ディスカッションペーパー 12-06
限定正社員の活用目的に関する一考察
─雇用区分の動態性に注目して─

平成24年3月30日

概要

研究の目的と方法

本稿の目的は、2000年以降において、新たな雇用区分として導入され、かつ、少なくない数の非正規社員の登用先となった職種や勤務地に限定のある正社員(限定正社員)の企業内での活用目的を明らかにすることである。この課題を明らかにするために、本稿では、対象としている限定正社員区分の賃金、および、当該区分に属する限定正社員が就くことが求められている企業内のポストに注目している。

主な事実発見(図表)

第一に、細部の違いを捨象した上で、共通の項目を取り出すと、対象事例が非正規の登用先となった限定正社員区分を作った要因として、 (1)退職者によって生じる社内の空きポストを埋める人材を調達するために設けられた場合と (2)労働市場の逼迫や、法改正に対応するために設けられた場合の二つが挙げられる。

第二に、対象とした限定正社員区分の活用方針については、非正規からの登用が行われた限定正社員であっても、違いがあった。一つは、限定正社員が就くことが求められているポストに対して、他の正社員も就くことが求められている、つまり、複数の正社員区分間のキャリアを統合させる方向で活用が進められようとしているタイプである。二つは、限定正社員が就くことが求められているポストに、他の正社員が競合することを避ける方向で運用が進められようとしている、つまり、限定正社員区分と限定のない正社員区分のキャリアパスを分ける方向で活用が進められようとしているタイプである。

第三に、上記の限定正社員を設けた要因と、活用方針には関係性が見られた。具体的には、退職者の人員補充といった企業内部の変化への対応に直面している事例の場合、新たに設けられた限定正社員のキャリアパスは、他の正社員区分と統合される傾向にあると共に、将来的には、その限定を弱めていくような活用方針がとられる傾向が見受けられた。一方で、労働市場の環境変化や法改正等、外部環境への対応に直面した事例の場合、限定正社員の活用方針は、基本的にはその限定を維持しつつ、限定正社員独自のキャリアパスを構築する傾向が見受けられた。

第四に、各事例に共通することとして、キャリアパスの構築の仕方に違いはあるものの、限定正社員区分導入に伴い、企業内の昇進を巡る競争環境に変化が生じていることが挙げられる。

第五に、限定正社員の処遇は、異動の範囲や業務の限定に基づき、限定のない正社員に比べると抑えられている傾向が見られた。ただし、基本給、賞与、退職金等の水準をどのようなルールで、どの程度の差とするのかについては、事例ごとに差異が見られた。

以上の発見から、限定正社員の活用目的として、(イ)正社員にかかる人件費を抑えつつ、(ロ)企業内の昇進を巡る競争環境を再整備するという面があることが窺われる。

図表 各事例のまとめ

図表 各事例のまとめ /ディスカッションペーパー12-06

注)括弧内の社員名については社内の正式名称ではない事例もある

政策的含意

対象とした事例では、非正規は、総合職等の限定のない正社員区分ではなく、限定正社員区分に登用されていたことから、限定正社員は、非正規の正規化の一つの方策として期待できると考えられる。また、限定正社員の処遇が様々なものとなっていることを考慮すると、企業の置かれている状況や労使関係に影響された結果、様々な限定正社員区分が作られていることが窺われる。

このことから、自社の経営状況や人員状況に沿って、導入可能な正社員区分を導入することで、正社員登用を望む非正規社員の正社員化が、より促進されていくと思われる。そのためにも、労使委員会等の従業員代表組織の構築も含めた経営側と従業員側の話し合いの場を持つことを定める手続き規制の整備について、議論していくことが望まれる。

ただし、同じ限定正社員区分であっても、それが非正規の定期的な登用先となる場合と、ある一時点で登用が行われた後は、そうはならない場合があった。さらに、定期的に登用が行われている場合でも、正社員へ登用されなかった場合、契約更新期間の上限の関係で、企業からの退出を余儀なくされるケースもある。そのため、限定正社員区分が導入されたとしても、非正規への雇用機会の提供や能力開発等の支援をどのようなかたちで行っていくのかについて、引き続き検討を行っていくことが求められる。

本文

研究期間

平成23年度

執筆担当者

西村 純
労働政策研究・研修機構 研究員

入手方法等

入手方法

非売品です

お問合せ先

内容について
研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ

※本論文は、執筆者個人の責任で発表するものであり、労働政策研究・研修機構としての見解を示すものではありません。


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