ディスカッションペーパー 12-02
小地域における産業連関表の推計と雇用誘発シミュレーション
─熊本県におけるケーススタディ─
概要
研究の目的と方法
- 地方分権の進展に伴い、労働政策における自治体の役割は今後ますます大きなものとなることが予想される。その際、雇用創出に関する明確なビジョンあるいはマクロ戦略に基づき、地域の実情に即した具体的な労働政策を適切に実施していくことが重要であると考えられる。
- 本研究の目的は、相対的に規模の小さな自治体が具体的な数値目標をもった雇用創出のビジョンあるいはマクロ戦略を作成する際のツールとして、小地域での地域間産業連関表の推計、及び同表を用いた雇用誘発シミュレーションの方法を提案することである。
- 具体的には、まず、熊本県をケースとして選択し、同県を熊本都市圏とそれ以外の2地域に分割した地域間産業連関表を推計する。その際、地域間交易の推計にグラビティモデルを適用し、既存の産業連関表と整合的であり、かつ双方運搬を考慮した形で産業連関表を推計する。次に、同表に対応した雇用表を整備し、企業誘致及び政府の新成長戦略(平成22年6月18日閣議決定)を例に雇用誘発目標値の計測を行っている。
主な推計結果
- 熊本都市圏において1単位(100万円)の域内最終需要(家計消費や投資)が発生した場合の雇用誘発量を算出し、雇用誘発量の多い30部門を雇用が誘発された地域別に抽出する(図表)。熊本都市圏内では商業がもっとも多く、医療・保健、その他の対個人サービス、洗濯・理容・美容・浴場業、介護が続く。
- 同図表によれば、都市圏以外の熊本県及び熊本県以外の日本では、間接的な波及効果によって製造業及び農林水産業部門の雇用が上位に位置する。したがって、熊本都市圏で発生した製造業及び農林水産業部門の最終需要の方が、サービス業と比べて他地域の雇用へ与える影響が相対的に大きい。結果として、日本全体では、衣服・その他の繊維既製品がもっとも雇用誘発量が多く、以下、商業、飲食店、繊維工業製品、及び医療・保健となる。
- 新成長戦略の政策目標に基づく雇用誘発量は、環境分野(製品代替未調整)では、熊本都市圏で約1万人、都市圏以外の熊本県で約5千人、及び熊本県以外の日本で約138万5千人である。部門別では、経済活動すべてに係わる商業、運輸及び対事業所サービスは、いずれの地域でも上位である。これら以外には、熊本都市圏では輸送機械、建設、教育・研究及び電子部品、並びに都市圏以外の熊本県では、電気機械、建設、輸送機械、及び金属製品で多い。
- 新成長戦略の医療・介護分野における雇用誘発量については、熊本都市圏で約2万6千人、都市圏以外の熊本県で約1万3千人、及び熊本県以外の日本で約256万9千人となる。部門別では、直接関連する医療・保健・社会保障・介護がもっとも多く、商業、運輸及び対事業所サービスが上位に入る。これらに加え、化学製品及び対個人サービスの誘発量が多い。
※図表をクリックすると拡大表示されます。
注1) 作成・検討された地域間産業連関表及び雇用係数より筆者作成。
2) 熊本都市圏における域内最終需要単位当たり雇用誘発量について、雇用が誘発される地域別に雇用誘発量上位30部門を抽出したもの。
政策的含意及び政策への貢献
- 地域間産業連関表から算出される部門別域内最終需要の単位当たり雇用誘発量によって、地域・部門間の間接波及効果も含めた雇用誘発の観点から対象地域において強みのある部門を抽出することができる。
- 単位当たり雇用誘発量を一度算出しておけば、投資・生産活動の具体的な計画から得られる最終需要の財・サービス別金額を乗じることによって、雇用誘発目標値が計測され、具体的な数値目標をもった雇用創出ビジョン・計画の作成に寄与する。
- 計測される雇用誘発量の解釈に当たっては、時間外労働時間による調整が考慮されていない点に留意が必要である。また、効率性の観点から、見込まれる税収を考慮した上で、費用対効果を見る必要がある。
本文
研究期間
平成23年度
執筆担当者
- 中野 諭
- 労働政策研究・研修機構 研究員
入手方法等
入手方法
非売品です
お問合せ先
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