調査シリーズNo.243
「社会保険の適用拡大への対応状況等に関する調査」(企業郵送調査)及び「働き方に関するアンケート調査」(労働者 Web 調査)結果

2024年6月12日

概要

研究の目的

法改正に伴い、短時間労働者に対する厚生年金・健康保険の適用範囲は、①週の所定労働時間20時間以上、②月額賃金8.8万円以上、③雇用見込み期間2ヶ月超を満たす場合(学生は適用除外)に拡大され、常用雇用者数(厚生年金の被保険者数)が501人以上の企業等では2016年10月1日から、101人以上の企業等では2022年10月1日から順次適用されており、51人以上の企業等でも2024年10月1日から適用される。

なお、厚生年金の被保険者数が基準に満たない(2024年10月1日からは50人以下の)企業等であっても、労使合意に基づき、短時間労働者の適用拡大の対象事業所(任意特定適用事業所)となることができる仕組みも、2017年4月1日より導入されている。

本調査は、こうした一連の改正に対して企業や短時間労働者がどのように対応したのか等、喫緊の実態を把握し、次期年金制度改革に向けた検討に資するため 、厚生労働省年金局年金課からの研究要請に基づき実施したものである。

研究の方法

(1)「社会保険の適用拡大への対応状況等に関する調査」(企業郵送調査)

16産業(農林漁業,公務を除く)における、全国の5人以上規模の企業2万社(民間信用調査機関所有の企業データベースから、産業・規模別に層化無作為抽出 )を対象に、調査票を配布・回収した(郵送法)。実査期間は2022年11月11日~2023年1月3日で、有効回答数は8,697社(有効回答率43.5%)。

(2)「働き方に関するアンケート調査」(労働者Web調査)

インターネット調査会社の登録モニターを対象に、国内に居住する18~69歳で学生を除く、勤め先の通常労働者(いわゆる正社員)より所定労働時間の短い短時間労働者 (パートタイマー・アルバイト、契約社員・嘱託、派遣労働者 )1万人の回答を、性別・年齢層別に層化割付回収した。実査期間は2022年11月22日~12月2日で、有効回答数は10,000人。

主な事実発見

  • 2022年10月より適用拡大対象となった常用雇用者101~500人の企業で、要件を満たす短時間労働者(対象者)が「いる」場合に、新たに厚生年金・健康保険が適用されるのに伴い、対象者と概ねどのような方針で調整を行ったか尋ねると、「できるだけ/どちらかといえば、適用する」との回答が6割を超え、概ね前向きに対応されている様子が明らかとなった。厚生年金・健康保険の適用を推進した理由としては(複数回答)、「法律改正で決まったことだから(ありのまま、法令を遵守するため)」が、「短時間労働者自身が、希望したから」等の回答を上回り、また、厚生年金・健康保険の適用を回避した(する)理由についても(複数回答)、「短時間労働者自身が希望しないから」が9割超と、「人件費の増加につながるから」(1割)を大きく上回った(図表1)。

    こうした中、短時間労働者がいわゆる「年収の壁」を意識せずに働くことができる環境づくりに向けて「年収の壁・支援強化パッケージ(厚生労働省)新しいウィンドウ」が策定された(2023年9月, 全世代型社会保障構築本部決定)。これに伴い、短時間労働者の働き方の選好や、それに伴う企業の対応状況等がどのように変化するのか、引き続き、その動向を注視する必要がある。

    図表1 要件を満たす短時間労働者(対象者)の雇用状況と適用拡大に際した調整方針等

    図表1概要:常用雇用者101~500人の企業における、要件を満たす短時間労働者(対象者)の雇用状況と適用拡大に際した調整方針、厚生年金・健康保険の適用を新たに推進・回避した理由について紹介。画像クリックで拡大表示

