ほどの雇用創出の問題と関係するんですが、自営業がどの程度、雇用創出に役立っているのかです。たしかOECDの研究注6には、雇用への波及効果は小さいと書かれていましたが、やはり雇用者なしの自営業者が多く、あまり雇用創出には影響がないのでしょうか。

三谷

たしかに自営業に限ればやはり規模が小さいですから、それほどインパクトは大きくないかもしれません。けれども、どんな企業でも最初に開業する段階は非常に小さいところで始まりますからね。そこのところの雇用がやはり増えていかないと、全体の雇用が増えていかないというのは明らかなことですね。1980年代の雇用創出・喪失の研究などを見ると、いわゆる既存事業所のネットの雇用の増加より、新規開業による純増のほうがかなり大きい。だから、そういう意味でも、自営業に限らないで、中小企業として、もう少し広い範囲でとらえれば、やはり雇用創出に非常に重要だと思いますね。この論文でも分析対象を自営業主に限ってはいません。

玄田

三谷論文は若いうちに自営業を開業することが必要という趣旨ですが、実際、日本では若い自営業主はどんどん減っている。40-44歳の非農林業自営業者は、91年に112万人いたのが98年には半分の56万人になっている注7。若いうちに開業する人が減っているということは、高齢者で自営業になるという人も将来的に減ってくることになります。

ところで、30代、40代の自営業がどんどん減っていますが、減った自営業者は一体どこに行ったのでしょうか。

三谷

商店や農業でも同じことは言え、そういう人たちが雇用者になっているということはあると思います。ただ、ここら辺のかっちりした分析はあまりないですね。

玄田

政策的にもどう独立開業を進めるかが注目されますが、実際は、どうやって円滑に廃業するかも重要でしょう。事業がダメになったとき、どういう政策的なサポートが経済学的にはありうるのか、まだわかっていないよね。

三谷

同感です。

中高年齢層の長期勤続傾向とその原因

川口

中馬論文は、ファクトファインディングとして、通説で言われているのと実際は違うんだよというのは、すごくインパクトがありました。どうしてそうなるのかというのを、これからもっと分析しないといけないと思います。その一つの説明としては、さっき阿部さんが言われたような世代効果ですね。後に出てくる太田論文や、玄田論文注8大竹・猪木論文注9などの世代効果の論文を読むと、就職したときの景気の善し悪しが、その後の離職率や賃金にかなり影響があるということです。今の中高年は高度成長期に就職した人が多いのですが、今後、もしかしたら変わってくるかもしれません。

阿部

最近、若年者の離転職行動はものすごく複雑だという論文注10がありました。複雑すぎるために、ジョブサーチ理論などで説明するのは難しいというのです。

若年層がどう労働移動しているのかを細かく見るのは重要です。僕は世代効果を考えたときに、別のアプローチとして国際比較が必要だと思っています。日本で世代効果が強いのかどうかを、国際比較を通して見てみる。それから、世代効果が国によって違うのはなぜかを考える。

三谷

外国にも世代効果があるという論文はあります注11。きちんと国際比較をしないとまた日本だけが特殊だという偏見に陥る可能性がある。

阿部

そうですね。世代効果がなぜ起こるのかというのも、やはり調べる必要がありますね。

三谷

私も川口さんと同じで、どうしてそんなに中高年層の長期化が進んでいるのか、その原因をもう少し究明する余地が─言い換えれば研究の材料が─あるのではないか。世代効果だけでなく、景気の動向や、あるいは定年延長といった政策効果もあると思う。そういうものがどうなっているのかというのも、やはり調べていくべきだし、調べていける、そういう材料を提供しているのではないか。もう一つは、こういうふうに80年代に中高年の長期勤続化が進んだわけですけれども、同時に賃金プロファイルの傾きがむしろ急になっていったでしょう。

玄田

いつごろからですか。

三谷

70年代から80年代にかけてです注12。こういうふうに中高年化していけば、本来でしたら寝るというのが普通ですよね。ところがほとんど寝ないでむしろ立っていったんです。その後、通説どおりほんとうに寝ていったのですね。だから、そこらあたりの賃金プロファイルとの関係を理論的にも実証的にも分析するのは非常におもしろいんではないかと思います。

阿部

もう一つ、情報化が労働市場にどういうインパクトを与えるかを、もう少しきちんと分析しておくべきではないでしょうか。清水(方子)さんたちがやっている分配の問題注13もありますが、それだけではなくて、教育はどういうふうに影響するのかとか。

玄田

コンピュータの使用が賃金とどう結びついているのかも、関心の割にこれからといったところだね注14


2. 仕事と家庭

論文紹介(玄田)

永瀬伸子「女性の就業選択」

数多い女性研究のなかでも、引用されることの多いのがこの論文である。従来、女性研究では就業の有無、もしくは労働時間の決定という観点が多かった。それに対し、正社員、パート、家族従業、内職、専業主婦といった多様な選択肢のなかから、就業がどのような要因によって決定されるかを「1983年職業移動と経歴(女性)調査」(雇用職業総合研究所)の個票データから実証分析。そこから正社員と非雇用就業の賃金格差を伝統的な補償賃金差理論で説明できることを確認した。しかし同時に正社員とパートの間の格差はこの理論では説明できず、新たな理論的枠組みが必要という問題を提起している。ここでは若年時点における「正社員の割り当て現象」を有力仮説として示唆しているものの、その発生原因とパート労働との関係については今後の課題として残されている。

Nakamura, Jiro and Atsuko Ueda, “0n the Determinants of Career Interruption by Childbirth among Married Women in Japan”

乳幼児を持つ女性が正社員を継続するか否かに強い影響を及ぼしている要因を「1992年就業構造基本調査」を用いて実証分析した論文。この分野の研究には個票データの使用が不可欠であることを再認識させられる。考えられうる様々な要因のうち、就業決定に特に強い影響をもたらすのが本人の学歴、親との同居、そして地域における保育施設の充実度である。学歴の高い女性は就業断念の機会費用が高く、同時に離職した場合の再就職コストが低学歴者に比べて高いことを示唆している。さらにM字型の女性労働力率の解消には、保育施設の充実が有効である一方、高賃金や短時間労働が就業継続を促すものの、その影響は学歴や保育施設に比べて強くないことも指摘している。

残された課題として、産業や企業規模による女性の就業継続の違いをどのように説明できるかという問題があり、大企業や金融業で就業継続の傾向が弱いのは、何らかの理由によって未婚女性との代替関係が強いためか、それとも別の理由によるのかは未解決の問題である。

森田陽子・金子能宏「育児休業制度の普及と女性雇用者の勤続年数」

育児休業制度が個々の女性の就業継続や出生に与える影響を分析。上記2論文では未就学児数を外生変数として扱い、育児休業制度の利用有無もデータに含まれていない。この点を「女性の就業意識と就業行動に関する調査」(日本労働研究機構、1996年3月)のやはり個票データを用いて分析した。

その結果、動学モデルを用いた理論(動学モデルを理論的に明示している日本の労働経済学研究は意外なほど少ない!)を前提に、育児休業制度利用は育児コストを低下させ、結婚・出産後も継続就業意志のある女子雇用者の勤続年数を延ばすことを確認した。具体的には、育児休業制度の利用は女子正規雇用者の勤続年数を延ばし、同時に出生児数を増加させること等を指摘し、年功賃金体系の下では育児休業制度の普及が男女間賃金格差の縮小をもたらす可能性があることを示唆している。

残された課題として、それではなぜ企業によって育児休業制度に対する取り組みに違いがあるのかが不明であることがある。なぜ100-999人程度の中堅規模の企業での取り組みが最も活発であるのかを明らかにすべきであるし、さらに女性の就業選択で考慮される女性の特徴が、年齢、学歴、同居などに限定されている点も今後改善の余地あり。同じ年齢、学歴でも育児休業制度を利用できる(する)女性とそうでない女性の違いはどこにあるのかについても今後の課題であろう。

紹介者コメント

玄田

「仕事と家庭」ということで簡単に解説すると、これらは広い意味で女性の問題だと思います。女性の就業選択に関する論文が90年代に数多く輩出されているというのは、今回の文献リストを見ながらつくづく思いました。余談ですが、『日本労働研究雑誌』に掲載された投稿論文を見ても実力のある女性労働経済研究者が増えており、そのことも女性研究拡大の一翼をなしているように思えます。おそらく、その原因は、雇用機会均等法や育児休業制度等の制度変更が労働に与えるインパクトを知りたいという背景があるのだと思います。もう一つには80年代に普及すると思われたコース別人事制度がうまく機能しなかったのはなぜかというのが、労働経済学者の関心を呼んだのでしょう。

ここで取り上げた論文は3本です。

従来の研究ではデータの制約もあって就業の有無とか、労働時間の選択という観点からの分析が多かった。一方、永瀬さんが注目するのは、正社員、パート、家族従業、内職、専業主婦等の多様な選択肢からのチョイスを念頭に置いている点です。それが可能になったのは、「職業移動と経歴調査」という魅力的な個票データが使えるようになったことが大きな原因です。

次は中村・上田論文で、これは乳幼児を持つ女性が正社員を選ぶか選ばないかを検証したものです。「就調」(総務庁統計局「就業構造基本統計調査」)の個票が使われていて、女性の就業選択や、仕事と家庭を分析するには、もう個票データがなければこの分野に参入できないのかと、改めて思いました。

このようなデータを用いてここでは、乳幼児を持っている女性が就業を選ぶかどうかは、本人の学歴や、親との同居、保育施設が充実しているかなどによって明確に影響されていることを厳密な形で確認しています。日本の女性労働力の特徴だと言われるM字型の労働力率が解消の方向に向かうとすれば、それには保育施設の充実が不可欠という政策的なインプリケーションも明快です。

3番目の森田・金子論文で焦点を当てているのは、研究の一つの傾向でもある「制度分析」です。具体的には、育児休業制度が与える影響を考える。育児休業制度の重要性を分析しようとする論文は、森田さんたち以外もいろいろな方が積極的にチャレンジされています。

ここでまず思ったことは、理論研究では動学モデルを使うことが今や一般的であるにもかかわらず、実証研究では静学的な発想から脱していない研究が多いと改めて思いました。その意味でこの論文は例外で、動学モデルを念頭に育児休業制度がその後の勤続にどういう影響を及ぼすのかという研究です。動学モデルを明示的に扱っているという意味では、今後の理論仮説と実証研究の方向性を暗示しているものの一つと思っています。

その結果としては、やはり育児休業制度が女性の勤続年数に重要な影響を持っている。加えて出生児数、子供がいるかいないかという状況を経済外生的にとらえる場合が多いけれども、出生児数も内生変数としてとらえてみると、育児休業制度は出生児の増加に効果をもたらしている、と指摘しています。

今後の研究としてどういう方向があるか考えると、中村・上田論文とも関係するんですが、企業側のあり方によって取り組みがどう違うかということを理論的に明らかにするという重要性がここにも出ている。さらにこういう研究では、年齢や学歴、親の同居の有無が注目されるけれども、実は同じ年齢や学歴でも、育児休業制度を利用する女性とそうでない女性ではこれこれの点が違うといった、女性側の違いをもっと細かく見ていく研究も今後ますます必要になってくるという印象を持ちました。

討論

動学モデルとパネルデータ

川口

玄田さんが動学モデルの重要性を指摘されましたが、僕も全く同感です。労働市場がスポットマーケットに近いところだったら、静学モデルでも結構うまく説明できるでしょうが、日本みたいに長期雇用があるところでは、やはり労働者はライフサイクルで考えると思います。そういう点で、動学モデルを用いないとなかなかうまく説明できない場合が多いと思います注15。たとえば永瀬論文も静学モデルですが、推定の結果、未就学児童数が多いほど女性正社員の労働時間が長くなっています。これも、静学モデルでは説明つかないですね。動学モデルを使って、現在の就業形態が将来の就業形態へ与える影響を分析する必要があると思います。玄田さんが指摘された動学モデルの必要性というのは、全くそのとおりだと思います。

ただ、動学モデルをうまく利用するためにはパネルデータが必要です。森田・金子論文でも動学モデルは用いているけれども、データの制約があって、それを全部生かし切っていません。今後、女性の就業問題を研究するには、パネルデータが必要だと思いました。

阿部

森田・金子論文は女性だけの効用関数を考えていますが、制約条件も女性だけです。ところが、今までの研究でダグラス=有澤法則が注目していたように、やはり核所得者や、夫や、他の世帯構成員の賃金や労働供給を考えておくべきでしょう。効用関数や予算制約を世帯単位で考えるべきなのか、個人単位で考えるべきなのかは議論があると思います。

それから、金子さんたちが考えているモデルとは別に、ゲーム理論で考えるモデルもあるのではないかと思うんです。たとえば女性に子供ができたときに、家族の中で誰が働くか働かないかの意思決定は逐次的に交渉しているのではないか。金子さんたちのように、労働供給の最初の段階で何人の子供が最適だとかを決定しているというモデルよりも、現実的で含蓄のある分析ができる。パネルデータを使った実証研究では、ポイント、ポイントで家族内部の意思決定を見ていく分析が行われています。それを積み重ねていくという形でモデルもつくれないだろうかと思うんですけど。そういうモデルはありますか。

川口

以前はよく、企業はブラックボックスだと言われていたでしょう。でも最近は、かなり企業の中まで分析されています。ところが、いまだに家庭はブラックボックスに近いんじゃないでしょうか。たとえば夫婦間の意思決定や不平等、権力関係を分析した経済学の理論は、僕が知っている限り、ほとんどない。夫婦間のバーゲニングの理論はありますが、あまり現実の分析には役に立っていない。

