調査シリーズ No.110
企業における高度外国人材の受入れと活用に関する調査

平成25年 5月31日

概要

研究の目的

我が国は、外国人労働者の受入れについて、高度人材は積極的に受け入れるが、いわゆる単純労働者は、国内の労働市場への影響を考慮し、慎重に対応するという方針をとっている。このような方針の下、 (1) 企業では、イノベーション人材、企業活動を活性化するような経営者や管理者といった外国人の高度人材を確保し、定着させるために、どのような取組みを行い、どのような課題を抱えているのか、 (2) 国に求められる政策はどのようなものなのか、 (3) 高度人材を戦略的に受入れることを目的として、出入国管理制度において、2012年からポイント制による優遇制度が導入されたが、それがどのような効果を持つのか。こうした点を確認するために、調査を実施した。

研究の方法

  1. 公表統計の観察
  2. 文献サーベイ
  3. 企業アンケート、個人アンケート
  4. アンケートの自由記述とインタビューの分析

主な事実発見

1.企業アンケートから、以下のようなことが観察された。
  1. 外国人雇用の方針は、外国人を雇用すること自体考えたことがない企業が多く、外国人の高度人材の雇用についても消極的であった。過去3年間の外国人の高度人材の採用実績は、「一度も採用したことがない」という企業が7割、「過去3年間に採用したことがある」と「過去3年間は採用したことがないが、それ以前に採用したことがある」という企業が2割強である(図表1)。
  2. 外国人の高度人材を企業に定着させ、活躍してもらうための施策として、「外国人の特性や語学力を活かした配置・育成」、「仕事や生活の相談ができる体制の整備」、「学校で学んだ専門性を活かした配置・育成」、「職務分担を明確にすること」などの実施比率が高い。
  3. 2012年に導入されたポイント制について、9割近い企業ではポイント制の導入を知らなかった。また、ポイント制申請の実績のある企業は、回答企業全体の4%である(図表2)。高度人材が働くための環境整備とポイント制による出入国管理制度の優遇措置については、「高度人材が働くための環境整備が有用だと思う」、「どちらかといえば高度人材が働くための環境整備が有用だと思う」という回答が多かった。ただし、「わからない」という企業や外国人の高度人材の採用実績がない企業が多い。
  4. 企業が外国人の高度人材に対して期待する人材像は、日本人の高度人材と同様の役割を期待するところが多く、具体的には、大学卒で採用された日本人社員、あるいは、キャリア採用の場合も30歳未満か30歳代の比較的若い年齢層に相当する実務経験、年収である。

図表1 過去3年間の採用実績(n=1338)

高度人材の採用実績がある企業は4分の1。

図表1画像

図表2 企業がポイント制導入を知っていたかどうかと申請実績

高度人材のポイント制導入を知っていた企業はわずか

図表2画像

2.個人アンケートから、以下のようなことが観察された。
  1. 勤務先企業の業種は、「製造業」、「学術研究、専門・技術サービス」、「教育」、「宿泊業、飲食サービス」、「卸売業、小売業」などで、従業員規模は「1,000人以上4,999人」、「100人以上299人」が多い。平均勤続年数は約5年、「正社員」が8割以上を占める。仕事は、「販売、営業」、「システム開発・設計」、「研究開発」などで、5割近くの者が海外関連の仕事も担当している。職位は「一般社員」が7割である。
  2. 仕事で必要な日本語能力について、6割の者が「日本語で報告書やビジネスレターなどの文書を作成できるレベル」と回答しており、「報告書やビジネスレターを作成するほどではないが、ビジネス上のやりとりができるレベル」という者も合わせれば、8割以上の者が仕事でかなりの日本語能力が必要としている。
  3. 9割近い者が現在の仕事に満足しており、「現在の会社でずっと働くつもりである」という者が4割以上いる。その場合、将来の希望は、「高度な技術・技能を活かす専門人材」(4割)、「海外の現地法人の経営幹部」(3割)などとなっている。さらに、6割以上のものが、将来も日本で働くことを希望している。
  4. 日本で働く上での在留資格制度に関する制約では、「手続きの処理に時間がかかる」、「申請手続きが煩雑である」、「在留期間の長さの制約があり、働きにくい」といいった回答が多かったが、「特に問題はない」という回答も2割以上あった。
  5. 日本企業に就職する際の障害としては、「外国人に対する求人数が少ない」、「外国人を採用する企業が少ない」、「日本企業からの求人情報が少ない」といった回答が多い。
  6. 企業が高度人材の定着・活用のために取り組むべきこととして、「日本人社員の異文化への理解を高める」、「外国人の特性や語学力を活かした配置・育成をする」、「医療、年金、住宅、子供の教育等の日本での生活環境をサポートすること」、「外国人向けの研修を実施する」、「個人業績・成果を重視した評価・処遇制度を構築する」、「個人に仕事上の権限と責任を持たせる」を挙げる者が多い(図表3)。
  7. 2012年に導入されたポイント制について、導入を知っている者はおよそ2割でであった。また、ポイント制の申請を行い、受諾された者は1%(3名)であった(図表4)。
  8. 外国人の高度人材が日本企業に定着・活躍するために、高度人材が働くための環境整備とポイント制の優遇措置のどちらが有用だと思うかたずねたところ、「高度人材が働くための環境整備が有用だと思う」または「どちらかといえば高度人材が働くための環境整備が有用だと思う」と回答した者が多かった。

図表3 日本企業に必要な取組み(多重回答、n=320)

「日本人社員の異文化理解」、「語学力を活かした配置・育成」、「日本での生活のサポート」などが多い。

図表3画像

図表4 個人がポイント制導入を知っていたかどうかと申請の実績(n=334)

ポイント制を申請し受諾された者は1%。

図表4画像

政策的インプリケーション

少子・高齢化が進み、人口減少が進んでいくなか、若年者、女性、高齢者といった国内の人材を活用することが重要になる。一方、経済の国際化が進む中、日本経済の再生、成長に貢献する外国人の高度人材の受入れのあり方も、引き続き検討することが必要である。

日本経済の再生と成長に寄与する外国人の高度人材を集めるため、ポイント制のような法制度の整備も重要であるが、同時に企業における受入れ環境の整備や社会的な支援の仕組みづくりを合わせて実施していくことが不可欠であると考えられる。法制度の整備と企業の環境整備は代替的ではなく、補完的な機能を果たし、両方の整備に並行して取り組んでいく必要があろう。

本文

本文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。

研究の区分

プロジェクト研究「我が国を取り巻く経済・社会環境の変化に応じた雇用・労働のあり方についての調査研究」

サブテーマ「我が国の経済社会の変化と外国人労働者に関する調査研究」

研究期間

平成24年度

調査実施担当者

渡邊 博顕
労働政策研究・研修機構 副統括研究員

データ・アーカイブ

本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.162)。

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