労働政策研究報告書No.126
有期契約労働者の契約・雇用管理に関するヒアリング調査結果
―企業における有期労働契約の活用現状と政策課題―
概要
研究の目的と方法
2008年秋以降の急速な景気悪化に伴い、雇用問題が大きな政策課題になっている。中でも、派遣・契約(期間工)等の中途解約や雇止めの大量発生という、シンボリックな企業行動に端を発し、改めてクローズアップされてきたのが、<期間を定めて雇用されている> 有期契約労働者の雇用のあり方の問題である。
こうしたなか、有期契約労働者の契約・雇用管理の現状を把握するため、企業ヒアリング調査を実施することとした。その目的は、今日的な有期契約労働者が具体的にどういった職務へ配置され、企業は有期労働契約にしている事由をどのように考えており、対応する契約・雇用管理の実態はどうなっており、その処遇改善方策にいかに取り組んできたか、さらに、有期契約労働者の今後の活用のあり方についてどのような見解を持っているか――などといった、企業における率直な実態や考え方を把握することにあった。
ヒアリング対象の選定に当たっては、有期契約労働者の活用数の上位業種(製造、小売、サービス(派遣等))、及び有期契約労働者の活用割合の上位業種(小売、飲食、教育、サービス)のほか近年、有期労働契約にまつわる判例が増加するなど課題に直面している業種(製造、教育、金融・保険、介護等)――に照準を当て、有期契約労働者を雇用しており、業界に影響力を持つリーダーカンパニー23社を対象に、09年5月15日~12月4日にかけ、訪問ヒアリング調査を実施した。
主な事実発見
○有期契約労働者はどのような職務に配置されているかヒアリング企業の人材ポートフォリオ戦略に基づく労働力構成は、各社各様であるものの、今回調査した限りでは近年、有期労働契約領域が着実に、その厚みを増し、非常に広範な職務にわたり配置され、多様な集団となっている様相が浮かび上がった。
有期契約労働者の多様な職務(業務の内容及び責任の程度)を、正社員のそれとの異同(業務内容で比較し得る正社員がいるか、責任はどの程度か(人材の特定性・代替性どちらがより高いか))で比較・分類すると、少なくとも (1)「高度技能活用型」(業務の異同を問わず責任が高度) (2)「正社員同様職務型」(業務・責任とも同様) (3)「別職務・同水準型」(業務が異なるまたは責任が異なるが、事業継続性の担保や収益貢献に果たす役割等の観点から同水準の位置付け) (4)「軽易職務型」(業務の異同を問わず責任が軽易)――の4タイプ(別職務・同水準型を (5)業務自体が異なる「別業務型」と (6)業務は近似しているが責任が異なる「別責任型」に分類すると5タイプ)に、類型化される(図)。
○有期で労働契約を締結している事由は何かこうしたなか、有期で労働契約を締結している事由を聴くと、例えば高度技能活用型では、「正社員の処遇体系では対応し切れないから」、同様職務型では「試行的雇用期間に位置づける(実質的に試用期間を延長できる)ため」、別職務・同水準型では「需要の不確実性や新規事業の不透明性への対応(要員を固定化せずに必要労働力を確保)」(主に製造業)や、「工場・事業所、店舗の移転・閉鎖等の可能性」(業種を問わず)、「人件費を抑制できる現業労働力としての活用」(主に小売業、金融・保険業、サービス業(介護、外食、教育)等)、軽易職務型では「個人都合を優先させた短時間勤務等で人件費を削減しつつ、サービス需要の週・一日単位の変動に柔軟に対応するため」――といった具合にさまざまな事由で、むしろ恒常的に、有期契約労働者を活用していることが多い実態が浮き彫りになった(表1)。
反面、「社内に人材を保持していない専門的職務への即戦力の機動的確保(プロジェクト期間、新規事業展開時、システム導入やプログラム構築等不定期に発生した専門職務の必要期間のみ等)」や、「季節循環・繁閑周期に伴う職務量調整への対応」「出産・育児等休暇者の代替要員」――といった、職務・勤務地等の<臨時・一時性>に明確に裏打ちされた事由での活用は極めて限られていた。