そういう研究は他の学問にはないのかなと思ったら、社会学では、夫と妻の関係や、親と子の関係など家庭の中でどういう資源配分がなされているかという研究がなされていて、経済学にも生かすことのできる理論やデータが結構あるように思います。今後の研究課題になるのかもしれないけれど、家庭の中での人間関係を経済学的に分析するというのは、重要なのではないでしょうか。

企業のファミリーフレンドリー施策

三谷

非常におもしろい分析で、供給側の分析ですが、結果を見ると、需要側の対応も見えていますよね。たとえば中村・上田論文では、大企業、金融業で女性の就業の中断が多いとか、あるいは森田・金子論文で言えば、中小企業で最も育児休業制度に対する取り組みがなされているけれど、大企業ではどうもあまりなされていないなどです。その辺の、企業側女性に対する育児休業や、もっと言えば、ファミリーフレンドリーですか。(笑)

玄田

そう、ファミフレ注16

三谷

そういった女性に対する企業の施策の分析も重要だと思います。どうして大企業でこんなにファミフレ度が低いのか。

それから、もう一つ、今不況だからということなんでしょうが、労働時間に関する分析が少ないですね。女性の就業に関しては、労働時間が非常に大きく効いているんですね。

労働時間から見た女性就業研究

玄田

労働時間の研究ってない。

三谷

ほとんどないですね。特に女性が正社員で働くと言ったときに、労働時間が短いということが、正社員で働けることの非常に大きな条件になっていると思います。たとえばヨーロッパでは、パートタイマーの労働時間の選択に非常に多様性があるけれども、日本ではあまりないですね。労働時間の分析からの女性就業というものをもっと分析できるのではないかということです。

玄田

さらに研究すべきは、失業との関係でしょう。最近の失業率が上昇した原因もわかっていない部分がたくさんあるけど、重要なのは女性が失職しても非労動力化する傾向が弱まったことです。

一体、この背景には何があるのかは、いくつかの仮説がありうる。高学歴化の結果、非労働力化する機会費用が高まったのか、世帯主の所得が低下したのか注17、何が要因なのかはまだ不明です。これは早急に誰かが研究すべきテーマでしょう。

阿部

それは、ある意味で世代効果でしょう。僕がデータをいろいろいじくってみた結果、夫の所得の(妻の労働供給への)弾力性が若い世代で小さくなっているみたいですね。就業構造基本統計調査を何年にもわたって観察すると、そういう点が見えてきますね。


3. 高齢者関係

論文紹介(川口)

大橋勇雄「定年退職と年金制度の理論的分析」

この論文を取り上げたのは、第1に、この分野では数少ない理論研究の一つである、第2に、比較的単純なモデルから興味深い政策的インプリケーションを導き出しているからである。

論文は、年金制度が労働者の就労意欲に与える影響の分析を行っている。しかし、多くの実証分析と異なり、就労意欲への影響自体よりも、むしろ、それに伴う経済的効率への影響に着目している。そして、以下の政策的インプリケーションを導いている。第1に、年金の所得再分配機能と最適定年年齢の実現を両立させるためには、年金の期待総受取額を定年年齢に関係なく一定にする必要がある。そうしなければ、負担以上の給付を受ける人は、早めに引退してより多くの年金を受け取ろうとするからである。第2に、保険料負担の労使折半方式の下では、年金財政の収支均等と労働市場における需給の一致の両方を満たす賃金水準の成立が困難となる危険性がある。これは、労使折半方式の下では企業のゼロ利潤条件を満たすためには、保険料率を上げると賃金を下げなければならないというように、保険料率と賃金は互いに独立に決定できないからである。第3に、長寿化に伴う定年延長は必要であるが、年金の支給開始年齢の引き上げに伴う定年延長は、経済効率の観点から適切でない。それは、労働の生産性とその限界不効用が一致する点で定年を決めるのが最も効率的であり、年金とは独立でなければならないからである。

小川浩「年金が高齢者の就業行動に与える影響について」

この論文は、1983年、88年、92年の「高年齢者就業実態調査」の個票を使って、年金が高齢者の就労意欲に与える影響を分析している(同じデータを使った安部論文注18も優れた研究なので、併せて読むとより理解が深まる)。

高齢者の就業行動の分析は複雑である。その理由は、公的年金だけで三つの年金制度が存在すること、所得に応じて年金が減額されるため、就業と年金額が同時に決定されること、年金額が大きいため、それが市場賃金に与える影響が無視できないことなどである。

本論文は、1980年代末から90年代前半にかけて男性高齢者の労働力率が上昇している点に着目し、それが年金制度の変更によるものか否かを検討している。論文の目的が明確である点、また「本来年金」という概念を用いて、同時決定の問題を回避しようとしている点が注目に値する。さらに、男性の就業行動に対する世帯類型の影響の分析や、非就業者の賃金の推計に過去の履歴情報を用いるなどの工夫が見られる。

主な結論は以下のとおりである。1988年から93年にかけて観察された男性高齢者の就業率の上昇は、バブル期の賃金上昇によって説明される部分が大きい。1986年の年金制度変更によって、公的年金の実質支給額が減少したことは、就業率の上昇にはほとんど寄与していない。

紹介者コメント

川口

高齢者関係ということで二つの論文を選びました。どちらも年金に関連する論文です。ご存じのように、年金制度は、このところずっと大幅な改革が必要だと言われながら、なかなか進んでいない。そういう背景があって、大橋論文は、年金制度がどうあるべきか、また年金制度と定年との関係がどうあるべきかを理論的に分析しています。簡単なモデルから大胆な政策的インプリケーションを出していて、非常にわかりやすいので、取り上げました。生涯に受け取る年金の期待値が退職年齢に依存しないようにすること、保険料の労使折半をやめ労働者負担とすること、定年年齢引き上げの議論は年金制度改革の議論とは別に行うことなどの政策的提言をしています。

小川論文は、年金が高齢者の就業行動に与える影響を実証分析しています。年金制度は就業意欲に影響を与えますが、その影響を計量的に分析したのがこの論文です。過去にもこういう研究はいくつかあり、利用しているデータは、ほとんどが「高年齢者就業実態調査」です。ここでもそのデータを使っていますが、この研究も含めてかなり結果は様々で、労働力率の年金弾力性はマイナス0.13ぐらいからマイナス0.86まであります。その理由の一つは、年金額と就労は同時決定されるので、それの処理の仕方がかなり違っているためと思います。もう一つは、年金制度はかなり頻繁に変わっていて、使ったデータが何年度のものかによっても、異なった結果が出るのかもしれません。

小川論文と同じデータを用いた研究に安部論文がありますが、そこでは予算制約線を図示していて、制度変更によってそれがどのように変化したかがよくわかります。それを見ると、予算制約線はかなり複雑です。そういう複雑な予算制約線の下での労働時間や就業決定の分析は、かつて女性の労働供給分析でハウスマンが行ったように注19、効用関数を特定して、実際に予算制約線上で選択された点からパラメータを推定するという方法が有効かもしれません。僕自身は年金制度の分析は行ったことがないので、個々人の予算制約線をどの程度正確に把握できるかはわかりませんが。

それから、高齢者関係の論文は、後の「7. 政策・法の評価」の中にもあるのですが、全体として、意外に少なかったなという印象があります。たとえば高齢者の失業問題や、企業が高齢者をどう活用するか、高齢者の健康への投資と労働供給の関係……、いくつかおもしろそうなテーマが思い浮かびます。今後の研究発展を期待したいですね。

討論

高齢者研究の現在

三谷

大橋論文については、簡単なモデルで、非常にきれいなインプリケーションを出していて、私も大変興味深いと思います。ただ、次は60歳代前半層とか、継続雇用とか、そういうところの理論分析をぜひやっていただきたい─まあ、すでにやっておられるのかもしれませんけれども─し、今、議論になっている年齢差別禁止法、そういったものの理論分析にもさらに発展させていただきたいと思います。

小川論文については、80年代後半から高齢者の労働力率が反転したのは、非常に特徴的な動きなのですが、その主な要因がバブル景気だという結論です。しかし、バブルが崩壊した後も、かなり長い間60歳代前半層の労働力率は下げどまっている感じがします。そこに公共投資の影響もあって建設業等で高齢者の就業が増えていますが、そのほかの公的な施策や在職老齢年金制度などの改革がどれぐらい寄与しているのかについても、計量的に分析するとおもしろいと思います。先ほど、川口さんが言われたように、まだまだ高齢者関係は論文が増えてもいいなという気がしています。

玄田

意外ですね。高齢者問題にこんなに関心が集まっているにもかかわらず、労働経済研究が思ったほど少ない。どの辺に原因があるんですか。

三谷

何か手詰まり状態なんですかね。(笑)

玄田

これもさっきの女性研究と同じ、基本的に個票データでしょう。高齢者関係の個票データヘのアクセスというのがまだ難しいのかな。

労働需要サイドから見た高齢者雇用問題

三谷

たとえば高齢者雇用の分析でほかの年齢階層との代替・補完関係の理論モデルができると非常におもしろいと思います。

川口

三谷さん、たしかそういう研究注20をしていましたね。

三谷

ええ、ちょっと今研究中ですが、理論的なものではありません。

玄田

高齢者の就業機会を確保することが、若年の雇用に対してどのぐらいの代替性を持っているのか研究した例は少ないです。

三谷

ええ。でも最近組織の経済学などで、企業の中についてかなりわかってきてますよね。その中で、たとえば若年と高齢者がどういう代替関係にあるのか。これまでの分析で想定されたような単純な生産要素の代替関係ではないはずです。もう少し長期的でダイナミックなモデルができるといいなという気がします。

阿部

僕もそう思います。これまでは高齢者問題を大体が供給側から見ているのですが、これからは需要側から見るのも重要だし、必要な研究だと思います。

これに関しては、早見(均)さんが生産関数アプローチから分析注21しています。ところが、労働者の属性を細かく分けるほど、ゼロ人のセルが出てくる。つまり企業によってはある年齢階級の労働者が誰もいない。生産関数の理論ではゼロ人のインプットを考慮していないんですが、現実にはある。それを実証するのは難しい点があります。その意味で、労働経済の実証研究には新しい推定法を開発しないといけないとか、まだまだやる余地はありますね。

高齢者問題と動学モデル

玄田

大橋論文は、政策を考えるには、もうちょっと経済を勉強しなさいよというか、経済学をきちんと踏まえましょうというのもメッセージでしょう。でも、そうなると難しいのは、定年を考えるうえで労働の生産性と限界不効用を実際にどのように測るかという問題になるんじゃない?

最適な定年年齢を求めるには、川口さんも言ったように、効用関数をある程度特定化するという作業に行かざるをえないのでしょうが、それは大変だ。同質的な労働者を仮定できるならまだしも、高齢者は働く意思も多様だし、能力も多様です。川口さんの提案された、効用関数を特定するアプローチをやっていくべきというのは、現実には難しい気がする。そのあたりをみんな薄々わかっているから、高齢者問題にアクセスしないのかもしれない。

川口

先ほど触れたハウスマンのモデルは静学モデルです。ところが、玄田さんが今言われたように、高齢者の限界効用と限界不効用を考慮して、退職時期を分析するには、ダイナミックなモデルを考えないといけないので、さらに複雑だと思います。

玄田

ただ、今こんなに労働経済研究に関心が集まっているのも、高齢化社会の問題に対して経済学にわかりやすく解答を提供してほしいということだから、研究の重要性が高まっていることは間違いないですね。


4. 失業・転職・離職

論文紹介(川口)

阿部正浩「企業ガバナンス構造と雇用削減意思決定─企業財務データを利用した実証分析」

阿部論文は、企業ガバナンスと雇用制度の補完性という比較制度分析でよく知られている仮説を、雇用調整のデータを使い実証したものである。この分野における理論研究は、主に日米比較に基づき発展してきた。また、計量分析よりも制度自体の比較が中心であった。それに対し、阿部論文は日本のデータを使い計量分析を行った点で、しかも雇用削減という雇用制度の根幹にかかわる現象に着目した点で注目に値する。

論文では、企業ガバナンスの指標として、「10大株主持株累計率」「その他事業会社持株率」「金融機関持株比率」「個人投資家持株比率」などを用い、それらが企業の雇用削減行動にどのような影響を与えるかを分析している。その結果、メインバンクの重要性を示す「金融機関持株比率」や、株式の相互持ち合いの度合いを示す「その他事業会社持株比率」は、雇用削減行動に負の影響を持つこと、ただし赤字期においては、「金融機関持株比率」が正の影響を持つことを発見している。

太田聰一「景気循環と転職行動:1965-94」

太田論文は、現在の景気だけでなく、過去の景気が転職行動に影響を与えることを、理論的、実証的に明らかにしている。関連するテーマの論文に大竹・猪木論文や玄田論文があり、併せて読むと、理解がより深まる。太田論文の特徴は、理論と実証のバランスがうまくとれていることである。比較的単純な理論モデルから仮説を導き、それを「雇用動向調査」の時系列データを用いて実証している。労働経済学研究における典型的なスタイルとして、大学院生などに参考にしてほしい論文である。

主な結論は、以下のとおりである。第1に、労働市場が逼迫すると、その時点の転職率は上昇するが、過去に労働市場が逼迫した時期があると、それは現在の転職率を下げる効果を持つ。というのは、過去に労働需要が大きいときがあると、そのときよい仕事を見つけており、現在転職する必要性が小さいからである。このことは、今後わが国の景気が回復すると、転職率が一気に上昇する可能性を意味する。第2に、特に学校卒業時点での労働市場の需給状況が将来の転職に大きな影響を与える。卒業時には、学校も生徒も非常に大きな費用を使って本人に適した職を探すからである。このことは、新卒者の就職紹介は、彼らのその後のキャリアに大きな影響を及ぼすことを意味する。

照山博司・戸田裕之「日本の景気循環における失業率変動の時系列分析」

照山・戸田論文を取り上げたのは、第1に、失業率の変動という、今ますます重要になりつつある問題を取り扱っていること、第2に、ミクロ的ショックとマクロ的ショックを区別するという新しい分析手法を取り入れていること、第3に、数少ないマクロ経済研究の一つであること、からである。

