経営組織の診断と活性化のためのチェックリスト
─HRMチェックリスト利用活用マニュアル─(改訂増補版)
2015年4月30日発行
概要
研究の目的
本研究は、企業の雇用管理の改善を通じて、組織の活性化と企業経営の発展に資することを目的にスタートし、その中でHRMチェックリストを開発してきた。HRMチェックリストのような雇用管理の診断ツールは、コンサルティング会社等にはあるが、中小企業で利用できるもの、また、内容やデータが公開されているものはない。そして、このような診断ツールによって職場や会社が良くなれば、それは会社や職場にとって良いことであると同時に、そこに働く個人や従業員にとってもプラスとなるものである。より良い職場になることによって、人材が集まり企業が発展していくことは、社会にとっても望ましいことである。また、測定尺度の研究開発は、その分野におけるデータ蓄積の基盤となるものでもある。標準となる測定尺度があることによって、研究面においてデータの蓄積が進み、実務面においても客観的な情報を集めることができる。このように測定尺度の開発は実務面にも研究面にも貢献できるものといえる。
研究の方法
HRMチェックリストは個人用・従業員用として、職場や仕事の状況を従業員が全員で評価、チェックするものと、会社用・人事担当用として、経営層や人事担当者が、企業業績や人材マネジメントを自らチェックするものから構成されている(図表1)。
図表1 HRMチェックリストのマニュアルと用紙
「HRMチェックリスト(個人用・従業員用)」の「ワークシチュエーション」では職場や仕事の現状をある程度、客観的に従業員に評価してもらっている。「コミットメント」では組織コミットメント organizational commitment、ジョブインボルブメント job involvement、キャリアコミットメント career commitment、仕事・生活での全般的満足感をみている。「ココロと体の健康チェック」ではストレス反応をみている。
「HRMチェックリスト(会社用・人事担当用)」は経営層あるいは人事担当が自ら評価するチェックリストであるが、現在の組織業績を自ら評価する「組織業績診断チェックリスト」と、人材マネジメントそれぞれの施策内容と実施状況を確認するための「雇用管理施策チェックリスト」の二つがある。
HRMチェックリストは用紙によるデータ収集を続け、約200社、約12,000名のデータが集まっている。また、Webモニターにより別途、約2,000社と約15,000名のデータを収集した。合計すると会社票は計約2,200社、個人票は約27,000名となる。
今回、HRMチェックリストの設問を一部見直し、新項目にするとともに、Webでの収集等、これまでに収集してきたデータを併せて提供することとし、第二版として改訂増補版のマニュアルを作成した。
研究の内容
本研究の目的はマニュアルの改訂であったが、本チェックリストによりデータ収集した結果、興味深い結果が得られている。
従業員30名以下の小規模企業は、従業員の評価としては、「貴社の資産」、「貴社の売上(過去3年間)」、「貴社の利益(過去3年間)」は他の従業員規模の企業と較べて減少しており、「今後の貴社の成長性」、「環境変化への企業としての対応」、「貴社の製品やサービスの市場での競争力」も他の規模の企業と較べて低かった。ところが、「ワークシチュエーションのⅠ職務」、「ジョブインボルブメント」、「キャリアコミットメント」、「全般的職務満足感」、「組織コミットメント(残留意欲)」、「組織コミットメント(情緒的)」、「組織コミットメント(規範的)」は、他の規模の会社と較べて高かった。このことは、小さい会社は自律性があり能力発揮でき、成長できる、あるいは、小さな会社は出入りが容易であり、自分の好きな会社に留まっている、また、小さな会社では自分が経営層やそれに近い立場であったり、会社が小さいことにより会社との力関係がバランスしている、等々が影響していると考えられる。
ストレス反応と他の変数との因果関係を検討すると(図表2)、「職務」が良いと(達成感がある、成長できる、自律性がある等)、ポジティブなストレス反応(高揚感)が高まる。同僚や顧客との関係が良いと、ネガティブなストレス反応(抑うつ気分、不安、怒り、身体反応)が低下する。年齢が高いとネガティブ反応が低下する。能力開発・福利厚生・生活サポートが良いとネガティブなストレス反応が低下し、同僚や顧客との関係が良いとポジティブなストレス反応が上昇する、等の関係がみられた。企業規模、性別のストレス反応への影響は以上に較べると小さかった。
図表2 ストレス反応への影響(パス図、15,186名)
活用と貢献
以上より、経営組織の活性化やストレスに関しては、職務(仕事の進め方)や人間関係が大きな要因となっていることになる。職務や人間関係は小規模な企業でも様々な工夫により改善は可能である。小規模な企業は必要な人材が集まらない、定着しない、とするところが多いが、職務と人間関係の影響が大きいことは、人材の採用、定着、動機づけ等のヒントになることと考えられる。
本チェックリストの普及と活用によって、中小企業の人材の採用、定着、動機づけ等に関して、改善が図られることが期待され、このことは中小企業を支援する政策にも資するものといえる。
HRMチェックリストの客観的な測定手段により、職務、人間関係、またその他の様々な側面を確認し、自社の良い点、改善すべき点を的確に確認することは、中小企業に限らず、人材の獲得や組織の活性化には必要なことであり、このような改善によって、会社が発展し、雇用が伸び、ひいては産業や社会の発展にも繋がることと期待される。
研究の区分
プロジェクト研究「生涯にわたるキャリア形成支援と就職促進に関する調査研究」
サブテーマ「中小企業における人材の採用と定着に関する研究」
研究期間
平成25~26年度
研究担当者
- 松本 真作
- 労働政策研究・研修機構 特任研究員
関連の研究開発成果
- 資料シリーズNo.134『中小企業と若年人材─HRMチェックリスト、関連資料、企業ヒアリングより採用、定着、動機づけに関わる要因の検討─』(2014年)
- 労働政策研究報告書No.147『中小企業における人材の採用と定着─人が集まる求人、生きいきとした職場/アイトラッキング、HRMチェックリスト他から─』(2012年)
- 日本労働研究機構(JIL)調査研究報告書No.161『組織の診断と活性化のための基盤尺度の研究開発─HRMチェックリストの開発と利用・活用─』(2003年)
- 日本労働研究機構(JIL)調査研究報告書No.124『雇用管理業務支援のための尺度・チェックリストの開発─HRM(Human resource management)チェックリスト─』(1999年)
入手方法
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