ディスカッションペーパー 13-02
東日本大震災の復興状況と雇用創出
(JILPT東日本大震災記録プロジェクト取りまとめNo.4)

平成25年7月31日

概要

研究の目的

東日本大震災の被災地の復興が遅れている原因を調査し、その対応策を検討すること。

研究の方法

岩手、宮城、福島の被災3県について、最も被害が大きかった宮城県の沿岸地域を中心に、市町村、漁業協同組合、企業、個人に対してヒアリング調査を実施した。

主な事実発見

東北自動車道に沿った内陸部を中心とした製造業は、比較的短期間のうちに復興を成し遂げ、自動車産業やエレクトロニクス産業のサプライチェーンも機能回復している。それに伴って、これらの産業が集積する地域は、労働市場の需給状況が改善し、有効求人倍率が1倍を上回るところも現れてきている。

これに対して、沿岸部の主要産業である水産業および水産加工業の復興は、大幅に遅れている。復興の遅れは、当初政治の混乱により復興資金の交付が遅れたことによってもたらされたものと思われていたが、国からの財政措置が実現しても、沿岸部の復興は遅々として進まず、いくつかの問題点が浮かび上がってきた。

最大の問題点は、市町村の公共工事に関する専門的人材の極端な不足であった。漁業関連の港湾施設の大半は市町村が管理しており、大規模な復旧工事の積算作業を行える人材が極端に不足したことによって、公共工事の入札が大幅に遅れてしまった。しかも、人材不足の対応策として市町村が講じたのは、全国の市町村からの人材の応援であった。この応援は、大半が短期間の出向人事によるものであり、積算作業等のノウハウがなかなか蓄積しないなどの問題を抱えていた。なお、同じ港湾施設の復興でも、大規模な施設の工事は国が直轄事業として行ったため、比較的短期間のうちに完了している。

復興を遅らせている他の要因としては、被災地での極端な建設労働者の不足問題がある。さらに、建設労働者の不足は賃金の高騰をもたらし、建設資材の高騰も加わって、公共工事の入札不調が相次ぎ、結果的に復興を遅らせている。

沿岸部の主要産業である水産加工業は、工場の再開にこぎ着けた段階で、求人を出しても人が集まらないという人手不足問題に直面している。その主な原因は、水産加工業の賃金水準が、非常に低いという問題である。復興工事などに関連した求人の賃金水準は、水産加工業よりも大幅に高く、水産加工業には求職者が集まりにくいという状況が進行している。

こうした被災地の復旧・復興を遅らせている問題に対して、いくつかの対応策が考えられる。公共工事に関しては、国と地方の役割分担を見直し、災害といった非常時には国が市町村の公共工事を柔軟に肩代わりできるように、関連する法律の改正が必要である。また、復旧・復興関連の公共工事や補助金などに関連した煩雑な行政手続きも、復興を遅らせる大きな要因となっている。この点に関しても、非常時の行政手続きは平時とは異なった簡潔なものにする必要があり、法改正が必要である。

建設労働者の不足問題に関しては、全国的な規模で労働力の需給調整ができるような新たなシステムの開発が必要である。また、建設機械のオペレーターに関しては、公共職業訓練の大幅な機能強化が必要である。さらに、水産加工業の高付加価値化を進展させる可能性のあるネット販売に関しては、被災地にIT技術者がほとんどいないため、大都市圏から人材を呼び寄せるための新たな仕組みや助成制度を整備する必要がある。

現状では復興の歩みはかなり遅れているが、新たな試みも多方面で始まっている。公共工事に関しては、地元の建設会社を優先するだけではなく、ゼネコンを活用して全国から建設労働者を集めるといった新たな公共工事の推進方法が導入され始めている。水産加工業では、東京のIT企業から派遣されたボランティアの専門家によって、漁協や卸業者を介さず直接消費者に販売するネットビジネスを試みる企業が、現れ始めている。農業では、IT技術を活用した新たなハウス栽培や植物工場を導入する企業が現れてきている。さらに、福島県では、洋上風力発電の実証実験が始まっており、産業化に成功すれば機械設備の量産工場などで大規模な雇用創出が期待されている。

図表 ハローワーク石巻の食料品製造の職業に関する求人・求職データ

図表画像:ディスカッションペーパー13-02

資料出所:宮城労働局「求人・求職バランスシート」より作成

政策的インプリケーション

今回の調査研究では、国と地方自治体の役割分担、行政手続などに関して、平常時の法律を非常時にそのまま適用していることが、復旧・復興を遅らせる主な原因の一つとなっていることを明らかにしており、法律の新たな枠組みが必要なことを示唆している。また、災害時の建設労働者の不足問題、水産加工業の高付加価値化についても、その対応策のあり方を提示している。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「非正規労働者施策等戦略的労働・雇用政策のあり方に関する調査研究」

サブテーマ「東日本大震災からの復旧・復興と雇用・労働に関するJILPT調査研究プロジェクト(震災記録プロジェクト)」

研究期間

平成24~25年度

執筆担当者

伊藤 実
労働政策研究・研修機構 特任研究員

入手方法等

入手方法

非売品です

お問合せ先

内容について
研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ

※本論文は、執筆者個人の責任で発表するものであり、労働政策研究・研修機構としての見解を示すものではありません。

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