欧米では、1970年代以降長期にわたって高失業率が続いたため、失業率の変動に関する理論的、実証的研究が数多く現れた。それに対しわが国では、つい最近まで失業率が低かったため、失業率変動についての研究は比較的少ない。この論文は、欧米での研究をふまえ、「構造VAR注22モデル」を利用し、わが国の失業率変動を分析している。

主な結論は、以下のとおりである。第1に、わが国の失業率の変動には持続性があり、それは失業率に対するショックが均衡失業率自体を変動させているためである。第2に、均衡失業率の変動の原因としては、マクロ的ショックに伴う「履歴現象」と、ミクロ的ショックに伴う部門間の労働再配分(摩擦的失業)があり、1975年以降では後者がより重要である。ここで「履歴現象」とは、いったんショックにより雇用が減少すると、それが恒常的になり雇用が回復しない現象をいう。これは訓練費用の重要性やインサイダー・アウトサイダー理論によって説明される。

紹介者コメント

川口

3本論文がありまして、最初が、阿部論文です。これは、ここへ入れるのがいいかちょっと微妙なところで、雇用システムの分析としてもおもしろいと思いました。比較制度分析では企業ガバナンスと雇用制度の補完性という仮説がありますが、それを実際の雇用調整のデータを使って分析した研究は、多分これが初めてです。そういう点で、非常に注目すべき論文だと思いました。

これまでも、比較制度分析での理論を用いた研究はたくさんあるのですが、計量分析は意外に少なく、制度自体がアメリカと日本でどう違うかというような調査・研究が非常に多い。制度分析では、阿部論文の中で紹介されているように取締役の賃金とか、取締役の更迭の研究注23がいくつかありますが、ここでは、雇用制度の根幹にかかわるような雇用削減のデータを使って、それと企業ガバナンスの関係を見たという点で、非常におもしろいと思います。推定した結果も、理論とかなり整合的です。

先日の日本経済学会の大会(1999年10月16・17日)でも、これと似たテーマの報告注24がありました。今後、こういう研究がどんどん出てくるのではないかと思います。

2番目の太田論文は転職行動に関する研究です。先ほど、何度か世代効果という話が出ましたか、まさに転職行動における世代効果を分析しています。「雇用動向調査」の時系列データを用いており、あまり細かなデータではないにもかかわらず、理論と整合的な結果を導いています。

注目すべき点としては、特に新卒で労働市場に入るときの影響が、どうも非常に大きいらしいということです。したがって、新卒のときの景気動向が、その人の人生に非常に大きな影響を及ぼすということで、大竹・猪木論文や玄田論文の賃金に対する影響の分析とも整合的です。

3番目は照山・戸田論文です。ミクロ的ショックとマクロ的ショックを区別するという分析手法は、アメリカではかなり行われているのですが、日本での本格的な研究はこれが初めてだと思います。日本でこういう研究が最近までなかった理由は、やはり失業率が非常に低かったことにあるのでしょう。欧米、特にヨーロッパでは高い失業率が長期間にわたって続く事態が現れ、それを説明する理論が必要だということで、いろいろ研究されてきたと思います。

この論文の結論として、一つは日本の失業率の変動というのはかなり持続性があり、どちらかと言えば、アメリカよりもヨーロッパに近いということです。もう一つの結論としては、特に1975年以降では、ミクロ的ショックに伴う部門間の労働再配分、言い換えると摩擦的な失業による失業の変動が非常に大きいという結論を導いています。ただ、この論文の扱っている期間が1955年から95年までですね。最近の失業率の急激な上昇は、残念ながらこの研究の対象になっていません。最近の上昇についても、ミクロ的ショックが大きいと言えるのかどうかは、今後もう少し検討する余地があると思います。ちなみに、後で出てくる大竹論文は、ミクロ的ショックに伴う再配分効果説には否定的です。その理由として、有効求人倍率が最近かなり下がっているので、摩擦的失業が失業率上昇の主要な原因ではないだろうということです。

それから、この研究はミクロ的ショックとマクロ的ショックを区別していると言っても、使っているデータはマクロデータだけです。いくつかの仮定を設けて、2種類のショックに分けている。しかし、もう少し厳密にやろうと思えば、産業別、職業別、あるいは地域別と、いろいろなショックのデータを用いて、それがどういう影響を及ぼしているかを分析する必要があると思います。

討論

日本の労働経済研究に求められているもの

玄田

これらの論文から感じられるのは、日本の労働経済研究に求められているのが、次の三つの問いに対する明確な答えだということです。

一つは、経済環境の変化の中で、金融システムの変化が、今後、雇用にどういう影響を与えるのかという問いです。阿部さんの論文からそれに対する答えを見いだすとすれば、金融システムの変化は雇用のあり方に大いに影響するだろうという点です。

二つ目の問いは、雇用の流動化が言われているけれども、それに対して流動化すべきとか、すべきじゃないとかという議論以前に、一体、進む方向に変化しているかどうかを明らかにしてほしいという点。

三つ目に重要なのが、やはり「失業は今後どうなるんだ」という点。そのなかで雇用政策として何が正しいのか。照山・戸田論文からすると、失業率は長期的には上がっていくだろう。雇用対策としては、マクロ的な雇用対策の効果がどんどん弱まっている。失業率に影響するショックがミクロ的になってきて、経済全体の有効需要をかき立てようとするより、もっと個別の企業や部門に着目したきめ細かい政策でないとダメだろうというわけです。

三谷

今言われたことに大体賛成です。若年の転職が高まっている理由として、これまでは、どちらかというと供給側の要因、つまり若年の意識の変化ばかり言っていた。言い換えると、若年失業は大したことはないという見方だったのですけれども、太田論文では、実は需要がないからだという、政策的にも重要な点を明らかにしたところに大きな意味があると思います。

それから、新規学卒の入職過程と中途採用の転職過程というのはかなり違うことが明らかになったと思うんですね。特に新規学卒で社会に出るときの入職過程でうまく軌道に乗らないと、中途採用でもなかなかいい職につけませんよということで、今の新規学卒に対する職業紹介の重要性を、逆にここで明らかにしている。だから、そこのところをもっと細かく分析していく必要があるのではないかという気がしました。

さらに、阿部論文については、今、企業環境が激しく変化していて、それがほんとうに雇用調整にどういう影響を与えているのかという意味で非常に興味深いと思います。たとえば、最近大手の自動車メーカーが外資系の経営者を受け入れているように、ガバナンス構造も大きく変わっているところも出てきているわけですね。そういうところで、実際にこれまでの雇用慣行がどう変わっているのか、そこももっと調べていくべきではないかという気がします。

企業ガバナンスと雇用関係

阿部

90年代に日本の金融市場が激変したので、その経過をこれから見ていくとおもしろいことがいろいろあると思います。

最近、NBERのワーキングペーパーに「解雇が株価の上昇につながるか」というおもしろい論文があるんですよ注25。最近、日本では、企業が解雇をすると株価が上がると言われています。ところが、アメリカの分析結果では、逆のことが起こっているんです。僕の分析結果もまた何年後かには全然違う結果になるかもしれない。もしかしたら長期雇用は、金融システムとはあまり関係がない可能性も今後はあるかなと。

玄田

阿部さんはコーポレートガバナンスと雇用の関係を分析する場合に、どの辺に苦労しましたか。

阿部

データがまず問題でしょうね。僕の論文は財務データを使っていますが、玄田さんが言っておられたように、財務データの雇用者の定義というのはやはり厳密でないところがかなりあるかなと思います。前から指摘されていますけれども、注意しておく必要がありますよね。それから、第7回労働経済学コンファレンス(1997年11月)でも言われたことですが、企業ガバナンスの指標とは一体どういうものなのか。この論文では、株主シェアを使っていますけれども、それだけで果たしていいのかという問題があります。

海外の研究を見ていると、たとえば取締役の派遣行動に対する日米比較があったりと、結構おもしろい論文がいっぱいあります。日本でも同じような分析ができると思います。

玄田

取締役の個別報酬データってとれないの。

阿部

とれない。難しいけれども、分析はいろいろとできるんじゃないかな。たとえば株主についてもおもしろい分析ができるのではないでしょうか。

金融ビッグバンで金融商品も投資信託などの幅が広くなりましたが、それが企業ガバナンスにどう影響するのかというのも分析対象になるかもしれません。ただし、これは労働ではなくて、金融問題なのかもしれません。

最後にこの分析をやってみて、金融経済面での日本の産業特性が労働経済で言われていることに似ていることがわかった。たとえば、大規模装置産業は雇用調整速度が遅いと言われていますが、そういう産業ほど資金を間接金融で調達している。一方、雇用調整速度が速いと言われている産業では、直接金融方式で資金調達している。ただし、産業によって資金調達の仕方がなぜ違うのかという点については、まだはっきりしていない。

玄田

経済学の内部でも、金融とか、労働とか、財政とか、いろいろな分野をどうコーディネートしていくかが、重要になっているね。

中小企業のガバナンス研究

阿部

中小企業のガバナンスはどうなっているのかというのもおもしろいと思いますね。

三谷

そうですね。雇用システム論などが中小企業に欠けている部分ですね。

阿部

そういうところを研究するのもおもしろいのではないですか。

玄田

今でも雇用規模がすごく減っているのは、1000人以上の企業と、逆に非常に規模の小さいところです。雇用が一番堅調に維持されているのは中堅規模ですし、さっきの女性のところで、比較的女性の活用が進んでいるように見えるのも中堅規模。「中堅」って、結構、研究の穴場だ。


5. 所得分配

論文紹介(玄田)

川口章「コース選択と賃金選択─統計的差別は克服できるか」

長期雇用を前提として人材開発を行う日本的雇用制度の下で、女性に対する採用、訓練、賃金などの差別を解消する人事制度が可能か否かを理論モデルより検討した論文。このような理論的研究が90年代にあまり生産されてこなかったことも労働経済研究の一つの特徴であろう。

労働者にコース選択の自由を与えると、残存確率の低い人までが訓練投資の大きいコースを選択する「逆選択」が発生する。この逆選択を避けるために企業は性別情報を利用し、女性より男性に大きな投資を行う。この論文では性別情報の利用に代わる方法として、賃金プロファイルの選択制度が理論上有効なことを示す。これは、複数の賃金プロフフイルを提示し、個々の労働者にその中から最適なものを選択させることにより、自身の残存確率を明らかにさせることが最適になる。

堀春彦「男女間賃金格差の縮小傾向とその要因」

1980年代の後半以降、日本では男女間賃金格差の大きな縮小傾向が見られる。ここでは1986年と94年の「賃金構造基本統計調査」の個票から、男女間賃金格差の縮小傾向を要因分解している。分析の結果、男女間賃金格差の縮小に最も貢献している要因は、「ギャップ効果」と呼ばれる統計的に観察できない女性の地位の相対的な上昇が格差縮小に大きく貢献している。

格差分解について企業規模別に同様の分析を行っているが、いずれの企業規模でも「ギャップ効果」が大きな役割を果たしている。特に「中企業」「小企業」で「ギャップ効果」の貢献が大きいことが示される。

紹介者コメント

玄田

所得分配にいきましょう。

所得分配研究についても、個票データの使用が一般化し、Tachibanaki ed.(1998)注26など賃金センサス・マイクロデータを用いた国際比較など、これまでになかった進展もありました。80年代以降の米国での賃金格差の拡大について多数の研究が蓄積されているのに対し、日本の賃金格差や所得分配の動向については90年代に多数の論文が生産されたとは言えない。

欧米では賃金格差の拡大について、なぜそれが原因なのか、最初に出た技術革新とか、国際競争の影響を含めて、非常に多くの研究蓄積があり、日本では、賃金格差・所得分配の動向について、もっと論文や研究が生産されてもよかったと思います。技術革新と所得分配や、阿部さんが言われたような取締役や役員と雇用労働者の格差の問題なども研究する余地が多い。

ただ、ここでは、賃金格差の研究の中でも、日本で最も蓄積がある男女間賃金格差を例にとり、そこにどういう研究進展が見られるかに触れてみたい。

川口論文をおもしろく読んだのですが、特に長期雇用を前提とする状況の中で統計的差別を克服できないものかというのがテーマです。大学で授業していても、統計的差別があるんだと言うと、女子学生はもうそこでがっかりしてしまう。これをどうにかできないかと皆思っているんですが、川口さんは何とかなるんじゃないかという。賃金コースをメニュー選択できれば統計的差別は克服できると、大胆な問題提起をしている。

コース選択の自由を与えることが、大きな問題を生むことを情報の経済学のコア概念である「逆選択」を念頭に説明している。逆選択を避けるため、企業は性情報を利用している。だから女性より男性に大きな投資を行うわけですが、性情報に代わる別な方法として、賃金プロファイルの選択制度を活用すれば、統計的差別が生む様々な非効率性は改善できるという。複数の賃金プロファイルから労働者に選択させるというメカニズムを何とかして活用することによって、労働者自身の残存確率を明らかにさせる。それによって、社会的な最適な選択が起こるという提案です。

非常に興味深いし、おそらくは労働経済学研究以外の分野の人が、そんな可能性がありうるのかと思って、この論文のエッセンスを興味深く見ると思う。問題は、賃金プロファイルの選択提案を現実とするには、いくつかクリアしなければならない点がある。たとえば、これは脇坂(明)さんの指摘だと思いますが、残存確率って同じ労働者でも変わってゆく。会社に入る直前とか、入った直後、それから何年か働いた段階で、同じ人間自身の効用関数も変わるかもしれない。そのときに、コース別人事の運用というのを一体どういうふうにできるのか。労働者の残存確率が変わるのが現実としたら、この川口モデルは一体どのように修正されるのかが、1点目です。

