ディスカッションペーパー 16-03
人事・賃金制度の変遷に関する一考察と今後の研究課題
概要
研究の目的
賃金制度の変遷を簡潔に記すと共に賃金に関する研究課題を提示する。
研究の方法
文献、ヒアリング調査
主な事実発見
変遷の特徴を示すと図表のようになる。まず、次の基本的な特徴は維持されている。すなわち、査定付きの昇給・昇格の下で年功賃金カーブが形成されることは、維持されている。一方、成果主義以降の変化として、①制度を構築する上で経営管理の要素を考慮する部分が増したこと(制度設計思想の供給サイドから需要サイドへの転換)、②賃金表において、従来の積み上げ型に加えて、ゾーン別昇給表が登場したことを挙げている。以上より、基本的な特徴は維持しつつ、制度は時代に適合するかたちで変化していることを指摘している。加えて、一般社員層にも降給があることから、諸外国よりも厳しい制度であることも指摘している。
また、春闘において、ベースアップとも定期昇給とも言えない賃上げが、実施されており、場合によってはその賃上げ効果が将来的に消えることも指摘している。以上から窺われることは、春闘というものが、もはや定期昇給とベースアップという教科書的な理解では、正しく把握できない可能性があることである。その意味でも、春闘で妥結された賃上げが、個別企業の賃金表にいかなる形で反映されるのかを確認することは、重要な作業だと考えられる。
出所)石田(2006)、今野(1998)、楠田(2001)を基に筆者作成
政策的インプリケーション
成果主義以降、従来の積み上げ型の賃金表に加えて、等級レンジ内の1つの水準に賃金が収斂するようなゾーン別昇給が登場している。この賃金表は、年功賃金カーブを寝かせる機能を持っていると思われる。
成果主義以降、マクロ賃金(春闘)とミクロ賃金論(賃金制度)の繋がりは、そう単純な関係ではない可能性があることが示唆された。成果主義以降、春闘における労使交渉によってもたらされる賃上げ効果が、将来的に消える可能性があることから、労使交渉によって合意される賃上げの方法が、将来的な賃金水準に及ぼす影響が増している可能性が窺われた。
政策への貢献
雇用システムや集団的労使関係システムの在り方にかんするマクロ的政策課題について、政府、労働組合、使用者団体といったILO 三者構成原則に基づく各政策主体が構想を検討する上での基礎資料としての活用が期待される。
本文
研究の区分
プロジェクト研究「企業の雇用システム・人事戦略と雇用ルールの整備等を通じた雇用の質の向上、ディーセント・ワークの実現についての調査研究」
サブテーマ「企業経営と人事戦略に関する調査研究プロジェクト」
研究期間
平成26年度
執筆担当者
- 西村 純
- 労働政策研究・研修機構 研究員
お問合せ先
- 内容について
- 研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム
※本論文は、執筆者個人の責任で発表するものであり、労働政策研究・研修機構としての見解を示すものではありません。
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