資料シリーズ No.148
雇用ポートフォリオの動向と非正規の正規雇用化に関する暫定レポート

平成27年3月12日

概要

研究の目的

2013年以降、経済情勢や雇用情勢が好転する中で、非正規雇用者の処遇改善とともに、その正規化に本格的に着手する企業も出てきた。そこで、企業における非正規から正規への転換の状況や雇用における正規・非正規(=雇用ポートフォリオ)の今後の動向について、現時点でできる取組みを通じて、その方向性を展望することをめざした。

研究の方法

①非正規雇用者の正規登用等に取り組む企業等に対するヒアリング調査、②2014年2月に実施したアンケート調査結果データの集計分析、③JILPTが行った労働力需給推計結果をベースとして中期的な形態別雇用構造の変化を展望するシミュレーションの実施、といった取組みを行い、その結果をとりまとめた。

主な事実発見

1)正規・非正規雇用の動向に関する現状認識・・・正規転換の「第2ラウンド」の到来の兆し

  • 雇用形態別の雇用者数(=マクロ的な雇用ポートフォリオ)の推移をみると、平成9年(1997年)頃までは正規も非正規のどちらも増加していたものが、それ以降は正規が減少する一方で非正規が増加するという急激な非正規化の時期が続いたが、平成18年、19年には正規雇用者数も増加に転じた。この時期には、非正規の正社員登用制度の導入が進むとともに、少なくない企業で非正規雇用者を一括して正規雇用とする動きもみられた。この時期は、非正規雇用の正規転換が高まった「第1ラウンド」であったということができる(図表1)。
  • しかしながら、リーマン・ショックに伴う金融危機の発生等により、その動きはいったん頓挫することを余儀なくされた。
  • その後平成25年(2013年)に入って、経済情勢が明確な好転を示し、労働力需給の引き締まり傾向の下で、非正規雇用者の正規化に本格的に着手する企業も出てきた。すなわち、非正規雇用の正規転換が高まる「第2ラウンド」の時期が到来したことが窺われる。

図表1 離職・転職を通じた雇用形態間の移動の動向
―過去1年間において離職を経験した者の前職・現職の雇用形態間の移動―

図表1画像

資料:総務省統計局「労働力調査・詳細集計」

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2)ヒアリング調査による雇用ポートフォリオの現状と今後の方針

非正規の正規転換等に積極的に取り組んでいる企業に対するヒアリング調査を行った結果、次のような動きがみられた。

  • 日本郵政(JP)・・・従来の「一般職」を「地域基幹職」に移行させるとともに、勤務地と職種を限定した「(新)一般職」を新設し、契約社員からも大量に登用。
  • 全日空(ANA)・・・これまで契約社員であった客室乗務員を正社員化し、また、今後は客室乗務員の採用をすべて正社員採用とする。
  • コープさっぽろ・・・契約社員を正社員化する雇用区分として「エリア職員」を新設。
  • ファンケル・・・店舗勤務の正社員について職種・勤務地限定の社員区分を設定するとともに、契約社員の当該(限定)正社員への登用を積極的に推進。
  • 帝国ホテル・・・1996年の契約社員の「エリア社員」制度創設以降、様々な変遷を経て地域限定の正社員制度となった。また、パート社員から当該地域限定の正社員への登用も制度化。

また、ヒアリング調査からは、次のような特徴点を挙げることができる。

  1. 総じて、正規雇用者、非正規雇用者という2区分から、正規雇用者を従来型の正規雇用者と勤務地などを限定する正規雇用者とに分け、非正規雇用者と併せて雇用区分を3区分(以上)に変更する動きがみられた。3区分化は、雇用形態にグラデーションをつくる形で行われている。この結果、(従来型の正規雇用者と新しいタイプの正規雇用者を合わせた)正規雇用者数は概ね増加し、その雇用者数全体に占める割合も高まっている。他方、従来型の非正規雇用者数は減少し、その割合も低下している。
  2. 雇用形態にグラデーションをつくる際の一つの方法として、非正規雇用者の登用先の正規雇用として、新たな雇用コースが創設されている場合が多いことがある。新たな雇用コースとしては、職域(「期待役割」)や就業先の地域など一定の限定が設けられたいわゆる「○○限定正社員」となっている。非正規の登用先としての「限定正社員」制度がかなり普及し始めていることが窺われる。
  3. 改正労働契約法(第18条)への対応が背景となっているところがみられている。周知のように、有期契約で5年を超えて継続して雇用された非正規雇用者が希望すれば、それ以降は期間の定めのない雇用へ移行させなければならないこととされた。法律上は、平成30年から適用事案が生じることとなっているが、それに先行した取組として、非正規の正規雇用転換を積極的に進めようとしている。

