調査シリーズ No.93
地域における生産活動と雇用に関する調査
概要
研究の目的と方法
地方自治体が講じる雇用創出の具体的な手法としては企業誘致が中心であり、製造業を戦略的産業として雇用創出に取り組んでいる地域が多い。では、地方に立地する製造業企業(事業所)は経営、生産、人事労務に関して現在どのような状況にあり、今後についてどのような見込みを持っているのか、自治体が期待しているような雇用創出を担うセクターたりうるのか。こうした問題を検討するためにアンケートを実施した。
主な事実発見
- 世界同時不況以降の2年間に調査対象事業所では直接取引関係にあった企業や事業所の転業、閉鎖、廃業など、厳しい環境に直面している。それに対して、経営・生産上の取組みとしては、「新製品の開発」、「製品の高付加価値化」、「「見える化」等への取組みによる業務の効率化」、「営業部門の強化」、「海外での生産や販売の開始、拡大」、「海外からの原材料、部品の購入の開始、拡大」、「不採算部門の整理・撤退」などの経営面・生産面での取組みを行っている。また、この期間に企業として「海外に生産拠点を新設、増設した」という回答が約2割、「今後海外に生産拠点の新設、増設の予定(計画)がある」という回答が約1割あった。
人事面の取組みとしては、「残業規制」、「配置転換」、「新規学卒採用の抑制、中止」、「外部人材(派遣、請負等)の削減」、「一時帰休、一時休業の実施」などの雇用調整を実施するとともに、「従業員の教育訓練の充実」を図っている。
- 現在の人材の過不足状況については、正社員全体、非正社員、外部人材の人材はいずれも「適切」という回答の比率が高い。しかし、正社員のなかの技術者、技能工、営業担当者では相対的に不足感が強い。人材の過不足感は世界同時不況以降に採られた経営・生産面、人事面での対応を反映していると考えられる。
- 今後の見通しについては、「見通しが明るい」という回答が1割、「何とかやっていく」が5割、「苦しい・生き残りは困難」が2割強となっている。
政策的含意
産業集積、消費地へのアクセス、流通、インフラストラクチャーを前提として製造業が立地する。地域の雇用創出に取り組むにあたって、製造業企業・事業所を誘致することで雇用創出につなげようとする場合は、地域の産業構造や産業集積を踏まえて戦略的産業を明確にする必要がある。
製造業の置かれた環境をみても企業間競争の激化は不可避である。今後諸外国に立地する企業との競争も一層激化すると思われる。為替レート水準によってはコスト上不利になることも考えられるので、これまでのように地域の雇用を長期的かつ安定的に支えることは難しくなる可能性もある。
地方に進出した製造業企業・事業所の撤退、工場閉鎖によって地域の雇用状況が悪化したり、地域で創出される雇用が正社員から非正社員や外部人材へとウエイトが変わっていることがしばしば指摘されている。その一方、技能工、技術者、営業担当者などの人材が不足しており、これらの人材の育成・確保が急がれる。そのため、戦略的産業の人材ニーズに沿った人材育成を重点的に支援していくすることが必要になると思われる。
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本文
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- 表紙・まえがき・執筆担当者・目次
序章 調査の方法と調査結果の概要(PDF:1.3MB) - 第1章 地域の生産活動をめぐる状況とその対応
第2章 事業所が地域に立地するメリット(PDF:1.2MB) - 第3章 人材の過不足と育成
第4章 最近の生産活動に影響を及ぼす諸要因と対応(PDF:1.3MB) - 第5章 地域における生産活動と政策的な支援−給付金を中心に−
第6章 生産活動の見通しと雇用
むすびにかえて(PDF:1.3MB) - 参考資料(PDF:1.8MB)
調査実施担当者
- 渡辺博顕
- 労働政策研究・研修機構 労働経済分析研究担当 副統括研究員
研究期間
平成23年度