資料シリーズ No.97
日本企業のコーポレート・ガバナンスと人事戦略

平成24年 2月29日

概要

研究の目的と方法

近年、M&Aの活発化や敵対的企業買収の顕在化が進むなかで、企業の資金調達方法やコーポレートガバナンスのあり方にも大きな変化がみられる。これらの変化を踏まえ、企業のコーポレートガバナンスが人事戦略に及ぼす影響等を明らかにするため、労働政策研究・研修機構では、過去3回にわたり、「企業のコーポレートガバナンス・CSRと人事戦略に関する調査」(2005年調査)、「雇用システムと人事戦略に関する調査」(2007年調査)、「今後の雇用ポートフォリオと人事戦略に関する調査」(2009年調査)――を実施した。これらの調査は、同一の調査対象で同一の設問もあることから、時系列比較が可能であり、調査対象が上場企業であることから、公開されている財務データとの接続も可能となっている。本報告書では、アンケート結果と財務データを接続することで2次分析を行った。

主な事実発見

財務構造とコーポレートガバナンスの関係を分析した結果、2008年から2009年の世界的な金融危機(リーマンショック)と不況を境に、日本のコーポレート・ガバナンスのトレンドに変化が見られることが明らかとなった。すなわち、日本のコーポレート・ガバナンスの伝統的な担い手だった取引先銀行やグループ企業の重要度や発言力が弱まり、それに代わって機関投資家や個人投資家の重要度や発言力が強まるという傾向が、金融危機以前には顕著だったが、金融危機後はそのトレンドが変わりつつある。企業の財務構造が顕著に変わっているわけではないが、全体的に、取引先銀行やグループ企業の重要性や発言力が復活している、としている(第Ⅱ部第1章)。

近年の日本企業の人事労務管理制度の変化による企業の生産性への影響を検証したところ、法制度の制定や改正により企業が導入・整備を余儀なくされた人事労務管理制度があるが、そのような人事労務管理制度が生産性に影響を与えていることは確認されなかった。企業が内発的に導入した制度であっても、外発的理由で導入した制度であっても、どの制度も企業の生産性を高めているとは言えない、としている(第Ⅱ部第2章)。

リーマンショック後の新卒採用抑制に対する労働組合の影響を分析した結果、労働組合の存在は、新卒採用者比率を低下させていることが確認された。労働組合の存在が正社員に対する雇用保護を強化しており、そのため企業は若年層の雇用を減少させるという置き換え効果が起きている。また、職能資格制度やOJT重視などの人的資源管理の採用も同時に新規採用者比率に影響を与えており、企業内での人材育成を重視する企業ほど置き換え効果が発生している、と結論付けている(第Ⅱ部第3章)。

リーマンショック前の2007年より2009年の方が景気の停滞感が強く、雇用調整を実施する企業の割合も高くなっていることが確認された。景気がそれほど悪くない時期には、希望退職や一時金カット、賃下げのいずれを実施する場合でも、直近の業績が赤字であることが大きく影響しており、金融機関や個人投資家の株式の保有率が高い場合は、効率経営への圧力が高く、希望退職や一時金カット、賃下げを実施する確率が高まっていた(第Ⅱ部第4章)。

機関投資家によるガバナンスは長期雇用慣行と負の相関関係にあり、長期雇用慣行が弱い企業で女性が活躍していることが明らかとなった。また、外国法人等の株式保有比率が高い企業や、株主総会の改革を推進している企業ほど、仕事と育児の両立支援やポジティブ・アクションに取り組んでおり、これらに取り組んでいる企業ほど女性正社員や女性管理職が多いことも確認されている(第Ⅱ部第5章)。

図表 コーポレート・ガバナンスと女性の活躍の関係

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図表 コーポレート・ガバナンスと女性の活躍の関係/資料シリーズNo.97

注1) 括弧の中の数字は標準誤差である。

注2) *は10%水準で、**は5%水準で、***は1%水準でそれぞれ有意であることを意味する。

注3) すべてのモデルは、売上高成長率(5期前から前期まで)、総資産利益率(2期前)、従業員数(対数値)、産業ダミー、会社設立年ダミー、調査年ダミーを説明変数に含む。モデル(4)から(9)は、正社員に占める女性の割合を説明変数に含む。

政策的含意

本分析結果は、リーマンショック前後のデータを使用することにより、株式の所有構造や人事制度が雇用システムや雇用調整、生産性、両立支援策等に与える影響を分析しており、政策立案に有益な基礎情報を与えている。

政策への貢献

本報告書は、企業の株主構成や経営者の属性が労務管理施策に影響を与えることを明らかにしている。機関投資家や外国人株主の存在が金融危機以降どのように影響を与えたかについても分析しており、さらに投資家によるガバナンス強化がWLBの改善により女性活用を推進している等、企業の所有構造に注目した労働政策立案の可能性を示唆している。

本文

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研究期間

平成23年度~24年度

執筆担当者

郡司正人
労働政策研究・研修機構調査・解析部主任調査員
奥田栄二
労働政策研究・研修機構調査・解析部主任調査員補佐
星 岳雄
カリフォルニア大学サン・ディエゴ校
国際関係・環太平洋地域研究大学院教授
ジェス ダイアモンド
日本銀行金融研究所エコノミスト
阿部正浩
獨協大学経済学部教授
野田知彦
大阪府立大学経済学部教授
熊迫真一
国士舘大学政経学部講師
川口 章
同志社大学政策学部教授

入手方法等

入手方法

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