2点目が、統計的差別の問題を議論するときに、人間の持っている能力の問題をどう評価するかという問題が欠かせないと思う。このモデルでは、同質的な労働者というのを前提としているから、賃金プロファイルがある時点で交叉するということがメニュー選択の中の重要な要件になりうる。しかし実際に交叉していないときに、どういうふうにそれを解釈しているかというと、そもそも持っている能力が違うんだよということになる。だから違う人の間では賃金プロファイルは交叉しない、最初から能力が高い人はその後のプロファイルがもっと急傾斜になることもあるんだと。

やはり人間の持っている個々の能力は違うんじゃないかということを前提としたり、能力の分布が男女間で違うんじゃないかという問題をクリアしなければ、なかなか賃金制度とか、賃金プロファイルの選択ということを現実に導入するのは難しいのではないでしょうか。

2番目に取り上げたのが堀論文で、これは良い意味でアメリカの研究を輸入していると思った。Blau and Kahn注27のアイディアを、日本の賃金センサスの個票を用いて導入したものです。男女間で真の賃金格差を測るとき、男女間で年齢構成が違う、勤続年数構成が違う、学歴構成が違うといったような目に見える属性の違いをコントロールして、その目に見える属性の違いと、目に見える賃金格差を分けたいというのがこれまで多かった。堀論文の大事なところは、統計的に観察できない要因を何とかして測ってみるというところにある。その中で、統計的に観察できない要因、賃金関数で言えば誤差項の分布に着目して、男性と連動している誤差項の部分、それから男性の誤差項と連動していない女性特有の誤差項の部分というように分ける。その結果、ギャップ効果と呼ばれる統計的には観察できない女性の地位の相対的な上昇が、賃金格差縮小に大きく貢献しているという。

そういう意味では、この研究というのは統計的に見えない部分というのに着目して、男女間格差にトライしたという意味で、僕は評価している。ちょっとこれも余談になるけど、堀論文が出たのとちょうど同じぐらいの時期に、理論計量経済学会(現「日本経済学会」)で一橋大学の大学院生の富山雅代さんがほぼ同じデータを用いて、ほぼ同じような分析をしている注28。そういう意味で重要な研究は複数の研究者によって競争的に行われており、特定の人の独占の状態ではないという意味で労働経済学の全体的な発展を意味していると思いました。

この堀さんの研究でいろいろなおもしろいことがわかってるけれども、問題はギャップ効果の具体的な中身でしょう。この論文の中では、女性への偏見とか、仕事の違いとか、教育年限が近いといったようなものが変わったんじゃないかということを示唆しているけれども、女性の相対的な地位の上昇は何を通じ改善されてきたのかは、まだまだわかっていない。

女性の地位の上昇と言っても、女性が管理職に登用される確率は、決してまだそんなに上がっていない。女性と男性で昇進・昇格構造のどこが変わり、どこが変わっていないのか。そうでないと、このギャップ効果により男女間賃金格差が縮小した根本部分はわからない。そういったことを考えました。

討論

賃金プロファイルの選択は可能か

川口

なかなか痛いところですけれども、まず第1点目については、残存確率が、仕事の経験や結婚などによって、ライフサイクルの段階で変わるというのは全くそのとおりです。これは、このモデル自体の問題であると同時に、実際のコース別人事制度の問題でもあります。

実際に、コース別人事制度を導入している企業でどうやっているかというと、最初に決めたらもう変えられないというところもあれば、何年かに1回見直すとか、または1回だけ見直しができるとか、または一方通行でこっちからこっちだけは変わることかできるとか、企業によっていろいろな工夫がなされていると思います。理論的には、その人の人生設計の見通しがついた時点で選択させるのが一番いい時点なのですが、ただ、それがいつかというのは、理論的にはちょっと……。そういう問題意識でモデルをつくらなかったので、今後の課題としたいと思います。

それから2点目ですが、個人の能力の違いがあった場合に、どういうふうにモデルが変わってくるかということです。あのモデルでも能力の違う人がいるという前提を設けることは可能です。たとえば能力別にAというコースとBというコースがあった場合でも、Aのコースの中で残存確率の高い人、低い人がいるのであれば、A、Bそれぞれのコースの中で2種類の賃金プロファイルを設ければよい。大切なことは、能力別で賃金プロファイルに差をつけるというのと、残存確率によって賃金プロファイルに違いを設けるのと、二つを区別して賃金プロファイルを決定する必要があるということです。

玄田

でも実際、AとBと分けるのは、まだまだ難しいんじゃない?

川口

現実にはそうですね。

玄田

あと、川口さんのモデルと直接関係ないかもしれないけど、やはり能力評価の問題をどう考えるかが重要な気がした。日本では、能力の違いというのをきっちりつけてきた経緯がないのでは。

阿部

表にしないだけで、結構つけてきたんじゃないですか。

玄田

ホワイトカラーもですか。

三谷

結局、能力をみんなわかっているけれども、たとえば裁判になったときに、立証可能かどうかという話にもなりますね。川口さんのモデルだと、能力は、完全に誰にもわかるという話だけれども。

川口

モデルではそう前提しています。

三谷

これがたとえば後で出てくる中馬さんの論文では、ホワイトカラーの技能の立証不可能性を非常に重要視していますね。みんなわかっているのだけれども、それをきちんと立証できるかとなると、それはまた別問題ですね。そういう非常に難しい評価の問題がありますから、それをどうやって処遇に反映させて生産性の向上に結びつけていくかというのは難しい問題ですね。

玄田

立証不可能性が技術的要因によるのか、それともコミュニケートできるように言語化されていないからなのか。後者じゃないのかな。

阿部

それはそうでしょうね。でも、昔は故意に能力の違いを表にしなかった可能性があったのではないかと思うんですよね。

玄田

しないことが合理的だったんだ。

阿部

けれども、今、企業内部では賃金格差をつけようという動きがある。ということは、今度は能力格差を少しずつ表に出そうとしている。

川口さんの論文を企業の人が読んだら、こういうことをほんとうにやる企業が出るのではないかなと思っておもしろかった。今までコース制だけを持っている企業は多いんですけれども、それだけではなくて賃金を動かしていくということを、企業は人事政策として利用可能ではないかなと思いました。

川口さんのモデルの拡張という点で言えば、投資を自己選択させるというモデルはできませんか。実際そうしようとしている企業があって、一般職の人だけに投資を選択させてるんですよ。つまり、研修コースの参加には手を挙げさせて、研修を受けた人にはそれに見合う賃金に上げて、残存率を高めていこうとしているわけです。

川口

その投資の選択というのは、本人の適性に応じてなされるのですか。

阿部

まず最初は適性に関係なく、難しい投資になると、適性も関係するという形です。

川口

このモデルは非常に簡単なもので、能力を一定としていますから、残存確率が等しければみんな同じ選択をするんですね。だから、そこに……。

阿部

そう。能力が違う人が出てきたときに、別のモデルもあるのかなと思って。

三谷

読ませていただいて、とてもおもしろいと思うのですが、実はコース別人事制度が随分たくさんの企業に導入されている産業と、そうではない産業と、ものすごく産業間で格差がありますね。それはおそらく、その産業で大事な技能の内容と密接に関連しているのではないか。そういう方向でも発展させていってほしいと思います。

統計的に観察できない要因

川口

堀論文は、賃金格差縮小の要因として、ギャップ効果が非常に大きいという結論です。堀さんは、ギャップ効果は目に見えない、計量できない効果というように書いてますが、もっと分析が可能ではないでしょうか。僕の理解が正しければ、ギャップ効果以外の要因は、主に男性の賃金関数の係数を使って計算しているのですが、男女間の係数の差の変化がギャップ効果に入っている。だから、この推定結果を利用すればギャップ効果をさらに細かく分析できるのではないかなと思うんです。というのは、中田喜文さんの1時点だけで男女の賃金格差を分析している論文注29がありますが、その分析結果によると、一番大きな男女間賃金格差の原因は、年齢の賃金に与える影響が男女でかなり違うということです。それだけで、男女の賃金格差のほとんどが説明できるという結論なのです。そうすると、男女の賃金格差縮小の要因としても、もしかしたら女性の年齢にかかる係数の変化がすごく大切なのかもしれない。ギャップ効果をさらに分析すれば、それを確かめることができたのではないかという気がしますが。

「女女間」格差の研究の必要性

玄田

僕は、この論文、直接関係ないんだけど、男女間賃金格差の論文を読んでいて、どうして女女間賃金格差の論文って少ないのかなと感じた。

川口

女女間?(笑)

玄田

世代効果もそうだけれども、男性間の格差や男女間というのはたくさんあるのに、女性間での賃金格差がなぜあるのかという分析がすごく少ない。アメリカで貧富の差の拡大というのは男性間もそうだけれども、女性間の格差も広がっている。ところが、日本は、女性の間の格差は広がっていない注30。女性間の賃金格差がなぜ日本は広がっていないのかは、もっと研究があってもいい。フルタイムとパートの格差も大きいけれども、女性のフルタイム同士でも能力も就業意欲も随分違うのではないか。そういう研究がもっと進むことで、結果的に男女間のこともわかってくるんじゃないかな。

三谷

全く同感ですね。

阿部

堀論文では、産業にもっと注目するといいのではないかと思うんです。そうすれば、技術革新や国際化の影響が女性にどう影響したか、結構見えてくるのではないかと思うんです。


6. 賃金・昇進制度・技能形成

論文紹介(三谷)

馬駿「技能形成のためのインセンティブシステム─日本の電機企業M社の事例研究を通して」

日本の大企業製造業の生産労働者の技能形成とそれに対するインセンティブメカニズムに関する仮説を提示し、電機企業M社の事例研究でその検証を試みている。明らかになった点は、以下のとおりである。

[1] 現代製造業の企業では、従業員は基本的技能、統合的技能、組織的技能という3種類の技能が要求されており、基本的技能はできるだけ従業員全員に身につけさせ、統合的技能は多数の従業員に幅広く身につけさせる。さらに、組織的技能は生産現場の組織構造に限定される一部の従業員に身につけさせるという方針をとっている。

[2] 日本の大企業における技能形成のためのインセンティブシステムは、次のようになっている。すなわち、基本的技能を形成させる段階では、絶対基準によるランクアップ方式、そして、統合的技能を形成させる段階では、ランクアップ・スピード競争方式を用いており、さらに、組織的技能を形成させる段階では、ランク・オーダー・トーナメント方式を用いている。

本論文の特徴は、 [1] 大企業の生産労働者の技能をさらに細分化して基本的技能、統合的技能および組織的技能に分けられることを示したこと、 [2] ランクの昇格のインセンティブが単にランクアップ・スピード競争によるものだけではなく、ランク・オーダー・トーナメント方式による部分もあることを示したこと、 [3] 企業内のキャリアや昇進・昇格に関する詳細なパネルデータを用いて昇進確率関数の推計など計量的な分析をしていることである。

中馬宏之「技能蓄積・伝承システムの経済分析」

この論文は最近の不完全競争的な市場下での人的資本投資に関する理論を援用して、現実の技能蓄積・継承問題を当事者にゆだねるだけでは十分に解決できない基本理由について整理検討している。かつ、政府の訓練政策の妥当性についても議論している。

労働市場と資本市場が完全競争的であるかぎり、人的資本への投資水準は社会的に最適なものとなり、政府が介入する余地はない。しかし、より現実的な労働市場の不完全性を仮定すると、当事者同士の決定にゆだねたときに人的資本への投資水準が社会的に最適な水準を下回る場合がある。

たとえば、サーチコストのような取引費用が存在すると、労働者による一般的人的資本投資の投資効率が低下するが、企業が労働者に代わって一般的人的資本への投資を行うため、人的資本への投資水準が社会的に過少であるとは限らない。しかし、同時に、労働市場がかなり流動的な場合での、他社からの引き抜きの外部性や、また、労働者が一般的人的資本に投資すればするほど、企業が人的資本に投資した労働者を雇いやすく、マッチングすることが可能になるマッチング外部性が存在するような状況では、すべての投資便益が当事者に還元されず、人的資本への投資水準は社会的に最適な水準を下回る可能性がある。さらに、能力情報(あるいは人事考課情報)を企業が囲い込んでいる場合や、スキルがいろいろな一般的技能の組み合わせ(ミックス)でできているスキルミックスの企業特殊性がある場合も、一般的人的資本が企業特殊化する。

そして、引き抜きの外部性が大きければ、先と同様に人的資本投資水準が社会的に最適なレベルより低くなる可能性がある。このような状況下で政府が雇用を流動化させるための政策(たとえば、政府が企業の人事情報を、何らかの試験によってオープンにするなど)を行うと、人的資本投資が過少になる可能性がある。

本論文の特徴は、 [1] 最近の人的資本理論のサーベイにもなっていること、 [2] 不完全競争モデルを想定して、人的資本投資が過少になる場合を整理していること、 [3] 市場の失敗のみならず、政府の失敗についても論じていることである。

紹介者コメント

三谷

まず、内部労働市場における賃金・昇進制度や、技能形成制度等の経済学的研究は、1980年代後半から90年代初めにかけて大きく進展しました。今回の学界展望の対象期間でもさらにそれが進展していったということが言えると思います。

一つは、特に経済環境が厳しくなるなかで、大企業を中心として、成果主義や能力主義に対して、どういうふうに制度が変わってきているかを経済学的に分析するとどうなのかという研究も行われています。こういう内部労働市場の分野では、アンケートやヒアリング調査などで研究者が独自に集めたデータで分析が行われる傾向が特徴的であると言えます。賃金・昇進制度も非常に大事ですが、ここでは、21世紀の日本経済にとって、ますます重要性が増すと考えられる技能形成に関する論文を2本取り上げました。

