地方別に見た2002年の労働市場

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年5月

スペインは景気後退の段階に入っており、全体として労働力人口及び失業者が大きく増える一方、雇用の伸びは緩慢になりつつある。その中で各自治州はそれぞれ異なった反応を見せている。

新たな労働力人口の参入が多いのは、スペインでも南部の地方である。特にエストレマドゥラ州は対前年比で9%と著しい増加を記録し、これにアンダルシア州、メリリャ自治市、ムルシア州と続いている。南部以外ではバレアレス州とラ・リオハ州のみがあげられる。

スペイン全体で見ると、男性の労働力率67%に対し女性では42%となっており、その差は25ポイントである。男女ともに労働力率が最も高いのはバレアレス州である。一方、地中海沿岸部の3自治州、及びカナリアス州とマドリッド州も、男性労働力率が全国平均を上回っている。

女性労働力率について見ると、バレアレス州に次いでカタルーニャ州、マドリッド州、カナリアス州、ナバラ州、バスク州で高くなっている。これと対極にあるのが北アフリカに位置するセウタとメリリャの2自治市で、その他アストゥリアス州やカスティーリャ・ラ・マンチャ州でも女性労働力率が非常に低い。

労働力率の男女格差が最も小さいのはバレアレス州で、男性労働力率は女性労働力率を42%上回るのみである。労働力率が全国平均を上回っている州では、ムルシア州を除いて男女格差が全国平均よりも小さくなっている。言い換えれば、高い女性労働力率と高い労働力率との間には強い相関関係が存在するということである。労働力率の男女格差が大きいのは、カスティーリャ・ラ・マンチャ、エストレマドゥラ、アンダルシア、ムルシアの南部4州、及びセウタとメリリャである。

失業はスペインのほぼ全体で増えているが、特に失業の増大が大きかった地方を見ると、近年の労働市場の動向とは異なった動きがみられる。まず、労働力率の増大が大きかったものの、その一部が失業増に向っている地方があり、これにはバレアレス州のような豊かな州もあれば、メリリャ市やエストレマドゥラ州のような貧しい地方も含まれる。しかし、中には労働力率がほとんど上昇していない、あるいは上昇率が平均以下の地方も含まれる。これらの地方では労働市場内で就業者が失業に転じたことになる。ラ・リオハ州、ナバラ州、カンタブリア州がこのグループに含まれ、失業者数の増加は20%を越えている。

一般に失業率がより低い地方でより大幅な失業増が見られるが、それでもスペインの労働市場に見られる大きな地方間格差を是正するには至っていない。アラゴン州とバレアレス州では失業率は5%前後で、これは就業者が転職する期間に失業者としてあらわれることによるものと見ることができ、従がってほぼ完全雇用が達成されていると考えられる。失業率が全国平均よりも4ポイント低い7%以下にとどまっているのはエブロ川流域地方、及びカタルーニャ州とマドリッド州である。セウタ、メリリャの2自治市も失業率が低い地方のグループに入る。

すべての自治州において、女性失業率は男性失業率よりも高くなっている。メリリャ市では両者はほぼ等しい値になっており、その他にも差が平均以下の州としてはバレアレス州、アストゥリアス州、バレンシア州があげられる。逆にナバラ州とカスティーリャ・ラ・マンチャ州では、女性失業率は男性失業率の3倍になっている。女性は被雇用者の3分の1にすぎないが、自治全州において失業者の大半が女性である。例外はセウタとメリリャの2自治市であるが、この場合両市ともに女性労働力率がきわめて低いことに留意すべきであろう。

労働市場の指標に見られる地方間格差は、賃金についても見られる。1時間当たり労働費用が最も高いバスク州と最も低いカスティーリャ・ラ・マンチャ州では、その差は実に70%となっている。絶対値で見ると、バスク州における1時間当たり労働費用は19ユーロで、カスティーリャ・ラ・マンチャでは12ユーロである。バスク州に次いで労働費用が高いのは、順にマドリッド州、ナバラ州、カタルーニャ州、アストゥリアス州、アラゴン州である。首都マドリッド市を含むマドリッド州を除き、すべてスペイン北部の地方である。

月額賃金(税込み)はほぼいずれの州でも総労働費用の4分の3を占めるが、これが最も高いのはバスク州で、月1700ユーロ近い。またマドリッド州もこれに近い値である。これより200ユーロほど低いものの、ナバラ州、カタルーニャ州も全国平均を上回る。逆に月額賃金が1200ユーロを下回るのはムルシア州、エストレマドゥラ州、カスティーリャ・ラ・マンチャ州、カナリアス州である。スペインで最も失業率が高いアンダルシア州では、賃金では中間に位置する。過去1年間で、賃金がより高い州と低い州との差は更に深まった。

失業率との関係で見ると、失業率と月額賃金との間には逆相関関係、言い換えれば失業率が高い自治州であるほど賃金は低いことがわかる(ただしこの関係は統計的には重要でない)。低賃金で失業率が高い州では、労働市場及び生産組識における構造的な硬直性と弱さがその原因になっていると見られる。

一方、労働時間と時間当たり賃金、及び失業率との間にも似たような関係が認められる。労働時間がより短い州ほど受け取る賃金は高くなっており、しかも全般に失業率は低くなっている。2002年第3四半期における労使合意に基づく平均労働時間は週39.6時間(終日労働の場合)である。

自治州のいくつかでは、平均労働時間は法で認められた時間よりも長くなっている。 バレアレス州及びカナリアス州は、終日労働者の労働時間が週40時間を越えているが、これは特に夏場を中心とする観光部門での労働時間の長さによる。週労働時間が39時間以下になっているのはナバラ州とバスク州のみであるが、これら2州は伝統的に労働時間が短く、またこれに加えて労働時間短縮のインセンティブ政策がとられてきた。

言い換えると、公的な政策も、またこうした雇用創出政策に対する企業側の敏感な反応さえも、法定労働時間から更に労働時間を短縮するにはなかなか至っていないということになる。労働時間を効果的に短縮する唯一の可能性は法規制だけであるが、時短要求は次第に力を失う一方であり、現時点では政策目標になっていない。他方、公務員については時短要求がほぼ目的を達成している。全般に、一方では労働時間が短く、労働条件が良く雇用も安定した公務員と、他方では労働時間が長く雇用が不安定な民間労働者との間での二重構造が生じている。

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