スペインにおける高等教育と雇用

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年8月

1.はじめに

本報告では、過去数十年間における雇用と失業の動向、職業構成、賃金及び賃金格差を説明する上で、最も重要な現象、すなわち労働者の教育水準の変遷について取り扱う。特にスペインの場合、過去20年間において劇的な変化が見られる。ここでは大学教育に焦点をあて、労働市場における影響を分析する。

2.高等教育と雇用

16歳以上のスペイン人の13.3%は高等教育修了者の資格を有する。これを男女別で見ると、女性では13.5%、男性では12.9%で、比較的最近まで女性が高等教育から事実上排除されてきたことを考えると矛盾するようだが、女性の方が多くなっている。これは女性の方が短期コースの高等教育を受けている場合が多いため。

図表1:25歳~64歳の人口に占める大卒者の割合(2001年)
図表1グラフ

出典:OECD

スペインでは1975年~2000年にかけて高等教育が劇的な発展をとげた。25歳~29歳のスペイン人の4分の1以上が大学卒であるのに対し、70歳以上ではわずか3%余りである。OECD諸国で見た場合、年齢による大卒者の数にこれほど開きがあるのは韓国、日本、アイルランドのみである。男女間の格差は縮んだだけでなく、今日では女性の大卒者の方が多いほどで、25歳~29歳では男性の20%に対し女性では30%が大卒である。独裁制の終焉の後に大学に入った年齢である40歳未満の層で見ると、おしなべて女性の方が大卒者の割合が高くなっている。

図表2:性別・年齢別に見た高等教育修了者の割合(2001年)
図表2:グラフ

出典:国立統計庁

自治州別で見ると、高等教育を受けた者の割合は均一ではない。マドリッド州では成人人口の20%が大卒であるが、バレアレス、エストレマドゥラ、ガリシアの各州では11%を超えない。バレアレス州はスペインでも最も所得水準が高い州であるが、大卒者の割合は非常に少なくなっており目を引く。近年で大卒者の割合に見られる開きは縮まってきたが、それでも各州ごとの同行はかなり異なっている。

高等教育を受ける者のほとんどは、労働市場においてより良い位置につくことを目指しており、実際その目的を達成しているようである。労働力率について見ると、高等職業訓練修了者が大卒者を上回っている点だけを除けば、ほぼ教育水準と平行して高くなる傾向が見られる。逆に失業率は減少し、高等教育修了者では一様に10%未満となっている。

図表3:教育水準別に見た労働力率及び失業率
図表3:グラフ

出典:国立統計庁

しかし、高等教育修了者に見られるこのような労働力率及び失業率の傾向は、男女ともに一様に見られるわけではない。大卒の女性は男性よりも労働力がやや低く、一方、博士課程を修了した女性は男性よりも働いている可能性が高い。失業率は女性の方が高く、大卒男性では7%未満だが、女性では11%を超える。女性の場合、大卒の学歴の有無による影響が男性よりも大きく、初等教育のみを受けた男性と大卒の男性の労働力率の差が30ポイントであるのに対し、女性では60ポイントにものぼる。同様に、失業率でも女性の方が学歴の有無の影響をより大きく受ける。

他の先進諸国と比較すると、スペインはポーランドに次いで大卒の学歴の有無が女性失業率の減少に大きく影響している国である。逆に高等教育を受けた男性の失業率はそれ以外の男性よりごくわずか少ないだけで、OECD諸国平均をやや下回っている。一方、大卒者の失業率の方が高いのはメキシコだけである。

大学で勉強した内容によっても、失業率には差が見られる。スペインの場合、理科系及び技術系の学歴を有する労働者の失業率は、社会科学系及び芸術系より大幅に低くなっている。中でも建築、機械・電気関連の学歴所有者の失業率が最も低い。一方、意外なことに経営学修了者の失業率は平均を上回っている。失業率が最も高いのは、環境科学及びコミュニケーション学修了者である。

図表4:大学の学業内容による失業率(2001年)
図表4:グラフ

出典:国立統計庁「労働力調査」

しかし、大卒者の雇用の可能性を決定するのは学んだ知識だけでなく、部門によっても大卒者を多く受け入れている部門とそうでない部門がある。実際、この差はかなり重要である。大卒者が最も多いのは教育部門で、全労働者の80%を超える。サービス部門の一部、特に公行政部門では、大卒者の割合が40%以上となっている。逆に第一次産業では大卒者の需要は少なく、繊維、木材、建設等の他、家事労働等のサービス業でも同じである。

