労働政策研究報告書No.147
中小企業における人材の採用と定着
―人が集まる求人、生きいきとした職場/アイトラッキング、
HRMチェックリスト他から―

平成 24年 3月30日

概要

研究の目的と方法

企業の採用活動と求職者の就職や転職等、求人企業と求職者のマッチングに関する研究としては、適性検査やキャリアガイダンス等これまで求職者を支援する研究が多く行われ、企業側の採用と定着を支援する研究は相対的に手薄であった。しかしながら的確でスムーズな就職や転職、また人材の有効活用による企業や社会の発展のためには、求人企業側への支援に関する研究も充実させていくことが必要となる。

そこで本研究では公的職業紹介機関等における求人企業サービスを強化する方向で研究を進めることとし、中小企業の課題であり関心事である人材の採用と定着に関して、各方面から検討を行った。人材の採用に関しては求人票や求人情報が求職者にどのように見られているか(アイトラッキングによる実験)、また、仕事や職場の選択において求職者がどのような点を重視しているか検討した(Web調査)。人材の定着や職場の活性化に関しては、当機構が開発した「HRM(Human Resource Management)チェックリスト」(下の写真)を、様々な企業で実施しデータを蓄積しており、これまでに200社以上1万名以上のデータが集まっていることから、この蓄積してきたデータを職場の活性化、職場への人材の定着といった側面から分析した。

写真

主な研究内容

本報告は第Ⅰ部と第Ⅱ部の2部から構成されている。第Ⅰ部では人材の採用に関して、主に中小企業を念頭にどのようにすれば人が集まるか検討し、第Ⅱ部では人材の定着に関して、職場の状況をどのように捉え、その状況と会社への帰属意識や仕事に取組む姿勢、またストレス反応との関係等、人材が定着する職場として、職場が生きいきと活性化するにはどうすればよいか検討した。

  1. アイトラッキングの実験より求人票等で注目するのは「仕事の内容」であり、応募に前向きになるのも躊躇するのも「仕事の内容」であった(下図はアイトラッキングによるヒートマップの一例)。注視時間に関して女性は就業場所と就業時間を男性よりも長く見ていた。年齢に関して若年は本社所在地、中高年は沿線/就業場所の注視時間が長い等、様々な結果が得られた(第Ⅰ部第1章)。

    ※図表をクリックすると拡大表示します。(拡大しない場合はもう一度クリックしてください。)

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  2. 仕事や職場の選択で重視されると考えられる60項目を用意し、性別年齢が均等になるように500名、Web調査によりデータ収集した。このデータを因子分析したところ、仕事や職場の選択に関する大きな因子として、「創意・自律・個性」、「定時・安全・通勤」、「社屋・海外・有名」、「人員・財務・売上」が抽出された。得られた因子を基に自社の求人面での魅力をチェックし確認する「仕事職場魅力チェックリスト」を作成した(第Ⅰ部第2章)。
  3. 学生等若者が企業をどのように見ており、どのような企業に魅力があると感じているか最近の調査結果を収集し検討した(第Ⅰ部第3章)。
  4. 中小においても海外展開の必要性が高まっていることから、中国での日本企業の人材問題に関する現状を紹介し、コンサルタントとして関わっている筆者が中国でのカネボウとホンダを事例として紹介している(第Ⅰ部第4章)。
  5. これまで各社で実施し蓄積してきた200社以上、1万名以上のHRMチェックリストのデータを用いて、職場や仕事の状況をみる「ワークシチュエーション」の部分を分析した。中小と大企業を比較すると(300名を基準に中小と大企業に分けている)、「Ⅰ職務」、「Ⅳビジョン・経営者」等は中小の方が肯定的な回答である等、様々な結果が得られた(第Ⅱ部第1章)。
  6. HRMチェックリストの「コミットメント」に関する項目を分析したところ、想定した因子が確認された。また、職場や仕事に対する気持ちや意識の面でも、必ずしも中小が大企業よりも否定的に見られているわけではないことが示された。また、仕事の進め方等「職務」が職場や仕事に対する気持ちや意識の面で重要であることが示された(第Ⅱ部第2章)。
  7. ストレス反応は(抑鬱気分、不安、怒り、身体反応)、年齢とともに低下していた。また、ワークシチュエーション(上記(5))が肯定的であれば、ストレス反応が低下する関係が示された(第Ⅱ部第3章)。
  8. 定着対策としても重要な企業の教育訓練に関して、従業員の意識調査と企業調査を収集し、状況を整理し現状を検討した(第Ⅱ部第4章)。
  9. 職場の利点や長所、魅力や希望といったポジティブな側面に注目し、活発で様々な良い面がある組織(ポジティブな職場)に転換するための、一つの具体的な方法として、オープンで自由な雰囲気でメンバーが生産的に会話する「ワールドカフェ」を取り上げ、実践方法や効果を検討した(第Ⅱ部第5章)。

本研究の政策的意義

雇用環境が厳しい中、中小企業の雇用吸収力が期待されているが、いまだに人材の採用、定着に苦労している中小企業は多い。本研究から導かれる中小企業の人材確保と人材活用に関する種々のポイントは、中小企業における人事労務管理の参考になることと考えられる。また本研究は、最近の厳しい採用状況において、学生や若者が中小企業を就職先の選択肢に加えること、そして、若年層が職場に定着し生きいきと力を発揮することに繋がることも期待される。

本文

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研究期間

平成23年度

執筆担当者

松本真作
労働政策研究・研修機構副統括研究員
長沼裕介
労働政策研究・研修機構臨時研究協力員
浅井千秋
東海大学文学部心理・社会学科准教授
町田秀樹
アスピレックス代表取締役社長
 
講談社ビーシー中国経営研究室上級主席研究員
太田さつき
東京富士大学経営学部教授
佐藤 舞
労働政策研究・研修機構臨時研究協力員
音山若穂
群馬大学大学院教育学研究科准教授

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成果普及課 03(5903)6263

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