ディスカッションペーパー 22-03
コロナ禍における所得変動と所得格差

2022年2月25日

概要

研究の目的

新型コロナウイルス禍(コロナ禍)における所得変動と所得格差について、JILPTが実施した個人アンケート調査(2021年6月実施)のデータをもとに検討した。

研究の方法

労働政策研究・研修機構が実施した「新型コロナウイルス感染拡大の仕事や生活への影響に関する調査」(2021年6月実施)の個票データ分析。

主な事実発見

月収(コロナ前通常月および2020年4月~2021年5月の各月における月収)に関するジニ係数の推移を見ると、2020年度を通してコロナ前通常月の水準を上回っており、コロナ禍において雇用労働者の所得格差が拡大した可能性がうかがえた(図表1)。

図表1 月収のジニ係数の推移

図表1画像

なお、格差の形については、低所得層の所得減少/高所得層の所得増加という、「コロナ前の所得階層に基づく二極化」の図式では説明しきれないものであった。例えば、2020年5月、2021年1月時点の月収の分布は、コロナ前と比較すると、20万円台半ばにあった分布の山がやや低くなり、低収入層など裾野部分が拡大する傾向が見られるなど、中間的な所得層の一部で収入が落ち込む形で、被雇用者の収入の分散が大きくなった様子がうかがえた(図表2)。年収についても、2019年から2020年にかけて、全体の分布が大きく変わらない中、収入が減少した者の割合も小さくないなど、労働者個々のレベルでは所得変動が観測された(図表3)。

図表2 月収分布の密度推定(コロナ前、2020年5月、2021年1月)

図表2画像

図表3 2020年における個人年収の変化-2019年個人年収別-

図表3画像

注:「変化なし」には、調査票における同一カテゴリー内で年収が変動したケースが含まれる。

属性別の収入変化を見ると、男女格差、雇用形態間格差、業種間格差、職種間格差、居住地域間格差が確認された。このうち、雇用形態間の格差に関しては、2020年4~5月の時期における非正規雇用への大きな打撃とともに、正社員における長期的な収入減少も確認され、残業削減の長期化や賞与の減少等にともなう収入減少と推測された。

政策的インプリケーション

コロナ禍における労働者の所得変動には、経済ショックを受けた日本企業の雇用調整や、感染拡大下における就業抑制等の動きが反映されている。所得格差の是正等の政策対応を適宜行うことが求められる。

政策への貢献

労働条件の安定など、今後の雇用政策における企画・立案の基礎資料として活用が期待される。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「雇用システムに関する研究」
サブテーマ「新型コロナウイルスによる経済、雇用・就業への影響、及び経済、雇用・労働対策とその効果についての分析に関する研究」

研究期間

令和3年度

研究担当者

高見 具広
労働政策研究・研修機構 副主任研究員

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※本論文は、執筆者個人の責任で発表するものであり、労働政策研究・研修機構としての見解を示すものではありません。

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