3)アンケート調査に基づく雇用ポートフォリオの現状と今後の動向

  • 今後3年間における正社員数の変化予測は、現状維持とする事業所が45.4%ともっとも多いが、増加を見込む事業所も28.9%あり、減少を見込む事業所(5.6%)を大きく上回っている。産業別には、「学術研究、専門・技術サービス業」(48.4%)や「情報通信業」(41.4%)などで増加を見込む事業所の割合が特に高くなっている。また、正社員増加見込みは、正社員の不足感の高まりや非正規の正規雇用登用の制度・実績があることと関連していることが示されている。
  • 今後3年間における正社員数の期待増減数を現在の正社員数に対する比率でみると、10%以下増が18.6%、10%超20%以下増が10.2%、20%超増が6.7%となっているのに対して、10%以下減が3.5%、10%超減が2.9%と増加が減少を上回っている(期待増減数無回答を除く事業所割合)。この回答をもとに加重平均により平均増減率を試算すると、全体では3.67%増となり、産業別には、回答事業所数が少ない産業を除いてみて、「学術研究、専門・技術サービス業」(10.12%増)や「飲食料品小売業(7.69%増)、「情報通信業」(7.67%増)、などで高くなっている。
  • 今後における非正規から正規雇用への登用の予測は、「変わらない」とする事業所が53.2%ともっとも多いが、増加を見込む事業所も21.6%あり、減少を見込む事業所(3.6%)を大きく上回っている。また、過去1年間に登用実績のあった事業所(増加予測36.3%)だけでなく、実績のなかった事業所(同15.5%)でも登用の増加を予測している事業所が少なくない。

図表2 産業別に見る今後3年間における事業所の正社員の期待増減率

図表2画像

(加重平均値、単位:%(事業所数を除く))

注)正社員の期待変化率とは、今後3年間の正社員数の期待増減数/2014年1月1日の正社員数である。2014年1月1日の正社員数をウエイトとする加重平均値である。

4)シミュレーションによる雇用ポートフォリオの展望

  • 労働力の需要側のトレンドを反映したシミュレーションとして、産業ごとのこれまでの雇用形態構成割合の傾向を将来に延長して得られた推計では、非正規割合(役員を除く雇用者に占める割合)は、推計の足もと年(2013年)の36.6%が2020年には40%程度まで上昇し、もっとも就業状況が良好なケースであっても正社員はその間に140万人弱程度減少すると試算された。これに対し、従来のトレンドが止まり、産業ごとの雇用形態構成割合が2013年程度のままで推移するとすれば(雇用形態構成割合固定ケース。ただし就業者に占める雇用者の割合は過去のトレンドで上昇すると仮定。)、正社員は同期間に76万人弱程度増加すると試算された。
  • 労働力の供給側のトレンドを反映したシミュレーションとして、性・年齢階級ごとのこれまでの雇用形態構成割合の傾向を将来に延長して得られた推計では、非正規割合は2020年には41%程度まで上昇し、もっとも就業状況が良好なケースであっても正社員はその間に140万人弱程度減少すると試算された。これに対し、就業者に占める雇用者の割合はこれまでのトレンドで推移するものの、性・年齢階級ごとの雇用形態構成割合は2013年程度のままで推移するとすれば、正社員は同期間に30万人程度増加すると試算された。
  • さらに、上記雇用形態構成割合固定ケースの推計をベースに、第2章の調査結果から得られた今後3年間の各産業における正社員数の期待変化率を加味して推計すると、正社員数は160万人強とかなりの増加となり、非正規割合は34.6%に低下すると試算された

図表3 主なシミュレーション結果のまとめ

図表3画像

(注) 基礎とした労働需給推計は、経済・雇用環境についてもっとも順調に推移した「経済再生・参加進展」のケースの推定である。

政策的インプリケーション

  • 「第2ラウンド」の好機を活かし、非正規から正規雇用転換の流れに棹さす施策の総合的・体系的実施…企業内転換か外部転換かを問わず、非正規から正規雇用転換の流れに棹さす(流れを促進する)施策をすべてメニュー化し、個々のケースに応じて的確に実施すること。
  • 地域の視点の重要性・・・「第2ラウンド」において、注目すべき点の一つに「地域限定正社員」があるが、「地域限定正社員」に関して懸念される論点(たとえば、地域の拠点が喪失されざるを得ない状況に陥った場合に雇用の安定性が損なわれる可能性)、さらには、一つの地域にのみ展開している中堅・中小企業を含めた地域の雇用確保・創出問題を含め、関連の論点を整理しておくことが求められる。

政策への貢献

正規・非正規の雇用ポートフォリオに関する展望を示すとともに、非正規から正規への転換等に関連した論点を整理することを通じて、政策論議の活性化に向けた基礎資料となることが期待される。

本文

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研究の区分

プロジェクト研究 「非正規労働者施策等戦略的労働・雇用政策のあり方に関する調査研究」

サブテーマ「正規・非正規の多様な働き方に関する調査研究」

研究期間

平成26年度

執筆者

浅尾 裕
労働政策研究・研修機構 特任研究員
荻野 登
労働政策研究・研修機構 調査・解析部長
中野 諭
労働 政策研究・研修機構 研究員
石原 典明
労働政策研究・研修機構 調査・解析部解析担当部長

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