技能形成に熱心であるというのは日本の大企業の非常に大きな特徴ですが、そこでのインセンティブメカニズムがどうなっているのかについても、非常にすぐれた研究がある。馬論文は、小池和男先生の研究注31青木昌彦先生の研究注32あるいは亡くなられた浅沼萬里先生の研究33)を一歩進めて、さらにもっと詳しくインセンティブメカニズムを見てみようということで、理論的な整理と、ある電気機械メーカーの事例研究を通して実証的な分析をしています。

この中で明らかになったことは、大企業ブルーカラーの中での技能は、基本的技能、統合的技能、組織的技能の三つに分けられるとの仮説を提示しており、日本の大企業の生産労働者の技能と言われているものをさらに細分化し、それぞれの技能に対して、インセンティブメカニズムが違うということを明らかにしています。

そして、1企業だけですが、その中でのキャリア、昇進・昇格に関する非常に詳細なパネルデータを使って、計量経済学的な分析もしています。ただ、馬論文には、賃金の分析がない。ですから、査定によって定期昇給幅が違うというインセンティブメカニズムはどうなのかということも言えます。さらに、ほかの企業についてどうなのか、あるいはホワイトカラー労働者についてはどうなのか。さらに広げて、国際比較を行ったらどうかというコメントができるかと思います。

次に、中馬論文は、これだけで、最近の不完全競争下での人的資本理論のサーベイにもなっており、不完全競争モデルを想定して、人的資本投資が過少になる場合を整理しています。市場の失敗だけではなくて、政府の失敗についても論じています。もうちょっと理論を精緻化する必要はあると思いますが、逆に言えば、いろいろやる余地がある。理論的な結論をもう少し実証的に検証することも必要かと思いますし、国際比較をしていくということも大事かと思います。

討論

昇格ツリー研究の重要性

阿部

馬さんのに似た論文を中馬さんが書いています注34が、あれで見ると、結構、ブルーカラーの選抜って早いんですよね。入社後、3~5年ぐらいで選抜がある企業もある。けれども、馬さんの図2(『日本労働研究雑誌』No.450、p.52)を見ると、この会社の選抜時期がすごく遅いんですよ。

玄田

何が選抜のスピードを決めるのかという点ですか。

阿部

何が選抜のスピードを決めるのかについて、もう少しいろいろな会社のデータを集めて分析すると、産業の特性なのか、企業規模なのか、いろいろ見えてくるのではないですか。これはこれですごくいい分析ですけれども、今後、いろいろな会社のデータを集めて、昇格ツリーを分析する必要があると思います。

もう一つ、馬論文の良い点は、計量分析している点です。今まで、こういうものはヒアリングという形で行われるのが多かったのですが、今後はいろいろな会社のデータを集めて計量分析するのも興昧がありますね。

中馬先生の論文も、納得しちゃうなという感じですけれども、でも、もう少し精緻にやっていただくとありがたいですね。中馬先生に怒られちゃいますけれども、書いてあることはたしかにそうだなと思うんですが、たとえば川口さんがきれいにモデル化するといいんじゃないかなと思ったりします。

川口

馬論文は、仮説が非常におもしろいですね。技能の違いに、昇進制度の違いを対応させている点が。ただ、どうしてそういう昇進制度なのかという点を、もう少し説明してくれたらなという気がしました。たとえばこのランクアップ・スピード競争方式は馬さんご自身の言葉なんですか。

三谷

そうですね。

川口

これが、ランク・オーダー・トーナメントとどう違うのか、僕自身はよくわからない。たとえば、ランク・オーダー・トーナメントで、1年間競争して、負けた人がまた2年目に同じランクで競争に参加するというようなランク・オーダー・トーナメントを繰り返すようにも思えるのですが、全然違うイメージで書いているのでしょうか。

それから、ラジアとローゼンのランク・オーダー・トーナメント注35は、技能形成のインセンティブではなく、労働のインセンティブを引き出すのが目的です。それを、技能形成のインセンティブとして、モデルをつくっているのは非常におもしろいと思いました。ただ、技能形成のインセンティブという場合、技能というのは、多分、出世して、上のランクで必要な技能だと思うのですが、下のランクでの業績で評価するのか、それとも、上のランクで必要な技能をその人が下のランクで身につけているかどうかを評価するのか、どちらなんでしょう。

三谷

馬さんに代わって二つお答えしますと、ランクアップ・スピード競争方式というのは、ランク・オーダー・トーナメントの繰り返しではないと思います。

これは、統合的技能ですから、知的熟練ですよね。それをできるだけ幅広く、できるだけ大勢の労働者に身につけてもらいたいので、一定の統合的技能が形成されたときに与えられるランクまでは、ほとんど全員上がるわけです。ほとんどの人がゴールまで行くわけですが、そこまでの到達時間が違う。それで技能形成へのインセンティブをつけているわけです。

川口

最初の段階のランクアップ方式とも違うわけですね。

三谷

ランクアップというのは、ほとんど2年ぐらいでそこに到達する。

玄田

その時期はもう共通なんですか。

三谷

もうほとんど同時期に行くんですね。だから、行かないのはよほどの例外的な人です。

川口

なるほど。ランクアップ・スピード競争の期間のほうが長いんですね。

三谷

ですから、ミクロ的に見れば、毎年、査定をして、それで、昇格のときに査定が入ると思います。

でも、最終的なところ─この事例ではR、というランク─までは、ほとんどの人が到達する。そういうふうにしないと、みんな統合的技能を習得しようとしないですからね。

それから、もう一つの、組織的技能をどこで評価するかについてですが、この事例ではR、のところで評価しているんです。

川口

そのランクではあまり必要がないけれど、上へ行って必要になる技能を、ですか。

三谷

ですから、R、のランクに上がると指導予備あるいは生産ラインのーつの小工程のリーダーといった仕事を与えられ、自分の部下を持ち、指示、監督する技能を身につけるチャンスがあるんだそうです。そこでの適性を見て、ほんとうのリーダーに昇格させるかどうかを考える。そこのところを詳しく分析していたように思います。

川口

そうですか。

玄田

基本的技能、統合的技能、組織的技能というのは一般化した概念ですか。

三谷

いや、言葉自体は浅沼先生の本の中にも出てきますが、昇格昇進との関連でこれほどシステマティックに使ったのはおそらく馬さんが初めてではないかと思います。

阿部

今まで、スキルというのは一言で済まされていたじゃないですか。

玄田

一般か、特殊か、ですね。

阿部

だけども、よくよく見ると、一般的にもなりそうだし、特殊的にもなりそうなスキルってある。そこをきっちりやらないといけないということですね。

玄田

技術的に一般と特殊と言うときもあれば、経済環境や外部性のあり方によって、一般が特殊になったり、特殊が一般になるはず。

阿部

それを、人的資本理論に応用してみる。技術革新や情報化によって、要らなくなるスキルが出てくるわけですね。そこを見つけたい、経済分析したいというのがありますよね。まだ道半ばですけれども、そういう分析が、今後は活発に議論されるんじゃないかなと思います。

玄田

馬論文は、ネーミングの妙というのがある。

川口

うまいね。

玄田

これだけ労働を取り巻く環境変化の中でファクト発見を求められているとき、労働経済学者も状況を的確に表現する新しい言葉をこれから考えていく必要があるのかもね。

阿部

最後に、組織的技能がブルーカラーでも結構重要視されているけれど、ホワイトカラーではどうかというのも、分析したいですね。


7. 政策・法の評価

論文紹介(三谷)

中馬宏之「『解雇権濫用法理』の経済分析─雇用契約理論の視点から」

この論文は「解雇権濫用法理」の存在意義について、雇用契約理論の視点から論じたものである。

第1に、「解雇権濫用法理」成立の歴史について概観している。第1次石油危機後の人員整理の激増期に法理が確立したこと、1950年代には第1次石油危機後の時代に勝るとも劣らない厳しい人員調整が行われたが、解雇に対する寛容な判決が散見されるなど、解雇権濫用の法理に関する明確なルールが確立されていなかったことを示している。

第2に、整理解雇の妥当性をめぐるいくつかの裁判判例を検討することにより、この法理が経営層の経営決定権を形式上のみならず実質的にもかなり大きく制約していることを確認している。実際、「解雇権濫用法理」は整理解雇の際に、4条件を義務づけることにより、経営層の経営決定権(あるいは「使用者決定の自由」)に対して大きな制約を課していることを具体的に明らかにしている。

第3に、雇用契約理論をもちいて、このような法理を導入することが、経済システム自体の効率性をも促進する可能性があることを明らかにしている。すなわち、企業特殊的人的資本への投資量が、裁判所のような第三者にも同じ正確さで観察可能(verifiable)でないような状況の下では、雇用契約は若年期に一定水準の企業特殊的人的資本投資を行って中高年期に所定の賃金をもらったほうが労働者に有利になるよう賃金制度を設計するなど、共に自発的に受け入れられる(self-enforcing)タイプのものとしなければならない。

しかし、このような賃金支払契約の実効性は法的に保護されているわけではないので、少なからざる数の企業が法的な拘束力のない口約束を事後的に反故にするようになると、多くの労働者と企業は、企業特殊的人的資本投資を行う雇用契約が締結できる可能性を知りつつも、それを結ぶことができなくなってしまい、人的資本投資は社会的に望ましい水準より過少にしか行われないことになる。「解雇権濫用法理」は、解雇費用を高めることにより企業特殊的人的資本投資を行う雇用契約を結びやすくし、経済システムの効率性を促進する法的制度の一つとしての役割を果たしていると考えられる。

論文の特徴は、 [1] 雇用契約の理論を用いて、法制度が経済効率性に果たしている役割を明らかにしていること、 [2] 企業特殊的人的資本が第三者から立証不可能であることに焦点を当てて分析していることである。

大竹文雄「高失業時代における雇用政策」

日本の最近の高失業の発生原因について理論的に概観し、雇用・失業問題に関する政策的課題について論じている。

失業の発生原因としては、 [1] 賃金の調整が短期的に硬直的な下での重要不足、 [2] 摩擦的・構造的失業、 [3] 雇用不安から流動性選好が高まったことによる消費の減少を挙げている。

対策としては、 [1] 都市部を中心とした効率性の高い公共投資、 [2] 過剰な雇用保護策(解雇権濫用法理を含む)の抑制による賃金調整能力や職業紹介機能の向上といった労働市場の効率性を高める政策、 [3] 適切な失業給付・訓練給付・年金のポータビリティの確保・住宅資産の流動化等の政策が必要であるとしている。

具体的な対策として、 [1] 定期雇用の導入による雇用機会の拡大、 [2] ジョブサーチ型の派遣を推進し、労働市場の職業紹介機能を高めること、 [3] 職業紹介制度の効率化、 [4] 退職金・企業年金のポータビリティの向上および企業倒産に対する保全措置、 [5] 定期借家権の創設等住宅市場の流動性を高めること、 [6] 失業保険の給付期間や給付額を適正なものとし、職探しの努力を高める失業保険制度の改革、 [7] 教育・訓練バウチャーを導入するなどの公的職業訓練制度の見直し、 [8] 個別紛争処理システムの強化である、を提案している。

論文の特徴は、 [1] 雇用・失業政策について広範かつ詳細で具体的な提案をしていること、 [2] 解雇規制や雇用調整助成金などの雇用失業政策について、短期的効果と長期的効果に分けて功罪を論じていることである。

紹介者コメント

三谷

最近、労働法制度や労働政策も大きく変わっているなかで、労働法や判例、あるいは労働政策が果たしている役割を経済学的に分析するという研究はますます重要になってきています。法と経済という学際的なところにも、労働経済学の研究が及んできたという意味で、非常に注目すべき研究の動向が見られたということが言えます。

ここでは、雇用契約の理論を使って、労働判例、とりわけ解雇権濫用法理の経済学的意味を分析した中馬論文と、最近、急増している失業に対する政策を詳細かつ包括的に論じた大竹論文を挙げたいと思います。

中馬論文では、解雇権濫用法理について分析しています。実際、法律上は解雇はかなり自由なんですが、判例の積み上げによってなかなか企業が解雇できないようになっている。その法理の存在意義を雇用契約の理論を用いて、経済効率という視点から見てみようということです。

今後、法と経済学という分野で、こうした雇用契約の理論等を使って、ほかの労働法制度を分析することは非常に大きな課題ではないかと思います。それから、国際比較も重要でしょう。特に、解雇権や解雇規制については、たとえば1999年のOECD Employment Outlookは非常に詳細な国際比較をしています。そういうものを用いて本論文の結論を実証的に見てみることも、おもしろいのではないかと思います。

次に、大竹論文ですが、まず最近の高失業の発生原因について理論的に概観して、雇用・失業問題に対する政策的課題や提言をかなり具体的に論じています。

具体的な提案としては、一つは、定期雇用の導入で雇用機会の拡大、あるいはジョブサーチ型の派遣の推進による労働市場の職業紹介機能の高度化、コンピュータを用いた職業紹介制度の効率化、退職金、企業年金のポータビリティの向上、企業倒産に対する保全措置、そして、定期借家権の創設等の住宅市場の流動性を高める政策、あるいは失業保険の給付期間、給付額を適正なものにして、職探し中の努力を高める失業保険制度の改革、教育・訓練バウチャーの導入などの公的職業訓練制度の見直し、さらに個別紛争処理システムの強化、こういうものを提案しております。

この論文の特徴として、雇用・失業政策について、広範かつ詳細で具体的な提案をしていて、非常におもしろいと思います。それから、解雇権濫用法理を含む解雇規制や、あるいは雇用調整助成金などの従来型の雇用維持・失業政策、法制度について、失業に対する短期的な効果と長期的な効果に分けて、それらが互いにトレードオフの関係にあることを論じています。

