史上最悪の失業率予想

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年5月

労働党政権への期待

経済成長、失業対策、労働者の所得向上など労働者に期待を抱かせる公約を掲げて当選し、03年1月1日に発足した労働党のルイス・イナシオ・ダ・シルバ大統領(通称ルーラ)は、就任早々から国家財政再建のために、03年の国家予算に投資を中心とする141億レアル(約40億ドル)の削減を加えて、国家財政再建に真剣に取り組む姿勢を見せたと、IMFや国際金融界から評価された。また前政権の末期から上昇していたインフレが、政府のインフレターゲット限界を超える予想となったことや、イラク問題に誘発される国際情勢が、ブラジルに不利な条件をもたらし兼ねない予想のために、03年1月、2月に連続して、中央銀行が標準金利を引上げて、インフレ対策に取り組んでおり、これも財界やエコノミストは、適切な措置と評価している。

しかし労働党の過激派や労働党系労組には次第に不満が高まってきた。政府の支出削減や、標準金利引上げは02年12月まで、当時は野党の労働党が「経済成長を阻止し、雇用を奪うもの」として、反対して来た政策であるだけに、労働党内部でも、前政権の政策をそのまま踏襲しており、これでは労働党政権の公約違反であり、経済回復も、失業減少も期待出来ないとして不満が広がってきた。

2大中央労組も悲観

2大中央労組も、03年は労働市場にとって期待できない年になると予想している。「経済指数を分析すれば全て悲観予想しか出て来ない。良好に進展したとしても、02年並みの高い失業率になるだろう」と予想している。CUTは労働党政権に対し、労働法改正に当たり、労働者の既得権は維持し、最低給料は240レアルに引上げるよう要求し、我々が要求を取止めることで、経済の悪化が止まるわけではないとして労働者の要求は続行する意向を発表した。しかしイラク問題が悪化すれば、ブラジルの経済回復は遅れ、雇用市場には強いインパクトが起こると恐れている。もう1つの中央労組フォルサ・シンジカルでも、「もし政府が税制、社会保障制度改革を実現できるだろう。金融市場が感知すれば、自然に金利が下がるが、その反対の事態になれば、政府は信用を失い、苦渋の敗退を味わうだろう。前政権と同じ政策を労働党政権が続行するなら経済はリセッションに陥り、さらにイラク攻撃が開始されるなら03年の経済成長期待は失われ、工業は2~3カ月以内に集団休暇を出すだろう。その次の段階は解雇である」と、同じく悲観的予想を発表している。

DEESEは失業新記録を予想

中央労組の経済研究機関である DEESEは、03年に失業率が史上最高に達すると予想した。DEESEがサンパウロ首都圏で計算している失業率は、これまで99年の年平均19.3%が最高であるが、02年にはすでに19%に達しており、03年は雇用情勢にとって更に悪条件が重なっているために、過去の最高記録を更新するものと予想した。分析によると例年上半期に解雇が起こり、下半期に再雇用が起こって、雇用は増加して行くが、03年は上半期の解雇が加速され、下半期の雇用再再開が起こるにしても、わずかであると悲観的にみている。

政府は労働者の所得低下を予想

政府がIMFに提出した03年度ブラジル経済予想では、労働党政権1年目の03年は、労働者の平均収入が低下する予想を盛り込んでいる。高いインフレ率、ドル高市場、イラク問題の進展不安などを収入低下の原因として指摘している。民間のコンサルタント会社では、02年下半期の大統領選の期間中、労働党の政見発表が起こした金融市場動揺による後遺症が永く続くことにより、労働党政権は自身が起こした結果の代価を払うことになると評価している。現在政府の要職についている労働党幹部が選挙中、内外金融界に不安を巻き起こす発言を行って、大衆人気取りに走ったことが、ドル相場高騰、ブラジルのリスク指数上昇を招いたもので、後は労働党政権が採用する政策によって、内外金融機関に安心感を回復させるしかないとみている。現在はインフレ、リセッション傾向、所得低下と、経済にとっては非常に不利な状態となっており、悲観的なっている企業家に、回復期待感を持たせるためには、相当の時間を要するだろうと、03年にはほとんど期待を持っていない。

サンパウロ首都圏で18.6%の失業率

労組の研究機関DIEESEは03年1月のサンパウロ首都圏失業率が、1985年にこの調査を開始して以来、1月としては最高の18.6%(175万人)に達したと発表した。01年1月の16.3%、02年1月の17.9%、02年12月の18.5%から、また上昇して、厳しい予想を持たせるスタートになった。内外の情勢は不利な条件が重なっているために、DIEESEでは04年に入るまで労働市場は好転しないと予想している。またDIEESEの研究ではサンパウロ首都圏の就労者の収入は、02年に平均8.8%低下し、01年12月の957レアルから02年12月は872レアルとなった。同期にサービス部門では11.5%低下して平均収入は960レアルから849レアルへ低下、商業就労者も706レアルから626レアルへ、工業は1.038レアルから953レアルへと低下している。失業増加と収入低下は失業者の再就職までの平均待ち期間も、12月の52週が1月は53週となった。1月に入って工業が集団休暇を採用した結果、就労者の週当たり平均就労時間は、12月より3時間少ない42時間に減少している。(1ドルは約3.5レアル)

ブラジル地理統計資料院(IBGE)は03年1月の公式失業率を11.2%、02年12月の平均収入は11月比で5.1%低下と発表した。

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