調査シリーズNo.226
新型コロナウイルス感染症の
感染拡大下における休業等に関する実態調査
―労基法第26条の休業手当及びシフト制労働者の休業手当に着目して―
概要
研究の目的
新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、企業の休業等が増加、長期化する中で、企業における労基法第26条の休業手当について、通常時の算定方法の定め方などの制度内容とともに、新型コロナウイルス感染拡大の影響等による制度変更の有無、支払いの状況等について実態を把握するため、企業アンケート調査を実施した。
また、本調査では、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、シフトカットされても、休業手当が支払われない等、シフト制という労働契約の在り方に対する、政策上の課題もあることから、当該シフト制労働者の雇用管理の実態についても調査した。
本調査は、厚生労働省労働基準局の要請に基づく要請研究である。
研究の方法
企業アンケート調査
- 調査方法
- 郵送による調査票の配布・回収
- 調査対象
- 全国の従業員数100人以上の企業20,000社。
企業調査では、企業(法人)の抽出に当たって、「平成28年経済センサス活動調査」の「産業」「規模」の分布に合わせて、民間信用調査機関の企業データベースから層化無作為抽出した企業に調査票を配布。 - 調査期間
- 2021年8月27日~9月10日
- 有効回収数
- 7,797件(有効回収率:39.0%)
主な事実発見
1.シフト制に関する労働契約について
- 本調査における「シフト制労働者」がいる企業の割合は43.5%(本調査設問で、選択肢3「勤務日数や勤務時間数は決めているが、具体的な勤務日や勤務時間は一定期間ごとのシフト表等で決める労働者」、選択肢4「勤務日数や勤務時間数は決めておらず、単に、具体的な勤務日や勤務時間を一定の期間ごとのシフト表等で決める労働者」、選択肢5「勤務するかどうかは、前日や当日等に1日単位で、会社から打診する労働者」のいずれかを選択した企業)となっている。「シフト制労働者」において、シフトを作成するにあたっての、当該労働者の希望や意見の聴取等に関するルールの有無については、正社員、非正規雇用労働者いずれも、「シフト案を作成する前に労働者の希望を聞く」とする企業割合が7割台などとなっており、ルールについて「特になし」とする企業割合は少数である。労働条件明示の際に、労働者の希望や意見の聴取等に関するルールについて、当該労働者に示しているかについては、正社員、非正規雇用労働者いずれも、「あらかじめ口頭のみで説明している」とする企業割合が5割程度で最も高く、次いで、「あらかじめ文書等で明示している」は3割前後となっており、「あらかじめ明示していない」は1割程度となっている。
- 直近2年間で、シフト確定後の事業主都合によるシフトの一部又は全部のキャンセルについては、「キャンセルしたことがある」とする企業割合は、正社員で34.5%、非正規雇用労働者では37.7%となっている。「キャンセルしたことがある」企業でのシフト確定後に、事業主の都合でシフトをキャンセルする場合に代替措置としては、正社員、非正規雇用労働者いずれに対しても、「代わりの勤務日(シフト)を用意している」とする企業割合が最も高い(正社員53.9%、非正規雇用労働者46.8%)。
- 直近2年間の「シフト制労働者」とのトラブルの有無とトラブルの原因(複数回答)では、「トラブルになったことはない」とする企業割合が、正社員で69.9%、非正規雇用労働者で66.7%と過半数を占めている。何らかのトラブルがあった割合は、正社員で18.5%、非正規雇用労働者で23.4%となっている(図表1)。
※正社員、非正規雇用労働者それぞれについて、シフト制労働者がいる企業を対象に集計。
2.新型コロナウイルス感染症の発生・感染拡大期における休業等の手当の支給状況
(1) 休業等の手当の支給状況
- 今般の新型コロナウイルス感染症の影響で、「休業を命じたことがある」企業割合が68.3%、「休業を命じたことはない」が30.8%となっている。「休業を命じたことがある」企業割合を業種別(n=30以上、「その他」除く)にみると、「宿泊業、飲食サービス業」が97.2%と最も高く、次いで、「生活関連サービス業、娯楽業」(91.6%)、「製造業」(72.9%)、「運輸業、郵便業」(71.1%)、「医療、福祉」(70.1%)などが続く。従業員規模別にみると、規模が大きくなるほど、労働者に「休業を命じたことがある」企業の割合が高くなる傾向にある(図表2)。労働者に「休業を命じたことがある」とする企業の休業の理由は、「従業員に感染者や濃厚接触者が出たため」が50.6%と最も高く、次いで、「売上、利用客の減少」が31.7%、「国や地方自治体からの指示、要請への対応」が31.3%、「取引先の休業」が11.9%などとなっている。
- 休業させた労働者に対する休業等に伴う手当の支払い状況については、「全員に支払った」は89.6%と9割弱を占めており、「一部の人に支払った」は4.9%、「支払わなかった」は5.4%とそれぞれ少数である。
- 休業等に伴う手当を「全員に支払った」「一部の人に支払った」とする企業(休業等に伴う手当を支払った企業)における雇用調整助成金の申請状況は、「雇用調整助成金の申請を行った企業」(「支払った手当の全額について申請した」(44.1%)と「一部のみ申請した」(14.0%)の合計)の割合は58.1%となっており、「申請しなかった」は39.3%となっている。
n | 休業を命じたことがある | 休業を命じたことはない | 無回答 | |
---|---|---|---|---|
合計 | 7,797 | 68.3 | 30.8 | 0.9 |
<業種> | ||||