  • なお、2024年10月より適用拡大される常用雇用者51~100人の企業で、要件を満たす短時間労働者(対象者)が「いる」場合に、新たに厚生年金・健康保険が適用されるのに伴い、対象者と概ねどのような方針で調整を行うか尋ねると、「できるだけ、適用する」が28.1%、「どちらかといえば、適用する」が12.0%で合わせて40.2%に対し、「中立(短時間労働者の意向にまかせる)」は22.4%で、「どちらかといえば、適用しない」(4.3%)と「できるだけ、適用しない」(3.9%)が計8.1%となった。こうした結果を、2022年10月より既に適用拡大されている常用雇用者101~500人の企業の回答傾向と比較すると、「未定・わからない」(18.5%)や無回答(10.7%)の割合が多く、調整方針を未だ決めかねている様子が窺える。

    適用拡大に当たっては相応の対応準備(加入対象者の把握、対応方針の検討、社内通知、従業員とのコミュニケーション、書類の作成・届出等)を要することから、利用可能な支援策(「専門家活用支援事業」「キャリアアップ助成金」等(社会保険適用拡大特設サイト)新しいウィンドウ )とともに、速やかに周知徹底する必要がある。

  • 一方、常用雇用者101~500人の企業に勤務する短時間労働者を対象に、2022年10月からの適用拡大に伴う自身の働き方や社会保険の適用状況の変化について尋ねると、「厚生年金・健康保険が適用されるよう、かつ手取り収入が増える(維持できる)よう、所定労働時間を延長した(してもらった)」及び「所定労働時間はそのまま、厚生年金・健康保険が適用された」割合が、「厚生年金・健康保険が適用されないよう、所定労働時間を短縮した(してもらった)」割合を上回った(図表2)。

    なお、こうした結果を、2022年10月前に適用拡大対象となる働き方をしていた短時間労働者ベースで、適用拡大前の社会保険(年金)の加入状況別にみると、「国民年金に加入(第1号被保険者)」していた短時間労働者では、厚生年金・健康保険に新たに加入した割合が回避した割合を大きく上回ったのに対し、「配偶者が加入する被用者年金の被扶養配偶者(第3号被保険者)」だった短時間労働者は、加入と回避が同程度となった(図表3)。

    図表2 適用拡大に伴う働き方や厚生年金・健康保険の適用状況の変化

    図表2概要:常用雇用者101~500人の企業に勤務する短時間労働者の、適用拡大に伴う働き方や厚生年金・健康保険の適用状況の変化、厚生年金・健康保険に加入した・しなかった理由について紹介。画像クリックで拡大表示

    図表3 適用拡大前の被保険者種類別にみた働き方や厚生年金・健康保険加入状況の変化

    図表3概要:2022年10月前に適用拡大対象となる働き方をしていた短時間労働者ベースで、適用拡大前の被保険者種類別にみた働き方や厚生年金・健康保険加入状況の変化について紹介。
介)や、自身の年金額の試算に「公的年金シミュレーター 」の利用を更に促進する必要がある。

  • こうした中、厚生年金・健康保険に加入した理由(複数回答)としては、「勤め先から(加入するよう)言われたから」との他動的な理由が最多で、「将来の年金額を増やしたいから」や「保険料の負担が軽くなるから」「収入を増やしたい(維持したい)から」「(加入や収入に関係なく)現在の働き方を維持したい(所定労働時間を減らしたくない)から」等、短時間労働者自身が考え、敢えて選択した理由群を上回る結果となった(図表2)。この点、(目先の収支に依らず)厚生年金・健康保険に加入するメリットについて短時間労働者に十分理解され、今後の働き方を考えてもらう一助となるよう、「社会保険適用拡大特設サイト(厚生労働省)新しいウィンドウ」(年金額・保険料シミュレーションやタイプ別加入例等を掲載・紹介)や、自身の年金額の試算に「公的年金シミュレーター(厚生労働省)新しいウィンドウ」の利用を更に促進する必要がある。

政策への貢献

本文

分割版

研究の区分

情報収集

研究期間

令和4~5年度

調査担当者

中原 慎一
労働政策研究・研修機構 調査部(統計解析担当)部長(当時)
渡邊 木綿子
労働政策研究・研修機構 調査部(統計解析担当)次長
多和田 知実
労働政策研究・研修機構 調査部(統計解析担当)調査員

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