人権・機会均等委員会、有給出産休暇に関する最終報告書を提示

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年4月

人権・機会均等委員会(HREOC)は、8カ月に及ぶ議論をふまえ有給出産休暇制度に関する最終報告書(A Time to Value-Proposal for a National Paid Maternity Leave Scheme)を政府に提出した。オーストラリアはOECD加盟国の中で米国と並んで有給出産休暇を制度化していない国であり、現時点で使用者の提供する有給出産休暇制度を利用している女性は38%に過ぎない(注1)

最終報告書作成にあたり、様々な関係団体がHREOCに対し意見書を提出した。その多くは有給出産休暇に好意的であった。使用者団体は、使用者の負担がなければという限定付きで制度を支持し、一方連邦政府は最終報告書に対しては明確な評価を行わなかった。ハワード首相は、1950年代型の家族(女性は男性に扶養されるべき)を志向していることで知られており、政府の態度にもそれが反映されているとの見方もある。しかし、報告書が明らかにしているように、労働市場の変化により現代の家族は2人の稼得者を必要としており、それに伴い仕事と家庭の両立が大きな課題となっている。有給出産休暇制度はこうした課題を解決する1つの方策といえる。

最終報告書の内容

最終報告書は、連邦政府に対し有給出産休暇制度を設け、そこへの基金の提供を求めている。女性がこの制度を利用するためには、過去52週間に40週間は何らかの有給の仕事(自営業、臨時労働者を含む)についていなければならない。有給出産休暇は出産直前または出産後から14週間付与され、女性が休暇を切り上げて職場に復帰する場合にはその切り上げた期間分の手当は支払われない。出産休暇手当は、連邦最低賃金か実際の賃金額のいずれか低い方に基づき算定され、連邦政府あるいは使用者から支給される。支給される手当が実際の賃金額等より低い場合は、使用者がその差額分を支給するよう奨励される。女性の賃金が相対的に低いために、この制度に要する費用は年間2億1300万豪ドルに留まると予想されている。

HREOCがこのように穏当で合理的な提案を行ったのは、制度の実現可能性を高める意図があったものと思われる。

関係者の反応

オーストラリア労働組合評議会(ACTU)はこの提案を支持している。しかし、オーストラリア商業産業連盟(ACCI)は前述した使用者の差額分の支払い部分について反対の意向を示した。報告書は、差額分の支払いに関しては団体交渉を通じて決定するよう求めており、そうなれば労組は使用者に対しこうした規定を設けるよう要求することとなろう。

連邦政府の反応は先に示した通りだが、最終報告書に対する世論の支持は高く、今後の対応が注目される。

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