鉱業、採石業、砂利採取業 | 4 | 25.0 | 75.0 | - |
建設業 | 341 | 50.1 | 49.3 | 0.6 |
製造業 | 1,552 | 72.9 | 26.4 | 0.6 |
電気・ガス・熱供給・水道業 | 29 | 51.7 | 44.8 | 3.4 |
情報通信業 | 226 | 38.9 | 58.4 | 2.7 |
運輸業、郵便業 | 589 | 71.1 | 28.5 | 0.3 |
卸売業、小売業 | 1,104 | 66.5 | 32.8 | 0.7 |
金融業、保険業 | 145 | 60.7 | 39.3 | - |
不動産、物品賃貸業 | 67 | 49.3 | 47.8 | 3.0 |
学術研究、専門・技術サービス業 | 111 | 51.4 | 45.9 | 2.7 |
宿泊業、飲食サービス業 | 320 | 97.2 | 1.9 | 0.9 |
生活関連サービス業、娯楽業 | 178 | 91.6 | 8.4 | - |
教育、学習支援業 | 341 | 58.9 | 39.9 | 1.2 |
医療、福祉 | 1,815 | 70.1 | 28.7 | 1.3 |
複合サービス事業(郵便局、農業組合など) | 97 | 60.8 | 38.1 | 1.0 |
サービス業(他に分類されないもの) | 813 | 66.9 | 32.3 | 0.7 |
その他 | 65 | 52.3 | 46.2 | 1.5 |
<従業員規模> | ||||
100人未満 | 393 | 59.3 | 39.4 | 1.3 |
100~299人 | 4,583 | 65.0 | 34.0 | 1.0 |
300~999人 | 2,073 | 73.7 | 25.7 | 0.6 |
1000人以上 | 686 | 78.4 | 20.7 | 0.9 |
※表側の業種(n=30以上、「その他」除く)において、「休業を命じたことがある」とする上位5位の業種に網。
(2) シフトを削減された労働者に対する「休業等に伴う手当」の支払い状況
- 今般の新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、2020年1月以降の「シフト制労働者」の出勤日数・時間(シフト)の削減の有無については、「シフト制労働者」がいる企業において、シフトの削減が「あった」とする企業割合は、正社員で29.3%、非正規雇用労働者で36.5%となっており、正社員に比べて非正規雇用労働者の方が高い。シフトを削減された労働者に対する「休業等に伴う手当」の支払い状況については、正社員で、「全員に支払った」とする企業割合が88.6%と9割弱を占め、「一部の労働者に支払った」は4.0%、「全く支払っていない」は4.6%とそれぞれ少数である。非正規雇用労働者では、「全員に支払った」は77.7%と8割弱を占め、「一部の労働者に支払った」は9.0%、「全く支払っていない」は11.3%となっている。非正規雇用労働者の方が、「全く支払っていない」「一部の労働者に支払った」の割合が高い。
- シフトを削減された労働者に対する休業等に伴う手当を「全員に支払った」「一部の労働者に支払った」とする企業での、雇用調整助成金の申請状況では、「支払った手当の全額について申請した」が正社員で59.1%、非正規雇用労働者では53.4%、「一部のみ申請した」が正社員で14.9%、非正規雇用労働者では17.6%となっており、「申請しなかった」は、正社員で22.7%、非正規雇用労働者では25.6%となっている。
3.休業手当等の規定、算定方法について
- 現在の就業規則(賃金規程など別規程を含む)に、労基法第26条の休業手当 について規定があるか(以下、「労基法第26条の休業手当規定の有無」という)については、「規定がある」が56.9%、「規定はないが支払うことがある」が27.0%、「休業手当の支払いは想定しておらず規定もない」が14.7%となっている。
- 労基法第26条の休業手当の支払額の算定方法は、「平均賃金の60%以上」が54.8%と最も高く、次いで、「通常どおりの賃金を、減額せずに支給する」が20.3%、「1日当たりの賃金額の60%以上」が14.1%などとなっている。これを労基法第26条の休業手当規定の有無別にみると、「規定がある」企業では、「平均賃金の60%以上」が62.6%、「1日当たりの賃金額の60%以上」が13.8%、「通常どおりの賃金を、減額せずに支給する」が15.1%となっている。一方、「規定はないが支払うことがある」企業では、「平均賃金の60%以上」が38.2%、「1日当たりの賃金額の60%以上」が14.9%、「通常どおりの賃金を、減額せずに支給する」が31.4%となっている。
政策的インプリケーション
新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、休業を余儀なくされる企業等が増加し、休業等に伴う手当の支給等がなされていた。「シフト制労働者」についても、シフト削減をした労働者に対する休業等に伴う手当の支給もなされている。雇用調整助成金の活用もなされており、雇用調整助成金の特例措置を含め政府の政策が雇用維持に一定の効果を与えたことが示唆される。
政策への貢献
企業における労基法26条の休業等に伴う手当の制度内容、支給状況、及び、シフト制労働者のシフト削減に伴う休業等に伴う手当の支給状況等について、厚生労働省に基礎的データの提供。
本文
研究の区分
緊急調査
研究期間
令和3~4年度
執筆担当者
- 郡司 正人
- 労働政策研究・研修機構 調査部長(当時)
(現・リサーチフェロー) - 奥田 栄二
- 労働政策研究・研修機構 調査部 主任調査員
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