公行政部門労働者は全体の2割にも満たないが、その55%以上が大卒者であり、実際大卒者の3分の1が何らかの形で公行政部門で働いている。つまり、大学は公行政部門における労働者を養成する工場と化しているとも言える。

一方、企業経営者の間に占める大卒者の割合は25%と意外に低く、労働者全体に占める割合(29%)よりも低くなっている。大卒者の間で経営者の道を進むものは20人に1人しかいない。また自営業者や協同組合員の間でも大卒者の割合は低い。

公行政部門で働く大卒者を性別で見ると、女性の大卒者の方が公行政部門に就職する可能性が高いが(女性の40%に対し、男性では4分の1程度)、絶対数ではそれほど大きな違いは見られない。いずれにせよ、男女ともに大卒者の就職先として一番大きいのが公行政であることには変わりない。他方、スペインの企業経営者の間では大卒女性は全くの少数派で、わずか7%となっている。同様に、公行政あるいは企業における管理職に占める大卒者の割合もそれほど高くなく、4人に1人に過ぎない。一方、専門職の間では当然ながら大卒者が大多数を占める。続いて大卒者が多いのは軍隊である。逆に、第一次産業の熟練労働者、その他のより熟練度が低い職業においては大卒者は少なく、全体の5%弱となっている。(表1)

表1:職業カテゴリー別に見た大卒者の割合
(2001年、それぞれのカテゴリーにおける労働者全体に対する割合)
1. 企業・公行政における管理職 27.57
2. 科学・知的職業技術者及び専門家 96.58
3. 技術・専門職補助者 49.33
4. 事務職被雇用者 36.31
5. ホテル・飲食店従業員、小売業従業員 15.87
6. 農業・水産業熟練労働者 4.1
7. 手工業者、製造業・建設業・鉱業熟練労働者(オペレーターを除く) 11.76
8. 機械設備オペレーター・設置工 9.24
9. 未熟練労働者 5.72
10. 軍隊 32.83

出典:国立統計庁「労働力調査」

大卒の学歴は就職先を見つけるための良い道具になるが、求職期間の短縮にはそれほど大きく影響しない。スペインでは初めての就職までにかかる期間は平均29ヶ月であるが、大卒者でも23ヶ月である。もっとも、初等教育しか受けていない者では3年以上に及ぶ。35歳未満の大卒者のほぼ3人に1人は、求職を始めてから6ヶ月以内に何らかの就職先を見つけていが、2年以上かかった者も3分の1に達する。初等教育のみの労働者では、この数は70%近く増える。

図表5:教育水準別に見た求職にかかる時間(2001年)
図表5:グラフ

出典:国立統計庁「労働力調査」

求職期間で比較すると、大卒の学歴は女性よりも男性にとって有利に働いている。若年者全体で見た場合、就職先を見つけるのにかかる時間は男女ともほぼ差はなく、むしろ男性の方がやや長いほどであるが、大卒者ではこの傾向が逆転し、男性は平均で22ヶ月弱であるのに対し、女性ではほとんど25ヶ月近くかかっている。労働市場が飽和状態に達し、失業率も高い地方ほど、大卒の学歴が早期に職を見つける上でものをいうようで、例えばエストレマドゥラ州やアンダルシア州では大卒者の求職期間は平均より7ヶ月も短い。これに対してナバラ州、ラ・リオハ州、バスク州では、求職期間の長さにほとんど影響していない。

教育水準は賃金にも影響してくる。スペインでは大卒の労働者の受け取る賃金は平均賃金を44%上回っている。特に大卒男性は男性労働者の平均賃金よりも50%高い賃金を受け取っている。女性の場合、この差は36%にとどまる。この差は、男性と女性がそれぞれ大学を卒業したあとどのような職業につくかにより、例えば大卒女性が公行政部門に多いことも、平均賃金が低めになる理由である。高等教育を受けた学歴が賃金に与える影響では、スペインは中間的位置にある。アングロサクソン系諸国及び東欧諸国では大卒者の賃金はより高く、逆に北欧諸国では大卒者とそれ以外の労働者の賃金格差は小さい。

図表6:大卒者の賃金と労働者全体の平均賃金の格差(2000年、単位%)
図表6:グラフ

出典:OECD

こうした賃金格差、職業格差に見られる各国間の違いは、それぞれの国における労働市場規制の違いによるものであることは間違いないであろう。

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