今後の課題としては、大竹論文はどちらかというと、労働市場の流動性を高める政策をいろいろ提言していますが、そこで一番気になるのは、人材形成がどうなるのかということです。特に先ほどの中馬論文と比較した場合なおさらそう感じます。2番目は、たとえば教育制度について全く提言がなかったのですが、労働市場と密接に関連しているいろいろな制度があるわけですね。そういう諸制度との関連の検討も必要だと思います。さらに、この論文にはかなり広範な提言が盛りこまれていますが、それらの個々の政策についてどこまで効率的で、しかも公平性が保たれているのか、地道で実証的な分析が必要ではないかという気がします。

討論

雇用契約理論から見た労働法制度分析

玄田

ありがとうございました。

今回、政策・法の評価が、今回の学界展望の一つの柱になっているということが、新しい労働研究の方向性を端的に示していると感じました。その中では経済学のエッセンスを法律家や政策担当者に語るかがいかに大変な作業であるかも改めて思います。

川口

法律の経済的な分析というのは、玄田さんが言われたとおり、労働経済の分野では今までほとんどなかったので、非常におもしろいと思います。第37回計量経済学研究会議(1999年7月18~20日)でも、大竹さんと藤川さんが、解雇権濫用の問題を経済学的に分析されていましたし注36、今後、ますますこういう研究は増えると思います。

解雇権監用法理については、中馬論文とは別の解釈も可能ではないでしょうか。たとえばラジアのインセンティブ理論注37でいう賃金後払いの制度も、この解雇権濫用法理によって保障されます。あるいはこの中馬さんのモデルでは、労働者が投資費用を負担するという前提なんですが、同じような枠組みでもこれを企業が投資費用を負担するようにしたら、また違った結論が出てくると思います。

玄田

解雇権濫用法理以外に労働に関する法制度では何がおもしろい経済学的な分析の対象になりますか。

三谷

いろいろあると思います。たとえば、職業紹介制度です。今、職業紹介制度をもっと規制緩和すべきだという議論があって、現実にもそういう方向に進んでいます。しかし、そのことの経済学的な分析というのは、ほとんどないでしょう。

阿部

女性に関しては、男女雇用機会均等法が分析対象になるのではないでしょうか。男女雇用機会均等の「均等」とは、どこに水準があるのか。今は男性に合わせようとしているんですけれども、それでは、女性が働きづらい。均等水準を法的にどこに押さえるかは、労働市場にフィードバックがかかるし、それを経済学者として何か言わないといけないと僕は思っています。家庭の生産関数、職場での男女の分業構造、そういうところから、均等水準がどこにあるのかというのを考えてみたいですね。

川口

均等法に関連して言うと、アファーマティブ・アクションはアメリカでは広く行われていますが、日本では今度、ポジティブ・アクションが導入されました。こちらは強制力がなくて、こうするのが望ましいという程度です。アメリカの場合ですと、政府と取引している企業は、アファーマティブ・アクションをしなければならないというように、かなり強い。だから、もしそういう制度を日本に導入したら、どういう影響があるかもおもしろいのではないかと思います。

阿部

中馬論文は法律や政策をどう決めていくかというのを経済学で分析しましょうというものでした。大竹論文は、法律や制度の効果をどう経済分析するかという点に注目しているわけです。今後もこうした研究はどんどんやらないと。たとえば育児休業制度の効果はどれぐらいあったのかとか、均等法の効果はどれぐらいだとか、雇用調整助成金が労働市場にどう影響してきたのか、もっと分析されるべきですよね。


第2部 90年代後半期日本の労働経済研究─全体的特徴と今後の方向性

玄田

最後に、90年代後半の日本の労働経済学全体の特徴と今後の方向性について、皆さんからご意見をいただきたいと思います。

海外と日本との研究動向比較

三谷

この3年間の労働経済学の研究を概観して感じたのは、海外の研究動向と日本の研究動向が、割に波長が合ってきたというか、同じような方向に向かっているなという気がしました。たとえば企業内訓練や、解雇規制、こういった問題も最近海外で盛んに研究されています。雇用創出・喪失の議論は、ヨーロッパでは1980年代に盛んに研究された分野で、むしろそこは日本が欧米に近づいていったということかもしれません。研究動向が非常に似てきたなという感じかしています。そういう意味では、今後もっと国際的な共同研究が盛んになってもよいと思います。最近EU諸国などは、盛んに国際共同研究をやっていますよね。

もうーつは、国際比較の視点が少し目立たなくなってきたということです。日本の労働市場を分析するうえで、国際的に見てどうなのかという視点は必要なのですから、もう少し国際比較をすべきではないか。それも日米だけではなくて、ヨーロッパとの比較研究をもっと精力的に行ってもいいのではないか。幸いにEU諸国では、最近やっと労働統計が整備されてきて、環境ができつつあります。その意味で日本労働研究機構で、小池先生たちが行われたホワイトフカラーの技能形成に関する国際比較研究注38などは、非常に興味深い研究だと思います。

研究手法の動向とデータアーカイブの利用可能性

川口

3年間の研究を見て、研究手法というところから印象を述べたいと思います。やはり個票を使った研究やパネルデータを使った研究が非常に増えたという印象を受けました。個票に関しては、すでにあるデータを借りてきて使うというだけでなく、自分たちでアンケート調査をして集めたり、企業で調査して集めた個票を使った研究もいくつかありました。玄田さんも言われましたけど、どういうデータをつくるか、集めるかで、研究の善し悪しがかなり左右されるようになってきたと思います。

ただ、パネルデータについては、企業に関連したデータは公表されていてパネルにしやすいのですが、個人の労働供給や職探しをパネルでやろうとしたら、これはかなり集めるのが大変で、まだ外国と比べると、そういうデータの利用は遅れているなという気がします。

玄田

その意味では、樋口美雄さんたちの家計経済研究所の「消費生活に関するパネル調査」など貴重ですね注39

川口

データヘのアクセスという点からは、東大社研のデータアーカイブ注40が注目されています。今年できたばかりで、利用者が少ないということですが………。

玄田

佐藤博樹さんたちが一所懸命にやっているICPSR(Inter-University Consortium for Political and Social Research:政治・社会調査のための大学協会)の大学への普及努力も大切な仕事です。一定の金額を大学が払うことによって、研究者のみならず大学院生が膨大なパネルデータ、個票データにアクセスできるというのは重要な試みで、今後もっといろいろな大学に広がればいいですね注41

川口

特に大学院生は、これまで個票は入手しにくかったと思うんですよ。データアーカイブは、大学院生も指導教員の推薦があれば使えるということですから、積極的に使っていただきたいですね。

理論研究と実証研究の均衡を求めて

玄田

川口さんは日本のオリジナルな理論研究の必要性を感じますか。

川口

労働経済の理論というのは、実証分析とセットで発展しているように思います。だから、日本でもパネルデータとか、もっとそういうデータが整えば、それを使って分析できそうな理論ができてくると思うんです。実証不可能な理論をつくっても、あまりみんなが評価してくれませんから。

阿部

僕は、パソコンの技術革新が速くて、以前に比べて計量分析するのが簡単になったなと思うんですね。僕が大学院生のころは、大型計算機を使っていて、計算するのが大変で、プログラムを覚えるのも大変でした。もっとも僕たちの前の世代になると、最小二乗法もプログラムしないと計算できなかったわけですが。

そういう意味では、今の大学院生はデータの構造をあまり知らなくても計算できてしまうというのがありますね。

それから、難しい計算をやっているんだけれども、たとえば誤差項をチェックするとかがおろそかになっていたりとか、もっと統計処理をしっかりやらないといけませんね。「統計パッケージがあるから何でもできるよ」という人もいるかもしれませんが、僕はそれでは困るなと思います。理論と実証を考えてデータマイニングしていくという点が重要ではないかな。

玄田

それはこれからの労働経済学教育のあり方とも関係しています。大学院生でも個票データが使えるようになってきているのはいい。でも実証分析の追試が難しいような状況では、その結果は信じるしかないわけで、研究での最低限のマナーを守るような「教育」がなされていないと大変なことになる。結果が容易に出る分、誰も致命的なエラーに気づかないことがあると、経済学の信頼性にもかかわる大問題になります注42

ケーススタディと労働経済学の接合点

阿部

それから、ケーススタディが増えてきたのを、われわれはやはり重要視しないといけないのかなと思いますね。

ちょっと会社を回ってみても興味深い発見がありますし、多分ケーススタディを積み重ねていけば、理論家への話題提供はできるのではないか。ケーススタディにはデータ以上に質の高い情報が含まれている可能性もありますね。たとえば、大内さんの論文注43を取り上げると、彼女はしつこくて……。

玄田

しつこくて?(笑)

研究者の「こだわり」

阿部

そのしつこいというのは大事だと思うんですよね。しつこいので、彼女は実際に今までやられなかったような、ケースの追跡調査ができた。そういうのはかなり評価できるんじゃないかなと思います。彼女は労働経済学者ではないですけども、今後の研究も期待されます。

あと、社会学が専攻の西川真規子さんがとりくんでいる問題注44にも、経済学でも考えられるような課題がいっぱいある。

玄田

たとえば?

阿部

ジェンダー論の枠組みで、日本とイギリスの女性労働を比較するのですが、イギリスには女性職が多くて、日本は中間職だったり、男子職が多いらしいのです。それで、M字型に落ち込む日本と、落ち込まないイギリスを比較するとおもしろいという話なのですが。イギリスでは女性職が多いので賃金が低いのですが、かえって再就職のアクセスがしやすいのですよ。日本の場合は、中間職や男性職が多いから、賃金も高いんだけれども、アクセスしにくい。だから、日本ではM字型ができやすいのではないかという話です。日本はM字型が残っているのはなぜかという問題は、まだ経済的にはうまく説明できなくて、たとえば需要と供給をジェンダー論で話してみるとそういうふうに見えてくるのですね。

それから、安倍由起子さんなどがとりくんでいる大学銘柄効果というのも、難しいです。やろうとしていることは、大学教育そのものの効果なのか、それともシグナリングとしての効果なのかを分けたいということなんです。それをどうやって分析できるかというのは、研究者のしつこさにあって、安倍さんなどはいろいろやられていますけれども、まだ解決されない問題が多い注45。ここにもいっぱいやるべき問題がある。技術革新の話で、中馬論文によると、統合化されたスキルが重要になり、高度化しているわけですね。ある企業は、女性の一般職でも四大卒しか採りませんと言っている。そうすると大学の効果とか、教育の効果って、今後より重要になる可能性が高い。この前の竹内洋さんの話注46もすごくおもしろかった。他の学問分野と連携していくことも重要だと思います。

労働経済のマクロ研究と経済政策

玄田

これまでの話題の中でもう少し議論したいのが、労働経済のマクロ研究という点です。マクロ的な視点からの労働経済学が少ないという話だったのですが、実際、最近の労働経済学の教科書ではマクロのパートは少なくなって、応用ミクロ経済学の一分野のように労働経済学がなりつつある。この点を、三谷さん、どう思いますか。

三谷

もっとやるべきだと思います。特に政策との接点といいますかね、政策を考えるうえでは、やはりマクロで考えないと意味がないわけですね。個別でやってミクロレベルでいかに改善しても、結局はマクロの日本全体で改善しなきゃいけないものですから、そういう意味では、非常に重要だと思います。特に労働需要側の分析が重要になってくると思います。

幸い日本の場合はデータも結構あるわけですから、もっともっとマクロに目を向けるべきだと思います。そのとき、併せて政策への志向というか、あるいはもっと問題意識を強烈に持つというか、特に若い研究者たちが、政策的な問題意識を強烈に持てば、マクロ的なところにも目がいって、いい研究ができるのではないかという気がしますが。

玄田

僕が大学院生のときは「下手に政策に手を出すな」といわれました。きちんと理論的なバックボーンを備えてから政策を考えないと根なし草になっちゃうという教育を受けた記憶がある。政策問題に対して労働経済学者はどう付き合っていけばいいんだろうか。

川口

労働経済学というのは、政策にどう応用するかという意識でやっている人が多いように思います。論文を読んでも、現在必要とされている政策というところからテーマを見つけて研究されている方は多い。

玄田

自分はどうなの。

川口

僕はちょっと好き勝手なことをやっているんですよね、例外的な方で……。(笑)

玄田

阿部さんは、マクロ研究とか、政策研究についてはどういう考えですか。

阿部

そうですね、個人的には組織の経済学だとか、人事の経済学とか、マイクロな問題を実証したいなという気持ちがある。でもそれだけじゃなくて、マクロ経済にマイクロな要素がどういう影響を与えているのかを考えていく必要もあります。

ただし、浜田・黒坂の研究注47にもありましたが、オーソドックスなスタイルの研究もやるべきですね。マクロ経済学にあまり詳しくないのですが、現在では教科書をちょっと読んでも、浜田さんたちとは違う視点(マクロ経済のミクロ的基礎という視点)からしか分析されていませんからね。

日本の労働経済学の課題─結びにかえて

玄田

最後に一つ。日本の労働経済学の改善すべき点があるとすれば、どの辺ですか。こういうところはもっと変えていかなきゃいけないんじゃないかというのがあれば一言。

阿部

僕自身の反省点としては、太田さんのような理論パートと実証パートがきれいにつながっている論文というのがすごく少ないことでしょうか。後輩にはちゃんとそういうのを頑張ってやってほしいなという気がしますね。

それから、もう一つ。ゲーム理論や契約の理論だとか、応用経済学で出てきた理論仮説を実証分析したいなとも考えています。その場合、理論と実証がどうくっついてくるのか、たとえばゲーム理論できれいな結果が出てきますが、そんなにきれいな現実は観察できないわけです。だから、理論と実証の間をどうやって結びつけるのかを、今後は詰めるべきですね。

玄田

川口さん、どう?

