調査シリーズNo.144
帰国技能実習生フォローアップ調査
―2014年度アンケート、インタビュー調査結果―

平成28年5月31日

概要

研究の目的

我が国の外国人労働者を受け入れるスキームのひとつである外国人技能実習制度は、開発途上国等の「人づくり」を目的に、日本で修得した技能等を活用して業務を行うことが予定される外国人に対して技能実習を行う制度である。しかし、この制度においては技能実習が技能移転のためではなく、安価な労働力の確保のために利用されているという批判がある。そこで、技能実習制度における技能の適正な移転のあり方を検討する目的で、技能実習生が日本で修得した技能が帰国後の就業に十分なレベルに達しているかを調査した。

本調査では、技能実習生を受け入れている事業所・企業を対象としたアンケート調査及びインタビュー調査(「技能実習制度に関する調査」)と実習期間を修了し帰国した技能実習生を対象としてアンケート調査及びインタビュー調査(「技能実習修了者に関する基礎的調査」)を実施しているが、本調査シリーズは、帰国技能実習生を対象として調査した日本での技能実習の経験や成果および帰国後の就職状況などの内容を取りまとめたものである。

研究の方法

調査の趣旨

この調査は、技能実習を終了し帰国した技能実習生について、日本での技能修得状況、帰国後の就職状況、日本で修得した技術、技能、知識等の活用状況などを把握することにより、技能実習生の帰国後の実態を明らかにすることを目的に実施した。

1. アンケート調査

1-1. 調査の対象

この調査の対象は、技能実習2号を修了し、2014年10月10日から11 月30日までの間に帰国(予定を含む。)した6,274名を対象としている。

技能実習生の国籍の選定にあたっては、技能実習生全体の99%以上を占める上位5カ国である中国、インドネシア、タイ、フィリピン、ベトナムとした( 図表1)。

1-2. 調査期間と方法

  1. 厚生労働省から提供された名簿に基づき、調査対象者の所属する監理団体および企業単独型受入企業に対し、対象人数分の母国語調査票をリストとともに送付し、本人への配布を依頼した。
  2. 調査票は、調査対象者の母国語( 中国語、インドネシア語、タイ語、フィリピン語、ベトナム語)の5 か国語に翻訳し帰国技能実習生に受入れ機関を通じて配布した。調査期間は2014年10月から2015 年2月。回収は、企業単独型が53 票、監理団体型が521票の合計578票で、回収率は9.2%であった。

図表1 調査対象者(国籍別人数)

図表1画像

注:企業単独型タイ王国の配布と回収について、回収数が配布数を上回っているのは、実習実施機関が調査実施時期からさかのぼり調査対象者への可能な限りの調査票配布に協力してくれたことによる(タイ王国企業単独型の当初調査対象者は21名)。

2. インタビュー調査

2-1. 調査の対象

アンケート調査でインタビュー調査への協力を承諾した中国、ベトナム、インドネシア、フィリピン、タイの合計41名の帰国技能実習生を対象とした。国別内訳は、中国が19名、ベトナムが8名、フィリピンが5名、インドネシアが3名、タイが6名であった。

2-2. 調査期間と方法

インタビュー調査は2015 年3月に行った。調査の方法は、原則的に1名ずつの対面インタビュー形式で、必要に応じて電話インタビュー等による補足を行っている。インタビューは、通訳を介して対応者の母国語で行った。また、調査対象者が所在する各国各都市の対象者が指定した場所にインタビュー実施者が出向いてインタビューを行った。

主な事実発見

1. アンケート調査

1-1. 日本での技能実習は役立っているか

日本での技能実習が役立ったかどうかを尋ねたところ、「役に立った」という回答が98.4%、「役に立たなかった」が1.0% であった。

1-2. 具体的にどのようなことが役に立ったのか

具体的にどのようなことが役に立ったのか、複数回答で尋ねたところ、「修得した技能」が69.1% で最も多く、以下、「日本での生活経験」(62.2%)、「日本語能力の修得」(60.8%)、「日本で貯めたお金」(59.4%)などとなっている(図表2)。

1-3. 実習期間中に困ったことの有無

実習期間中に困ったことがあったかどうか尋ねたところ、「困ったことはあった」が32.0%、「困ったことはなかった」が67.3% であった。

1-4. 具体的に困ったこと(内容)

「実習期間中に困ったことはあった」と回答した者に対して、具体的な内容を複数回答で尋ねたところ、「家族と離れて寂しかった」が74.6% で最も多く、以下、「残業が少ない」(21.6%)、「仕事が厳しい(きつい)」(18.9%)、「家賃が高い」(16.2%)などが多かった。

1-5. 帰国後の就業状況

帰国後の就業状況を見ると、「雇用されて働いている」が36.7% で最も多く、以下、「仕事を探している」(23.9%)、「雇用されて働くことが決まっている」(14.7%)、「起業している」(13.5%)などが多い。

1-6. 帰国後の仕事の内容

帰国後の仕事の内容を見ると、「実習で行った仕事と同じ仕事」(56.5%)が最も多く、以下、「実習と同じ仕事ではないが同種の仕事」(18.7%)、「実習で行った仕事と異なる仕事」(14.4%)などとなっている。

2. インタビュー調査

帰国技能実習生は、技能実習での成果について概ね肯定的な評価をしている。それは具体的には「日本人の仕事の仕方や仕事での考え方が勉強になった」「仕事や生活を通じて、対人関係の重要性を学んだ」「経済的に助かった」「視野が広がった」「生活面で自立できるようになった」「日本語の勉強が役立った」などの意見に代表される。

図表2 具体的に役に立ったこと(有効回答569 複数回答)

図表2画像

一方、技能実習制度について改善してほしいこと希望することを聞くと、「日本語研修を徹底してほしい」「日常的に使える日本語を学びたかった」など実用的な日本語研修への要望が多く、さらに経済的事情を反映してか、「実習期間を3 年よりも長くしてほしい」という希望を述べる帰国技能実習生も多かった。

政策的インプリケーション

本調査は、日本での技能実習の経験と意見を帰国技能実習生から生の声として聞き、制度運営の実態を把握することに努めている。2014年10月と11月に2年間ないし3年間の実習期間を修了して帰国した技能実習生を対象に実態を調査した。

近年、技能実習制度の見直しが言われる中で、技能実習に参加した実習生の側から日本での仕事と生活について、その経験と認識を聞くことは、技能実習生制度の実際の運用の一端を理解する上で極めて有効であると考えられる。

本文

全文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。

研究の区分

プロジェクト研究「我が国を取り巻く経済・社会環境の変化に応じた雇用・労働のあり方についての調査研究」
サブテーマ「技能実習生制度に関する調査」及び「技能実習修了者に関する基礎的調査」

研究期間

平成26年度

調査実施、執筆担当者

渡辺 博顕
労働政策研究・研修機構 統括研究員
野村 かすみ
労働政策研究・研修機構 調査解析部 主任調査員

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研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ

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