資料シリーズNo.247
わが国の福利厚生の導入と利用の実態とその諸要因、そして有効性の検証
―『企業における福利厚生施策の実態に関する調査』(2017)二次分析―

2022年3月15日

概要

研究の目的

多様化する雇用環境下における福利厚生の姿を確認するため、2017年度に厚生労働省雇用環境・均等局勤労者生活課勤労者福祉事業室からの要請に基づくアンケート調査、2018年度にヒアリング調査を実施した。2019年3月にヒアリング調査結果を取りまとめた資料シリーズ(No.210)、2020年7月にアンケート調査結果を調査シリーズ(No.203)としてそれぞれ発刊している。このアンケート調査については、企業における福利厚生制度・施策の現状や従業員のニーズなどをさらに深く把握するため、西久保浩ニ・山梨大学大学院教授の協力を得て二次分析を行い、施策の効果、課題の超出などを解明した。

研究の方法

2017年に実施したアンケート調査「企業における福利厚生施策の実態に関する調査」の個票データをもとにした、多変量解析を含む二次分析。

主な事実発見

本調査では、第1章で福利厚生制度・施策の導入・利用実態を企業・従業員両調査から俯瞰するとともに、企業調査から、今後施策を充実または縮小したいという意向についての傾向を分析し、さらに非正規従業員に限って見た施策の適用実態、アウトソーシング、カフェテリアプランの導入実態を調べている。ここでは、主な分析結果のみを示す。

企業回答からみた導入実態については、導入施策の総数と企業特性の相関分析結果から、「労働組合(の有無)」や「企業規模」の影響が大きいことがわかった。さらに女性の正規従業員数が多い企業で導入の充実がみられた(図表1)。

図表1 制度・施策数との相関分析

図表1画像

また、制度・施策実施の目的については、「人材の確保」「従業員の定着」とともに、「医療,福祉」の業種に因果性が認められるなど業種ごとの傾向も浮かび上がった。従業員の回答からみた制度・施策の利用実態では、正社員の(正社員以外と比べた)利用率の高さ、性別では女性、年齢別では高年齢層の利用経験数の高さが裏づけられた。

導入施策の合計数をもとに企業の充実または縮小の意向をみると、充実に関しては業種で「宿泊業,飲食サービス業」「生活関連サービス業,娯楽業」に正の有意性が見られたが、すでに導入の充実がみられているためか「従業員数」「労組の有無」などの影響は観測されなかった。一方縮小意向については、従業員が「不足している」と認識している企業では廃止・縮小する制度・施策は少なく、また同様に自社の業績が「上向き」と評価する企業ほど廃止・縮小する制度・施策は少ないなど、必然性のある結果となった。企業がどれだけ多くの制度・施策を非正規従業員に開放しているかについては、企業属性として「女性比率」「労働組合の有無」が正で有意となっている。なおアウトソーシングについては、その対象施策数との相関関係は、「総従業員数」「正規従業員数」「女性正規従業員数」「労働組合の有無」で有意であった。カフェテリアプランでは「従業員数」で顕著な因果関係が確認された。

第2章では、福利厚生制度・施策11カテゴリ・48項目のそれぞれについて、導入・利用実態とその要因を、企業・従業員両調査から分析している。個別制度領域においては、多種多様な制度・施策の編成において、企業の人事労務管理、財政状態、人事課題など、従業員側の利用者・受益者としてのニーズなどの要因に加え、今日では少子高齢化対策、働き方改革などの社会的要請なども影響を及ぼしている。ここでは、それぞれの制度・施策ごとに、企業調査における導入率、企業属性からみた要因分析、施策の充実・縮小意向、非正規従業員適用実態、従業員調査における利用実態について分析した。個々の分析結果については本文から確認いただきたい。

第3章では、企業経営、人的資源管理における福利厚生制度・施策の有効性を、主に企業調査のデータから検証した。分析の項目は、① 従業員の採用・確保(企業・従業員調査)② 従業員の定着状況の変化(企業調査)③ 従業員の定着状況に対する問題認識(企業調査)④ 職場の従業員の定着状況(従業員調査)⑤ 企業業績への影響力(企業調査)⑥ 従業員の定着意向(従業員調査)⑦ 会社に対する満足度(従業員調査)――である。① からは、多様な福利厚生制度を導入し、充実させた企業ほど、採用・確保が容易であり、福利厚生が採用、定着に有効な機能を果たしている可能性が示唆される。また、個々の福利厚生分野では、「両立支援」「休暇」「高齢者」で正の影響力が確認された(図表2)。一方従業員の企業選定とその後の企業での定着傾向をみると、就活時に福利厚生の内容を重視するほど、入社後の会社への総合的な満足度、現在の勤務先企業での定着意向がいずれも高いという関係がみられた(図表3)。② については、業種および各企業属性をふまえたいくつかの分析により、福利厚生の充実度が「定着状況の変化」に有意な影響があることが確認されている。以下の各項目については、とくに⑤ において福利厚生の充実度と企業業績(業績が好調)の関連性が高いこと、福利厚生が⑥ において従業員の定着度を高める影響力があること、⑦ で同様に従業員の満足度を高める影響力があることが確認されている。

図表2 要因分析

図表2画像

* P<0.10 ** p<0.05 *** p<0.01
stepwise method

図表3 相関分析

図表3画像

政策的インプリケーション

法定外福利厚生施策は、かつての慶弔給付、財産形成、食事・住宅等の提供あるいは補助といった主軸に加え、現在、仕事と生活の両立支援、自己啓発、労働時間・休暇制度の見直しを含む「働き方改革」に係る施策など、多様化が進行しており、本調査ではその状況をある程度明らかにできたと考える。また、企業の従業員規模別や利用者の就業形態別の状況、大手企業を中心とするアウトソーシング、カフェテリアプランの利用実態なども調べており、多様な制度構築や「働き方改革」との関連付けの検討など幅広い利用を期待している。

政策への貢献

労働政策審議会(勤労者生活分科会)における調査結果報告等に活用された。

本文

研究の区分

情報収集

研究期間

令和2~3年度

調査担当者

西久保 浩二
山梨大学大学院教授
吉田 和央
労働政策研究・研修機構 アドバイザリーリサーチャー

入手方法等

入手方法

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ご購入について
成果普及課 03-5903-6263 

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