川口

あまり偉そうなことは言えないのですが……。

玄田

偉そうに言ってください。

川口

さっき阿部さんがおっしゃっていた「しつこい研究」というのが大切だと思います。いろいろな方向から一つのテーマを追いかけていくというのが。たとえば野田(知彦)さんなんかは労働組合の研究で、しつこいでしょう。

玄田

しつこいね、あの人は。

川口

世の中の流行がどうであれ、政策的な必要性がどうであれ、私はこのテーマをずっとやるんだというようなのがもっとあっていいんじゃないですか。女性労働をやっている人はわりとしつこい人が多いんですけどね。

玄田

しつこいね、脇坂さんも。

川口

だけど、その利点というのは、一つのテーマを掘り下げていくと、経済学の手法だけじゃなくて、社会学だとか、心理学だとか、いろいろな分野の研究を応用できたりするんですね。だから、一つのテーマを追求するというのは非常に大事ではないかと思います。

玄田

三谷さんは?

三谷

データの話ですけれど、先ほどから最近の労働経済学では個票データやパネルデータを用いて分析することが多くなっていて、こうしたデータにアクセスできることが研究の成否を決めるような話が出ていましたよね。逆にこうしたマイクロデータを使うことに腐心して、公表された集計データをうまく使って分析することをおろそかにする風潮があるように思うんだけど……。たとえば賃金センサスの公表データでもまだまだ十分使い切っていないと思うんですよ。誰かの言葉じゃないけど、ほんとうに「骨までしゃぶって」使い切ればいい研究がいろいろできると思いますね。(笑)

玄田

Kさん、編集の立場から労働経済を見ていてどうですか?

編集部K

聞いてみたいと言うよりも、これは私の全くの感想なんですけれども、今まで労働経済学というと、何か雲の上というか、理論だけがあって、要するに実生活にどういう影響があるのかなというのをここ2、3年前からよく感じていたんですね。この研究は、われわれの生活に何の役に立つんだろうと。まあ、ちょっとこれは言い過ぎかもしれませんが、ほとんどの大学は、われわれ国民の税金で運営されているわけですよね。それがわれわれにどういうふうに還元されるのかと思うことがよくあって、ただ、最近は、われわれの生活と経済学の研究とが、少しずつ何が合ってきているのかなというイメージを持つようになったのが一番大きいですね。

三谷

でも、どこかでつながっていなきゃいけないはずですよね、現実の問題と。昔ある数学者が言った言葉ですが、「問題が解けなければ、理論は要らない」。だから、強烈な問題意識を持って理論を組み立てるというのが、必ず必要なんでしょうね。

玄田

Oさんはどうですか?編集しているとあるでしょう、いろいろ。

編集部O

労働経済学に限ったことではないと思うのですが、あらゆる科学につきものの専門用語が僕には気になります。今日ちょっと話に出た言葉で、「制度の補完性」という言葉が出てきましたが、一見するだけでは意味が専門外の人には分からないと思うのです。編集をしているとそんな用語に何度もぶつかるのですが、何度か読み返してみると、やっと、何かすごくいいところを突いているんだろうなと思うときがあります。そして、何となくわかってくると、やはり必要な言葉なんだと気づく。何気ない専門用語にも深い意味があるのだということを、どのような媒体でもいいですから、教えてほしいという気持ちがいつもあります。

阿部

JILの雑誌に書くというのはどういうことかと考えると、難しい言葉を使いながらも、やはりイメージさせやすいような書き方が必要なんですかね。

玄田

労働経済学というのは、働いている人みんなが専門家ともいえるでしょう。個々人の持っているイメージを経済学の立場からわかりやすく示してほしいというニーズは、強まっている気がします。長時間にわたり、ありがとうございました。

この座談会は1999年11月19日に東京で行われた。

脚注

  • 注1 樋口美雄・玄田有史(1999)「中小製造業のグローバル化と労働市場への影響」、関口末夫・樋口美雄・連合総研編『グローバル経済時代の産業と雇用』東洋経済新報社。
  • 注2 INSEE, ENQUÊTE SUR COÛT DE LA MAIN D'OEUVRE ET LA STRUCTURE DES SALAIRES EN 1992. 詳しくは三谷直紀(1999)「フランスの賃金決定制度について」『国民経済雑誌』第179巻第6号 pp.61-75を参照されたい。
  • 注3 Steven J. Davis, John C. Haltiwanger, and Scott Schub(1996) Job Creation and Desruction, MIT Press.
  • 注4 The Bureau of Census が作成したLRD(Longitudinal Research Database)が用いられている。
  • 注5 独立開業を転職の一形態としてとらえた論文としては、阿部正浩・山田篤裕(1998)「中高年齢期における独立開業の実態」『日本労働研究雑誌』No.452(論文データベースにて全文参照可能)がある。
  • 注6 OECD(1992)“Recent Developments in Self-Employment,” OECD Employment Outlook, Ch.4, pp.156-194.
  • 注7 総務庁統計局「労働力調査年報」。
  • 注8 玄田有史(1997)「チャンスは一度─世代と賃金格差」『日本労働研究雑誌』No.449(論文データベースにて全文参照可能)。
  • 注9 大竹文雄・猪木武徳(1997)「労働市場における世代効果」、浅子和美・福田真一・吉野直行編『現代マクロ経済分析:転換期の日本経済』東京大学出版会。
  • 注10 Neal Derek (1999)“The Complexity of Job Mobility among Young Men,” Journal of Labor Economics, No.17, vol.2, pp.237-61.
  • 注11 たとえば Bloom, D. E., Freeman, R. B., and S. D. Korenman(1987), “The Labour-Market Consequences of Generational Crowding,” Europian Journal of Population, vol.3, pp.131-76.
  • 注12 労働省(1988)『労働白書』日本労働研究機構。
  • 注13 清水方子・松浦克己(1999)「技術革新への対応とホワイトカラーの賃金」『日本労働研究雑誌』No.467(論文データベースにて全文参照可能)。
  • 注14 ただし、コンピューター使用と賃金の関係については現在多くのアンケート調査が実施されており、今後の成果が期待できる。
  • 注15 動学モデルとは複数の期間にわたる意思決定のモデルである。たとえば、ある人の現在の就業状態は、その人の将来の労働能力に影響を及ぼす。したがって、人々は現在の効用水準だけでなく将来の効用水準も考慮して就業するか否かを選択する。これに対して、静学モデルは1期間の効用水準のみを考慮して意思決定を行うモデルで、初級レベルの教科書に出てくるモデルはほとんどが後者である。
  • 注16 「『ファミリーフレンドリー』企業をめざして」(1999)大蔵省印刷。ファミフレとは脇坂明氏による造語である。
  • 注17 いわゆる「ダグラス=有澤の法則」である。
  • 注18 安部由起子(1998)「1980~1990年代の男性高齢者の労働供給と在職老齢年金制度」『日本経済研究』No.36.
  • 注19 Hausman, J. (1980) “The Effect of Wages, Taxes, and Fixed Costs on Women's Labor Force Participation, Journal of Public Economics, Vol.14, pp.161-94.
  • 注20 三谷直紀「高齢者雇用政策と労働需要」、猪木武徳・大竹文雄編『雇用政策の経済分析』東京大学出版会(近刊)。
  • 注21 Hayami, Hitoshi and Masahiro Abe (1999) “Labour demands by age and gender in Japan: Evidences from linked micro data,” ‘Keio Economic Observatory Occasiona1 Paper,’ E. No.23, Keio Economic Observatory, Keio University.
  • 注22 VARは Vector Auto Regression の略。
  • 注23 村瀬英彰・梁松堅(1995)「日本企業の株式所有構造と経営者への利益配分」、倉澤資成・若杉隆平・浅子和美編『構造変化と企業構造』日本評論社。 胥鵬(1992)「日本企業は従業員主権型か─日本企業における経営者インセンティブからの検証」『日本経済研究』No.23。 Abe, Yukiko (1997) “Chief Executive Turnover and Firm Performance in Japan,” Journal of Japanese and International Economics, Vol.11, No.2 などが参考となる。
  • 注24野田知彦・浦坂純子「コーポレート・ガバナンスと雇用調整─企業パネルデータに基づく実証分析」日本経済学会 1999年度秋季大会報告論文。
  • 注25 Farber, Henry S. and Kevin F. Hallock (1999) “Have Employment Reductions Become Good News for Shareholders? The Effect of Job Loss Announcements on Stock Prices, 1970-97,” Working Paper 7295, NBER.
  • 注26 Tachibanaki, Toshiaki ed. (1998) Wage Defferential: An International Comparison, Macmillan Press.
  • 注27 Blau and Kahn (1994) “Rising Wage lnequality and the U.S. Gender Gap.” American Economic Review 84(2), pp.23-28.
  • 注28 富山雅代(1997)「日本の賃金構造の変化と男女間賃金格差の推移」理論計量経済学会報告論文。
  • 注29 中田喜文(1997)「日本における男女賃金格差の要因分析」、中馬宏之・駿河輝和編『雇用慣行の変化と女性労働』東京大学出版会。
  • 注30 OECD(1996) OECD Employment Outlook, ch.3, p.65 等。
  • 注31 たとえば、小池和男(1999)『仕事の経済学』第2版 東洋経済新報社。
  • 注32 たとえば、Aoki, Masahiko (1998) Informaiton, Incentives, and Bargaining in the Japanese Economy, Cambridge University Press.
  • 注33 たとえば、浅沼萬里(1997)『日本の企業組織 革新的適応のメカニズム─長期的取引関係の構造と機能』東洋経済新報社。
  • 注34 中馬宏之(1998)「『現場主義』下の人材形成と情報共有─工作機械メーカー9社の事例から」『経済研究』Vol.49、No.3。
  • 注35 Lazear, E.P., and S. Rosen (1981) “Rank-Order Tournaments as Optimal Labor Contracts,” Journal of Political Economy, Vol.89, pp.841-64.
  • 注36 大竹文雄・藤川恵子「日本の整理解雇」第37回計量経済学研究会議報告論文。
  • 注37 年功賃金制度は、賃金を後払いすることによって、怠業や不正行為で解雇されることなく定年まで働きたいというインセンティブを労働者から引き出すという理論。 Lazear, E.P. (1979) “Why Is There Mandatory Retirement?” Journal of Political Economy, Vol.86, pp.1261-84.
  • 注38 日本労働研究機構(1997)『国際比較:大卒ホワイトカラーの人材開発・雇用システム─日、米、英、独の大企業(1)事例調査編』調査研究報告書No.95、 日本労働研究機構『国際比較:大卒ホワイトカラーの人材開発・雇用システム─日、米、独の大企業(2)アンケート調査編』調査研究報告書No.101。
  • 注39 家計経済研究所(1999)『現代女性の暮らし方と働き方─消費生活に関するパネル調査(平成11年版)』。
  • 注40 東京大学社会科学研究所の、SSJデータ・アーカイブの、ホームページアドレスは、 http://ssjda.iss.u-tokyo.ac.jp/新しいウィンドウ である。
  • 注41 ICPSRのホームページのアドレスは、http://www.icpsr.umich.edu/新しいウィンドウ
  • 注42 労働研究の教育に関する特集を、本誌2000年4月号で予定。
  • 注43 大内章子(1999)「大卒女性ホワイトカラーの企業内キャリア形成─総合職・基幹職の実態調査より」『日本労働研究雑誌』No.471(論文データベースにて全文参照可能)。
  • 注44 Nishikawa, Makiko (1997) “Occupacional Sex Segregation; A Comparative Study between Britain and Japan,” unpublished Thesis at University of Oxford.
  • 注45 安部由紀子「就職市場における大学の銘柄効果」、中馬宏之・駿河輝和編『雇用慣行の変化と女性労働』東京大学出版会。
  • 注46 第8回労働経済コンファレンスでの竹内洋氏の報告による。
  • 注47 浜田宏一・黒坂佳央(1984)『マクロ経済学と日本経済』日本評論社。 または、 Hamada, Koichi and Kurosaka, Yoshiou (1984) “The Relationship between Production and unemployment in Japan: Okun's Laws in Comparative Perspective,” European Economic Review. Vol.25, No.1, pp.71-91 参照。

文献リスト

日本労働研究雑誌に掲載された論文は、当機構「論文データベース」で全文をご覧になれます。

1. 雇用システムと労働市場(コーポレートガバナンス)

