調査シリーズ No.92
企業の社会貢献の取組みと労働者のキャリア形成
―実証:中高年期に障害者雇用に携わった人々―
概要
研究の目的と方法
- 目的:中年期以降に企業で社会貢献性の高い事業を推進する職務に携わった人々のその後のキャリア形成の実態を明らかにし、定年退職前の職務と職業キャリア形成の関係及び職業キャリアを通じた高齢期までのライフ・キャリア形成の関係を明らかにすること。
- 方法:民間企業において障害者雇用管理業務(以下「当該業務」という)の職務経験を有する者を対象とするヒアリング調査。
主な事実発見
特定の経験や経歴の者が当該業務の担当に選ばれる傾向は見出せない。当該業務に関わった経験がまったくない状況で担当を命じられることがほとんどだが、短期間に専門知識を習得する多角的な努力を行いつつ、過去の職業経験で培った職業能力・職業資産(図表)を基に新たな業務に対応して成功している。当該業務に従事したことで獲得した職業資産は、a. 異企業・異業種の企業人で築かれた当該業務をすすめる相互協力のネットワークの構成員になれたこと、b. ライフワークの発見、c. 人間的な成長や視野の拡大、d. エンプロイアビリティーの向上・獲得等である。これらの職業資産等の形成に関連して特に注目すべき事実として、これらの人々が自発的に構成する相互協力のネットワークは、需給両面での総量は小さいながらも特徴のある労働市場の生成を促していたことがある。
政策的含意
中年期に実績を企業収益への直接的な貢献度に表しにくい業務の遂行を命じられた者は、企業としての収益性・生産性と社会貢献性との両立を図るため、企業外に視野を広げて独自の職業能力を開発・蓄積し、新たな職業キャリア形成の道を切り拓く機会を得たといえる。現在は誕生後の歴史は短く、需給両面での総量は小さくとも、今後はその特徴ある労働市場の健全な成長と活発な機能に注意を払わねばならない。
政策への貢献
新しい労働市場の誕生と企業の社会貢献事業に携わる労働者のキャリア形成の関係を明らかにしたことで、労働者の職業能力活用の効果的支援施策についての方向を示した。
本文
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執筆担当者
- 奥津眞里
- 労働政策研究・研修機構 特任研究員
- 小野博也
- 社会福祉法人さいたま市社会福祉事業団 理事長
- 馬場 毅
- (元)日本経営者団体連盟障害者雇用緊急支援センター
研究期間
平成23年度