調査シリーズNo.206
人生100年時代のキャリア形成と雇用管理の課題に関する調査

2020年12月11日

概要

研究の目的

長寿社会の進展に伴い、働く人一人ひとりが長期化する職業人生を展望してキャリアを設計していくことが求められている。また、こうしたもとで労働政策を的確に企画・立案していくためには、人生100年時代に向けた企業の雇用管理の動向や今後の課題を把握することが不可欠である。本調査は、これらの社会的課題に応えるとともに、労使間で検討することができる資料の提供を目的として、厚生労働省からの要請によって実施したもの。

研究の方法

企業アンケート調査

主な事実発見

  1. 企業が予測する「人生100年時代」のイメージ

    企業が雇用管理を定める場合にイメージする「人生100年時代」としては、従業員の勤続がより長期化するとともに、従業員の介護負担の増加などから働き方への配慮がより求められるといった内容であった(図表1)。また、人生100年時代は同時にAI(人工知能)などの導入が進む技術革新の時代であり、これまでの経験をもとに地道に働く姿勢から、自ら考え行動することのできる能力、柔軟な発想で新しい考えを生み出すことができる能力など、新たな能力を獲得する努力が求められるだろうとの予測が示されている。

    図表1 「人生100年時代」で企業が予測していること

    図表1画像

    (注)1)企業に対する調査で複数回答。

    2)表章事項は簡略化しており、調査では、従業員の勤続年数が長くなる/介護を担う従業員が増え働き方への配慮がより求められる/労働時間の短い仕事への就業希望が強まる/従業員の転職が多くなる/兼業・副業など他の企業で働く従業員が増える/職業能力開発など従業員の自らのキャリア設計への関心が高まる/ボランティアなど社会貢献活動への参加に関心が強まる/従業員の就学意欲が強まる、とされている。

  2. 日本企業の雇用管理と長期勤続化の課題

    日本企業の雇用管理とその前提にある雇用慣行に関する考え方をみると、大企業中心に、引き続き長期雇用を前提として従業員のキャリア形成に取り組んでいく傾向がみられる。また、その際、働きやすい職場の実現に対する配慮や労働組合とのコミュニケーションなどが重視されている(図表2)。ただし、長期雇用のもとで、誰もが昇進できるわけではないという現実もあり、企業としても、特に男性正社員の40歳層以降で、仕事に対する意欲が急速に低下するとともに、キャリア形成に向けた主体的な取り組みが停滞しがちなことを意識している。

    図表2 採用・配置・昇進管理に関する企業の考え方

    図表2画像

    (注)1)企業に対する調査で、二つの対になる考え方(前者と後者)を示し、前者に近い、どちらかというと前者に近い、どちらかというと後者に近い、後者に近い、のいずれかの回答をえた。集計にあたっては、前者に近いに2ポイント、どちらかというと前者に近いに1ポイント、どちらかというと後者に近いに▲1ポイント、後者に近いに▲2ポイントを与え加重平均値をとった。

    2)表章事項は簡略化しており、調査における前者と後者の表現は、正社員全員の長期雇用に努める・正社員の一部を精鋭として残す/高い職位には生え抜き社員を登用する・高い職位には外部人材を登用する/従業員の能力開発の責任は企業側にある・従業員の能力開発の責任は従業員個人にある/異動は会社主導で行う・異動には従業員の意見・希望をできるだけ反映させる/職務にとらわれず広く仕事を経験させる・特定の職務内で仕事を経験させる/新卒採用に力を入れている・中途採用に力を入れている/勤続年数を重んじて昇進させる・勤続年数に関係なく抜擢する/従業員への教育投資の回収は10年以上かけて行う・従業員への教育投資の回収は10年未満で行う、とされている。

  3. キャリア形成のための諸制度とその動向

    キャリア形成のための諸制度をみると、総じて大企業の方が導入に積極的であり、自己申告制度(従業員の今後の仕事・キャリアへの意向を把握する制度)、目標管理制度(従業員が自律的に設定した目標に基づく評価制度)などの導入割合が高い。また、産業別には、建設業で自己啓発支援、卸売業、小売業で目標管理制度、医療、福祉でキャリア面談(人事部門担当者によるキャリアに関する個別面談)などの導入割合が高い。これらのキャリア形成のための諸制度の効果を年齢階層別にみると、若年層で実施の効果が高く、中高年層では、同じ制度でも効果が低下している。それぞれの制度についてみると、若年層で最も効果が高かったものはメンター制度(先輩社員が相談役になって後輩社員を支援する制度)であり、高年齢層で効果が高かったのは社会貢献参加であった。なお、兼業・副業の人材育成効果にはあまり高い評価は与えられていない。兼業・副業については、依然、多くの企業で禁止されており、長時間労働や労働時間管理への懸念を示す企業も多く、これらの課題への対応が求められる。

  4. ワークライフバランスに向けた諸対応

    女性活躍推進やワークライフバランス実現のため、経営トップの積極的なかかわりが強まっている。出産・育児を支援する制度の導入・利用状況をみると、育児期の短時間勤務のニーズも高いようにみえ、短時間正社員制度導入に対する期待も高い。ただし、短時間正社員制度導入のためには、短時間正社員以外の正社員の働き方や雇用管理の見直しも重要である。

政策的インプリケーション

企業の雇用管理に関する予測からは、人々の職業人生の長期化に伴い、企業での勤続期間も長期化するものと見通されている。このもとで、労働者のさらなる能力形成、意欲喚起、働きがいの向上などが、労使関係施策の主要な課題として明確になった。

政策への貢献

労働政策の総合的な検討のため労使の協議資料として活用される予定。

本文

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研究の区分

緊急調査

研究期間

令和元~2年度

研究担当者

石水 喜夫
労働政策研究・研修機構 働き方と雇用環境部門統括研究員

関連の研究成果

  • 「人手不足等をめぐる現状と働き方等に関する調査」(令和元年9月18日)等、当機構調査部実施の厚生労働省要請調査(労働経済白書関連)。

入手方法等

入手方法

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