  1. 阿部正浩・山田篤裕(1998)「中高齢期における独立開業の実態」『日本労働研究雑誌』No.452
  2. 安部由起子(1997)「就職市場における大学の銘柄効果」、中馬宏之・駿河輝和編『雇用慣行の変化と女性労働』東京大学出版会
  3. 浦坂純子(1999)「新卒労働市場におけるOB効果と大学教育」『日本労働研究雑誌』No.471
  4. 大内章子(1999)「大卒女性ホワイトカラーの企業内キャリア形成─総合職・基幹職の実態調査より」『日本労働研究雑誌』No.471
  5. 大竹文雄(1999)「年功賃金・退職金・景気循環が欠勤行動に与える影響と労働組合」、中村二朗・中村恵編『日本経済の構造調整と労働市場』日本評論社
  6. 尾高煌之助「日本の工場・アメリカの工場」、東京大学社会科学研究所編『21世紀システム 3 経済成長II 受容と対抗』東京大学出版会
  7. 小野旭(1997)「生え抜き登用の後退と内部労働市場の変質─マイクロ・データによる検証」、中馬宏之・駿河輝和編『雇用慣行の変化と女性労働』東京大学出版会
  8. 神林龍(1999)「戦前期日本の雇用創出─長野県諏訪郡の器械製糸のケース」『日本労働研究雑誌』No.466
  9. 玄田有史・石原真三子・神林龍(1998)「自営業減少の背景」『国民金融公庫調査季報』第47号
  10. Genda, Yuji(1998) “Job Creation and Destruction in Japan, 1991-1995,” Journal of the Japanese and International Economies, Vol.12, No.1
  11. 玄田有史(1999)「雇用創出と雇用喪失」、中村二朗・中村恵編『日本経済の構造調整と労働市場』日本評論社
  12. 櫻井宏二郎(1999)「偏向的技術進歩と日本製造業の雇用・賃金」『経済経営研究』(日本開発銀行設備投資研究所)Vol.20-2
  13. 篠崎彰彦(1999)「米国にみる情報化投資と雇用」『日本労働研究雑誌』No.467
  14. 篠塚英子「アンペイド・ワークの議論と女性労働」、中馬宏之・駿河輝和編『雇用慣行の変化と女性労働』東京大学出版会
  15. 清水方子・松浦克己「技術革新への対応とホワイトカラーの賃金」『日本労働研究雑誌』No.467
  16. Shimono, Keiko(1997) “Low Unemployment Rate and Female Labour Supply in Japan” 『オイコノミカ』第33巻第3・4号
  17. Suruga, Terukazu(1998) “Employment Adjustment in Japanese Firms: Negative Profits and Dismissals,” Ohashi, Isao and Toshiaki Tachibanaki eds. Internal Labour Market, Incentives and Employment, Macmillan Press
  18. 崔康植(1999)「組織構造のデザイン─配置転換と共謀の比較分析」『香川大学経済論叢』第71巻4号
  19. 中馬宏之(1997)「経済環境の変化と中高年層の長勤続化」、中馬宏之・駿河輝和編『雇用慣行の変化と女性労働』東京大学出版会
  20. 中馬宏之(1999)「建設労働の構造と特徴」、金本良一編『日本の建設産業』日本経済新聞社
  21. 野田知彦(1997)「労働組合と生産性」『日本労働研究雑誌』No.450
  22. 古郡鞆子(1997)「産業構造の変化と多様化する雇用形態」『日本労働研究雑誌』No.447
  23. 樋口美雄・新保一成(1998)「景気変動下における雇用創出と雇用安定」『三日商学研究』第41巻第4号
  24. 樋口美雄(1998)「日本の雇用創出と雇用安定」小宮隆太郎・奥野正寛編著『日本経済21世紀への課題』東洋経済新報社
  25. 三谷直紀(1997)「高齢者就業と自営業」『企業内賃金構造と労働市場』勁草書房
  26. 脇坂明(1997)「日本とドイツのパートタイマーの比較」『岡山大学経済学会雑誌』第29巻第1号
  27. 脇田成(1997)「協調の失敗と雇用慣行」『日本労働研究雑誌』No.447

2. 仕事と家庭(育児・就業)

  1. 樋口美雄・阿部正浩(1999)「経済変動と女性の結婚・出産・就業のタイミング」樋口美雄・岩田正美編著『パネルデータからみた現代女性』東洋経済新報社
  2. 滋野由紀子・大日康史(1997)「女性の結婚選択と就業選択に関する一考察」『家計経済研究』No.36
  3. 滋野由紀子・大日康史(1998)「育児休業制度の女性の結婚と就業継続への影響」『日本労働研究雑誌』No.459
  4. 永瀬伸子(1997)「女性の就業選択─家庭内生産と労働供給」、中馬宏之・駿河輝和編『雇用慣行の変化と女性労働』東京大学出版会
  5. 永瀬伸子(1997)「既婚女子の労働供給─短時間、長時間労働供給関数の推定」『経済研究』Vol.48、No.1
  6. 永瀬伸子(1997)「高齢女性の就業行動と年金受給─家族構成、就業履歴から見た実証分析」『季刊社会保障研究』Vol.33、No.3
  7. Nagase, Nobuko(1997) “Wage Differentials and Labour Supply of Married Women in Japan: Part-Time and Informal Sector Work Opportunities,” Japanese Economic Review, Vol.48, No.1
  8. Nakamura, Jiro and Atsuko Ueda(1999) “On the Determinants of Career Interruption by Childbirth among Married Women in Japan,” Journal of the Japanese and International Economies, Vol.13, No.1
  9. 樋口美雄・阿部正浩・Jane Waldfogel (1998)「日米英における育児休業・出産休業制度と女性就業」『人口問題研究』53巻4号
  10. 前田信彦(1999)「家族のライフサイクルと女性の就業─同居親の有無とその年齢効果」『日本労働研究雑誌』No.459
  11. 宮内環(1997)「近年の労働供給分析の意義と課題」『日本労働研究雑誌』No.447
  12. 森田陽子・金子能宏(1998)「育児休業制度の普及と女性雇用者の勤続年数」『日本労働研究雑誌』No.459
  13. 八代尚宏「少子化とマクロ経済」、中村二朗・中村恵編『日本経済の構造調整と労働市場』日本評論社
  14. Yoshida, Masatoshi(1998) “Optimal Taxation with a Trade-off between Income and Children,” Journal of the Japanese and International Economies, Vol.49, No.4
  15. 脇坂明(1997)「コース別人事制度と女性労働」、中馬宏之・駿河輝和編『雇用慣行の変化と女性労働』東京大学出版会

3. 高齢者関係

  1. 安部由起子(1998)「1980~1990年代の男性高齢者の労働供給と在職老齢年金制度」『日本経済研究』No.36
  2. 大橋勇雄(1998)「定年退職と年金制度の理論的分析」『日本労働研究雑誌』No.456
  3. 小川浩(1998)「年金が高齢者の就業行動に与える影響について」『経済研究』Vol.49、No.3
  4. 清家篤・山田篤裕(1996)「Pension Rich の条件」『日本経済研究』No.33
  5. Suruga, Terukazu, “Employment Problems for the Elderly in Japan,” Bulletin of Osaka Prefecture University. Ser. D, Economics buisness administration and law

4. 失業・転職・離職

  1. 阿部正浩(1999)「企業ガバナンス構造と雇用削減意思決定─企業財務データを利用した実証分析」、中村二朗・中村恵編『日本経済の構造調整と労働市場』日本評論社
  2. 太田聰一(1999)「景気循環と転職行動:1965-94」、中村二朗・中村恵編『日本経済の構造調整と労働市場』日本評論社
  3. 太田聰一・玄田有史(1999)「就業と失業─その連関と新しい視点」『日本労働研究雑誌』No.466
  4. Osano, Hiroshi(1997) “An Evolutionary Model of Corporate Governance and Employment Contracts,” Journal of the Japanese and International Economies, Vol.11, No.3
  5. 玄田有史・小池芳彦(1999)「中小製造業の技能形成と雇用調整」、関口未夫・樋口美雄・連合総研編『グローバル経済時代の産業と雇用』東洋経済新報社
  6. 駿河輝和(1997)「日本企業の雇用調整」、中馬宏之・駿河輝和編『雇用慣行の変化と女性労働』東京大学出版会
  7. 瀧敦弘(1998)「職業選択と職業間労働移動」『年報経済学(広島大学)』
  8. 橘木俊詔・長谷川和明・田中哲也(1997)「転職行動の経済分析」『通産研究レビュー』9号
  9. Tsukuda, Yoshihiko and Tatsuyoshi Miyakoshi(1999) “The Japanese Labor Markets: Unemployment and Vacancies,” Journal of the Japanese and International Economies, Vol.13, No.2
  10. 照山博司・戸田裕之(1997)「日本の景気循環における失業率変動の時系列分析」、浅子和美、大瀧雅之編『現代マクロ経済動学』東京大学出版会
  11. Hildreth, Andrew K. G., and Ohtake, Fumio (1998) “Labor Demand and the Structure of Adjustment Costs in Japan,” Journal of the Japanese and International Economies, Vol.12, No.2

5. 所得分配

  1. 荒井一博(1998)「ライフサイクル賃金モデル─年功賃金制の理論」『経済学研究』
  2. 李みん珍(イ・ミンジン)(1998)「日本の賃金決定の『集権化』と賃金格差の変化」『日本労働研究雑誌』No.461
  3. 猪木武徳・大竹文雄(1997)「労働市場における世代効果」、浅子和美・福田真一・吉野直行編『現代マクロ経済分析─転換期の日本経済』東京大学出版会
  4. 大竹文雄・斎藤誠(1999)「所得不平等化の背景とその政策的含意」『季刊社会保障研究』Vol.35、No.1
  5. 奥井めぐみ・大竹文雄(1997)「『職種格差』か『能力格差』か?」『日本労働研究雑誌』No.449
  6. 奥西好夫(1998)「企業内賃金格差の現状とその要因」『日本労働研究雑誌』No.460
  7. 岡村和明(1999)「教育・雇用・所得分配」『日本労働研究雑誌』No.471
  8. 川口章(1997)「男女賃金格差の経済理論」、中馬宏之・駿河輝和編『雇用慣行の変化と女性労働』東京大学出版会
  9. 川口章(1999)「コース選択と賃金選択─統計的差別は克服できるか」『日本労働研究雑誌』No.472
  10. 岸智子(1998)「ホワイトカラーの転職と外部経験」『経済研究』Vol.49、No.1
  11. 玄田有史(1997)「チャンスは一度─世代と賃金格差」『日本労働研究雑誌』No.449
  12. 胥鵬(1997)「日本企業における配当、役員賞与と雇用調整」『日本労働研究雑誌』No.451
  13. 中田喜文(1997)「日本における企業間賃金格差の現状」『日本労働研究雑誌』No.449
  14. 中田喜文(1997)「日本における男女賃金格差の要因分析」、中馬宏之・駿河輝和編『雇用慣行の変化と女性労働』東京大学出版会
  15. 中村二朗・大橋勇雄(1999)「景気変動と企業内労働市場における賃金決定」、中村二朗、中村恵編『日本経済の構造調整と労働市場」日本評論社
  16. 野田知彦(1997)「賃金構造と企業別労働組合」『日本経済研究』No.35
  17. 堀春彦(1998)「男女間賃金格差の縮小傾向とその要因」『日本労働研究雑誌』No.456
  18. 三谷直紀(1999)「フランスの賃金決定制度について」『国民経済雑誌』第179巻第6号 pp.61-75
  19. 松村久良光(1997)「職業資格・学歴からみたドイツの賃金構造」『南山経済研究』第11巻第3号

6. 賃金・昇進制度・技能形成

  1. Itoh, Hideshi and Osamu Hayashida (1998) “Decentralised Personnel Management,” Ohashi, Isao and Toshiaki Tachibanaki(eds.) Internal Labour Markets, Incentives and Employment, Macmillan Press
  2. Ohta, Soichi and Toshiaki Tachibanaki (1998) “Job Tenure versus Age: Effects on Wage and the Implication of Consumption for Wages,” Ohashi, Isao and Toshiaki Tachibanaki (eds.) Internal Labour Market, Macmillan Press
  3. 玄田有史(1999)「ホワイトカラーの処遇変化と団塊世代の影響」『社会科学研究』50巻3号
  4. 橘木俊詔・丸山徹也(1998)「昇進、インセンティブと賃金」『日本経済研究』No.36
  5. 中馬宏之(1998)「『現場主義』下の人材形成と情報共有─工作機械メーカー9社の事例から」『経済研究』Vol.49、No.3
  6. 中馬宏之(1999)「技能蓄積・伝承システムの経済分析」『日本労働研究雑誌』No.468
  7. 都留康・奥西好夫・守島基博(1998)「日本企業の人事制度」『経済研究』Vol.50、No.3
  8. 中村恵(1999)「製造業ブルーカラーの賃金構造の変化と技能形成」、中村二朗・中村恵編『日本経済の構造調整と労働市場』日本評論社
  9. 日本労働研究機構(1997)「国際比較:大卒ホワイトカラーの人材開発・雇用システム─日、英、米、独の大企業(1)事例調査編』調査研究報告書No.95
  10. 日本労働研究機構(1998)「国際比較:大卒ホワイトカラーの人材開発・雇用システム─日、米、独の大企業(2)アンケート調査編」調査研究報告書No.101
  11. 久本憲夫(1999)「「日本型労働システム」の確立と社員化」、中村二朗・中村恵編『日本経済の構造調整と労働市場』日本評論社
  12. 馬駿(1997)「技能形成のためのインセンティブシステム─日本の電機企業M社の事例研究を通して」『日本労働研究雑誌』No.450
  13. 守島基博(1997)「企業内賃金格差の組織論的インプリケーション」『日本労働研究雑誌』No.449
  14. Shigeru Wakita(1998) “A Model for Patterns of Industrial Relations,” Ohashi, Isao and Toshiaki Tachibanaki (eds.) Internal Labour Market, Incentives and Employment, Macmillan Press
  15. 脇田成(1999)「企業内工程間分業と熟練形成のモデル分析」、中村二朗・中村恵編『日本経済の構造調整と労働市場』日本評論社

7. 政策・法の評価

  1. 安部由起子(1999)「女性パートタイム労働者の社会保険加入の分析」『季刊社会保障研究』Vol.35、No.1
  2. 猪木武徳(1999)「労働法制と労働市場」『日本労働研究雑誌』No.463
  3. 大竹文雄(1998)「退職金税制と労働市場」『季刊社会保障研究』Vol.34、No.2
  4. 大竹文雄(1999)「高失業率時代における雇用政策」『日本労働研究雑誌』No.466
  5. 金子能宏(1999)「高年齢者雇用政策と雇用保険財政」『経済研究』Vol.49、No.1
  6. 橘木俊詔(1999)「失業時の所得保障制度の役割とその経済効果」『日本労働研究雑誌』No.466
  7. 中馬宏之(1998)「『解雇権濫用の法理』の経済分析─雇用契約理論の視点から」、三輪芳朗・神田秀樹・柳川範之編『会社法の経済学』東京大学出版会
  8. 八代尚宏(1998)「高齢者就業と雇用保険制度の役割」『日本労働研究雑誌』No.456

以上の文献リストは、主に1996年10月から99年10月にかけて刊行された労働経済学関係の論文の中から、本座談会参加者が精選し作成したものである。