ディスカッションペーパー 22-01
最低賃金近傍で働く労働者比率に関する指標の国際比較による検討
概要
研究の目的
最低賃金の影響を測る指標の国際比較。
研究の方法
賃金構造基本統計調査の個票データ分析。
主な事実発見
- 最低賃金の引き上げの影響は、国によって異なる指標を用いて国民に説明される。日本と韓国においては「影響率」と「未満率」の2つの指標が利用されている。ヨーロッパでは、最低賃金以下で働く労働者の比率である「最低賃金以下比率」が利用されることが多い。フランスは例外的に「影響率」のみを利用している。
注)アメリカは時給労働者数に限定した比率、オーストラリア、オランダ、スペインは最低賃金以下比率である。ドイツは職業実習生、インターン、18歳未満を除く。オーストラリアは技術見習、障害を持つもの、18歳未満を除く。日本は調査対象に事業所規模1~4人を含んでいない。
- 最低賃金以下比率には最低賃金未満と、最低賃金丁度の時給で働く労働者の両方が含まれるため、この比率が高い方が良いのか否か判断しづらいという欠点がある。一方、「影響率」は、調査を実施した時点の賃金分布が最低賃金引上げ時点と変わらないという強い仮定の下、最低賃金から影響を受ける労働者数を予測した値であるため、実際に最低賃金から影響を受ける労働者の割合よりも大きく推計される可能性がある。
- アメリカでは「未満率」と最低賃金丁度の時給で働く人の割合である「一致比率」が利用されている。賃金の下限として最低賃金が効果的に賃金を下支えしているか簡便に確認するには、「一致比率」と「未満率」を分けてその変動を追うことが有効と考えられる。
USCB・CPSより作成
- 図表2に示すように、アメリカの連邦最低賃金「一致比率」は低下し続けており、2020年時点において、連邦最賃は賃金の下支え効果を失いつつある。
- イギリスについて両指標を推計すると、図表3に示すように長期に渡り「一致比率」のみが堅調に上昇し続けていたが、2016年の全国生活賃金の導入後は「一致比率」が低下し、「未満率」が増加している。最低賃金の引き上げにキャッチアップできていない企業が存在する可能性を示唆している。
分子はLow Pay Commission Report、分母は25歳以上雇用者数(ONS・Labor Force Surveyから作成)
- 図表4は、日本の両指標を比較している。2016年以降、地域別最低賃金は年3%台とこれまでよりも大きな引き上げが続いているが、この間「未満率」は横ばいであるのに対し、「一致比率」が微増している。地域別最低賃金は穏やかに日本の賃金を下支えしていることが確認できる。
賃金センサス個票を用いて作成
政策的インプリケーション
日本における「最低賃金一致比率」指標の利用可能性ついて検討した。
政策への貢献
最低賃金に関する政策を検討する際の基礎資料の提供。
本文
研究の区分
緊急調査
研究期間
令和元年~3年度
研究担当者
- 高橋 陽子
- 労働政策研究・研修機構 副主任研究員
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お問合せ先
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- 研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム
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