ディスカッションペーパー 11-02
初期キャリアにおける内部登用と転職:
非正規雇用者の移行に関する国際比較

平成23年4月26日

概要

研究の目的と方法

本研究は、世界的に増大の傾向がみられる非正規雇用者について、日本と海外の国々で行われた調査データを分析し直接比較することによって、日本の非正規雇用者の特徴を明らかにしようとするものである。今回は、日本の他にドイツとイギリスを分析対象としている。日本は2005年に行われた「社会階層と移動全国調査(研究代表:東北大学大学院佐藤嘉倫教授)」、ドイツはドイツ経済研究機構(DIW)によるGerman Socio Economic Panel Study、イギリスはエセックス大学によるBritish Household Panel Studyのデータを用いている。今回のディスカッション・ペーパーでは、学校教育を修了して初めて労働市場に入った時点で非正規雇用者として仕事に就いたものを対象とし、それらの人々が、非正規雇用者として滞留し続けるのか、あるいは正規雇用者に移行するのか、無職になるのかについて、3ヶ国に同じ計量モデルを適用して比較を行っている。

主な事実発見

  1. 初職就労時に一時雇用(非正規雇用者)になる確率は、入職時の年齢が若いほど、女性ほど高い。学歴は、ドイツと日本では学歴が低いほど一時雇用が増加するが、イギリスでは高等教育修了者が一時雇用として就業する確率が比較的高い。また、特に日本で失業率が悪化すると、初職就労時の一時雇用者が大きく増加する。
  2. 初職で一時雇用となったもののほかの状態(常用雇用、自営、無職)への移行をみると、常用雇用への移行はイギリスが最も高く、日本が最も低い。イギリスではほかの企業への転職を通じて、ドイツでは内部登用と他企業への転職の双方を通じて常用雇用に移行する。一方、日本では常用雇用への移行率自体が極めて低く、失業率の上昇に伴い、無業への移行率が有意に上昇する。

政策的含意

ドイツ、イギリスと比較すると、日本で初職に非正規雇用者となったものは、そのまま非正規雇用者に留まるものが多く、失業率が上昇すると無業に移行する。一方、イギリスでは若年層の一時雇用は、一種の見習い期間であり、常用雇用への飛び石(stepping stone)として機能していることが個票データの分析から確かめることができた。ドイツでも、初職における一時雇用の比率が50%近くに上るにもかかわらず、内部登用、転職を通じて常用雇用へ移行する。日本においては、非正規雇用者の処遇を見直すとともに、正規雇用と非正規雇用者の間の移行を容易にする政策を展開することが望まれる。

図表 一時雇用から他の状態への移行率

a. 日本

図表  一時雇用から他の状態への移行率/ディスカッションペーパー11-02

 b. ドイツ

図表  一時雇用から他の状態への移行率/ディスカッションペーパー11-02

c. イギリス

図表  一時雇用から他の状態への移行率/ディスカッションペーパー11-02

注 PE:常用雇用への移行、SE:自営業への移行、NE:無業への移行

本文

研究期間

平成22年度

執筆担当者

平田周一
労働政策研究・研修機構 主任研究員
勇上和史
神戸大学大学院経済学研究科准教授

入手方法等

入手方法

非売品です

お問合せ先

内容について
研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ

※本論文は、執筆者個人の責任で発表するものであり、労働政策研究・研修機構としての見解を示すものではありません。


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