資料シリーズ No.147
諸外国における電気事業の争議規制に関する調査
―イギリス、ドイツ、フランス、アメリカ、韓国―

平成27年3月13日

概要

研究の目的

近年、電力システム改革を踏まえた電気事業の争議規制の在り方について検討が進められている。そこで、平成26年8月に設置された「労働政策審議会電気事業及び石炭鉱業における争議行為の方法の規制に関する法律の在り方に関する部会」の議論に資するよう、イギリス、ドイツ、フランス、アメリカ、韓国の電気事業の争議規制に関する調査を実施した。

研究の方法

文献サーベイ

主な事実発見

電気事業等を含めた公益事業の労働争議に対して、国レベルでの規制がある国、州や地方レベルでの規制がある国、また、法令により規制している国、法令による規制はほとんどない国、あるいは法令による規制はないが、判例等から判断している国――など、規制の形は国によって様々である。さらに、電気事業の運営形態についても、当該5か国の中には、純然たる国営(公営)――すなわち職員は公務員――により運営されている国はなかったが、実質は国の所有による公社的な、国の関与を残す運営形態をとるところから、完全に民営化さているところまで、様々である。

規制の形がどうであれ、また、運営体制がどうであれ、国民の生活に必須の電気を提供するという事業であるということから、法令によるのか、判例によるのか、あるいはまた、労使間の取り決めによるのか等の違いはあるものの、国民の生活に必須のサービスを完全にストップさせないようなシステムが、公益事業に限定したものではなくとも、なんらかの形で存在している―ただし、そのシステムが実際に電気事業において発動されたことがあるかどうかは別にして―点は、この5か国に共通している。また、法令で規制している国についても、日本の「電気事業及び石炭鉱業における争議規制に関する法律」のように、電気事業に限定して争議行為を規制しているものではなく、あくまでも、公益事業という枠組みで、その中のひとつに電気事業も含めて、規制しているものであった。

図表 アメリカの電気産業における近年の労働争議の事例

2012年10月5日

ミシシッピー州ポート・ギブソン、グランド・ガルフ原子力ステーション

ロックアウト:  United Government Security Officers of America Local 36

警備会社および他の発電施設からリプレースメント要員が送り込まれた。

9月30日の労働協約の期限切れに伴い、企業側がより柔軟性を高めた運用をしようとしたことが原因 。

2012年6月20日

マサチューセッツ州プリマス、ピルグリム原子力発電所(Entergy Corp)

ロックアウト期間2週間: Utility Workers Union of American Local 369

健康保険コストの維持及びヘルスケアオプションの拡充に関する組合員投票、および労働協約締結までの間、組合側はピケをはる。

マサチューセッツ州選出、ケリー上院議員が労使がともに交渉テーブルにつくよう求める声明 。

マサチューセッツ州検事総長が高等裁判所に、原子力規制委員会(NRC;Nuuclear Regulatory Committee)が周辺コミュニティに対して安全配慮を滞りなく行うように求めた。検事総長は福島第一原発事故に関連して、安全上に懸念を持っているとコメント 。

2011年3月18日

ハワイ州 Hawaiian Electric Co.

労働協約締結に伴うストライキ:3月4日~18日(18日に協約締結)国際電気工組合(IBEW)Local 1260、1300人

賃上げ、健康保険の自己負担増額、年金の改善についての交渉が決裂し、労働組合がストライキに突入。これに対しHECO(Hawaiian Electric Co.)は幹部や非組合員を動員して業務にあたったが、暴風雨により停電が発生。ストライキ中であったために復旧作業が遅れ、数日間停電となり、オアフ島、マウイ島等の8,000の世帯、事業所に影響を及ぼした。

Neil Abercrombie州知事は交渉を再開するよう促す。

出所:第4章より

政策的インプリケーション

法令、判例、労使間の取り決め等の違いはあるものの、国民の生活に必須のサービスを完全にストップさせないようなシステムが、公益事業に限定したものではなくとも、なんらかの形で存在している点は、この5か国に共通していることが明らかになった。また、法令で規制している国についても、日本の「電気事業及び石炭鉱業における争議規制に関する法律」のように、電気事業に限定して争議行為を規制しているものではなく、あくまでも、公益事業という枠組みで、その中のひとつに電気事業も含めて、規制しているものであった。

政策への貢献

わが国における電気事業の争議規制の在り方に関する議論において、諸外国から得られた知見が、係る議論の参考とされた。本調査報告を基に要請元が作成した資料が、平成26年11月26日、第3回労働政策審議会(電気事業及び石炭鉱業における争議規制に関する法律の在り方に関する部会)に提出された。

本文

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研究の区分

緊急調査

研究期間

平成26年9月~平成27年10月

執筆者

中村 慎一
国際研究部 主任調査員(調査の概要、第5章)
樋口 英夫
国際研究部 主任調査員補佐(第1章)
飯田 恵子
国際研究部 主任調査員補佐(第2章)
北澤 謙
国際研究部 主任調査員補佐(第3章)
山崎 憲
国際研究部 主任調査員補佐(第4章)

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