○有期労働契約の今後の活用のあり方をどう考えるか(1)いわゆる入口規制に対する意見
有期労働契約の活用実態を踏まえ、本調査では今後の活用のあり方として、諸外国の法制にみられるような、いわゆる入口規制、出口規制に対する見解も尋ねている。
それによると、仮に有期労働契約の締結事由を合理的なものに限定する等の入口規制がなされた場合は、「外注化、自動化・機械化する」「海外流出を射程に入れざるを得ない」といった対応方策を採る可能性が指摘された。
そのうえで、有期労働契約を締結する合理的事由として、「臨時・一時的活用(季節循環的繁閑調整含む)」のほか、「新規事業の安定収益化までの調整期間」「正社員としての採用可否を見極める試行的雇用期間」「有期契約労働者本人が希望する場合」(他に公的財源に基づく雇用創出措置)――などについては許容して欲しいとする意見が寄せられた(表2)。
(2)いわゆる出口規制に対する意見
一方、仮に有期労働契約の勤続年数等に上限を定めるなどといった出口規制がなされた場合も、「勤続年数等上限に至るまでの選別を強化する」「雇入れ時点で人物選定を厳格化したり、正社員転換を希望しない人を嗜好する」等の回避行動を採る可能性が指摘された。
そのうえで、「ひとまずは現行通りの処遇のままの単純な無期労働契約化であれば検討余地もある」といった回答も少なくなく、その際には職種限定、勤務地限定等働き方の制約要件に応じ、仮に雇用保障できなくなった時点での解約がどう担保され得るかが重要といった見解が示された。
また、個人的資質・能力等を加味しない、継続雇用だけを基準とした無期労働契約化は非常に厳しいため、むしろ個別企業の事業継続性や収益貢献性に影響する一定の職務以上はコア領域とみなし、「そこまで任せられる以上は当然にして正社員化しなければならないといった規制の方が、受容れやすい」といった指摘等も聴かれた(表3)。
政策的含意
有期労働契約のより良好な形での活用に向け、求められている方策は何か。今回、有期契約労働者の契約・雇用管理に係る問題意識の高い企業人事部にヒアリングした限りでも、一律的な入口規制、出口規制には一定の反対が寄せられた。
しかしながら、<有期契約労働者>と一口に言ってもさまざまな職務タイプがあり、中には事業継続性の担保や収益貢献に占める役割等が軽視できないものも存在することから、例えば同様職務型については均衡・均等待遇化や、試行的雇用期間(その後の正社員転換)の位置づけを明確にした活用の促進等、また、例えば別職務・同水準型に対しては、現行の<正社員像>に依らない、働き方と処遇の対応関係の多様な展開を伴う、無期労働契約化(いわゆる職務(職種、部門・事業、一定の業務範囲等)や、勤務地(工場・店舗、事業所等)、キャリア範囲等を限定した新たな正社員区分の設置)等――であれば検討の余地もあり得るなど、いくつかの可能性を窺わせるヒアリング結果となった。
政策への貢献
本調査は、厚生労働省労働基準局の要請に基づき、実施したものである。
本調査の成果は、労働基準局の第10回有期労働契約研究会(平成21年12月24日開催)で報告(注)している。また、第17回有期労働契約研究会(平成22年7月6日開催)の参考資料2(PDF)
や、第87回労働政策審議会労働条件分科会(平成23年5月31日開催)
の資料3-14(PDF)
として引用された。
(注) 配布資料は「第10回有期労働契約研究会」、議事録は「09/12/24 第10回有期労働契約研究会議事録」
を参照。
本文
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研究期間
平成21年度
執筆担当者
- 新井栄三
- 労働政策研究・研修機構 主任調査員
- 渡辺木綿子
- 労働政策研究・研修機構 調査員
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