フィリピンの旅行産業の現状

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年2月

観光産業は、フィリピンの経済と雇用に大きな影響を与えるまでに成長しており、今後もその比率は、増大してゆくものと思われる。アロヨ大統領も、観光産業の重要さを十分認識しており、外遊や国内の政治活動を通じて、フィリピンの観光産業の振興に努めている。

概況

フィリピンの観光産業は、毎年、約200万人の国外からの旅行者と約200万人の国内の旅行者に各種観光サービスを提供している。外国人観光客を対象とした観光サービスは、マニラ首都圏とセブ島に集中している。マニラ首都圏は、小さく、良く整備された観光スポットで内外の観光客に人気がある。テロなどの悪いニュースに素早く反応するが、客足の回復も早い。

外国人観光客数は、1997年の220万人をピークに、1998年210万人、1999年190万人、2000年180万人と減少傾向にある。

2002年は、10月、インドネシアのバリ島でのテロ事件、その後、フィリピンのザンボアンガ市とマニラ首都圏で、爆弾テロが発生し11人の死亡者をも出し観光産業への悪影響が心配された。

しかし、2002年10月の外国人観光客数は、対前年同期比36.7%増加した。ゴードン観光長官は、2002年6-7月期は前年比10%の増加を達成したこと、2002年10月1カ月間に、マニラ国際空港だけで132,702人の外国人が訪比したことを基礎資料に、海外のメディアに対し、「フィリピンは、世界で最も安全な地域の1つである」と強調し、フィリピンの観光産業は、急速に回復していると宣伝した。

観光省によると、2002年1月から10月までにフィリピンを訪れた外国人は、延べ1,578,198人で、前年同期比4.36%の増加で、2002年の観光省の外国人観光客獲得目標値は延べ190万人の83.06%に達した。

しかし、旅行業者によると、政府の発表には、約160万人の外国人観光客の中には観光目的以外に訪比した外国人、例えば、テロを取材にきた多くの外国人ジャーナリストも含まれており、実際の旅行者数は不明であると指摘している。

また、一部のエコノミストは、フィリピンへの外国人観光客が回復しているのは、治安の回復にあるのではなく、歴史的なペソ安に起因していると分析している。

ただし、一般的な見方としては、相次ぐ国内外のテロ事件にもかかわらず、190万人近くの外国人の訪比に成功しつつあることを評価する意見が多い。

フィリピン経済における重要度

観光産業は、GDPの8.4%を占めるまでに成長し、フィリピン経済への影響を見過ごすことは出来ない。近隣諸国と比較すると、タイの12.2%には及ばないものの、インドネシアの8.9%とほぼ同じ水準である。

毎年フィリピンを訪れる約200万人の外国人観光客が、フィリピンにもたらす経済効果は大きく、国家に外貨をもたらし、労働者には高収入を得やすい仕事を提供している。観光産業全体では、299万人の雇用を創出していると見られている。

1人当りの外国人観光客が、フィリピンで消費する金額は、1,178.44ドル(1998年)である。このため、観光省は、「観光産業が発展すれば、貧困問題が減少する」と主張している。

表1 入国外国人数とその消費金額
国名 外国人観光客数(万人) 消費金額(億ドル)
フィリピン 180 22
タイ 950 75
香港 1300 80
マレーシア 1000 45
シンガポール 700 60

出所:観光省

観光産業成長への障害

観光産業が発展するには、いくつかの障害を取り除かねばならない。フィリピンに対する貧困というイメージの解消、治安の維持、社会的秩序の回復などである。

観光省は、フィリピンに対する貧困というイメージを解消するために、2つのキャンペーンを実施している。

1つは、フィリピンとフィリピン国民全体が、外国人観光客を受け入れる準備が出来ていることを宣伝することである。具体的には、市民と労働者の努力により「観光文化」を創造してゆくという方針を打ち出し、一般市民は環境美化に努め、外国人観光客に対し良い印象を持ってもらえるよう努力すること、また、観光産業に従事する労働者は、出来る限り質の高いサービスを提供するよう努めるよう呼びかけている。

もう一つは、訪比数の多い重点国での宣伝活動である。観光省の外国人観光客の誘致に関する予算は、僅かに63.7万ドルに過ぎない。シンガポールは4293万ドル、タイは3153.7万ドルである。観光省は、日本、米国、韓国、EUなどの重点国・地域には、事務所を開設し、外国人観光客の増加を促進している。こうした、事務所は、少ない予算で一定の役割を果たしていると見られている。

安全と社会的秩序の回復は、最重要課題である。治安の悪化により、オーストラリア、カナダなど一部の国が、大使館を既に閉鎖した。こうした傾向は、フィリピンに訪れようと計画している外国人観光客に与える不安感を増長させている。

政府は、この情勢に対し、テロに対し強い態度で対処していることを繰り返し強調しているが成果が上がっていない。政府は、治安の回復を目指し、米軍の援助を受けながら、治安の回復に努め、テロ組織の撲滅について関係諸国と情報交換を実施している。ただし、外国人観光客を一層増加させるには、追加的な治安維持政策が必要だと見られている。

期待されるインフラの整備

フィリピンの観光産業を全国的に展開するには、インフラの整備が非常に重要であると見られている。フィリピンは、7000の島国からなり、全国各地に美しい観光地が点在する。今後は、ホテルなどの宿泊施設の建設、道路の整備、公共交通機関の充実が必要である。

(1) 宿泊施設の整備

近隣諸国と宿泊施設の整備情況を比較してみる。

表2 東南アジアの主要観光都市の五星ホテル数と部屋数
都市数 五星ホテル数 部屋数
マニラ 67 12,652
セブ 40 4,336
バンコック 621 58,994
プーケット(タイのマレー半島西岸の島) 344 19,574
ジャカルタ 110 24,655
バリ 121 17,996

出所:観光省

宿泊施設の増加は、ホテルで就労する労働者の雇用を増加させるだけでなく、建設、不動産など様々な産業の雇用環境に好影響をもたらすと予想される。政府も、近年外資系のホテル企業の進出に努力している。

(2) 交通機関の整備

観光産業を発展させる政策には、航空政策を中心にいくつかの政策変更が必要である。

航空行政に関しては、次の4点が重要視されている。

  • チャーター機の発着利用基準の緩和と定期便の発着に関する様々なサービスの充実とそれに伴う従業員研修の改善。
  • 国際空港から地方航空に乗り継ぐ場合の利便性の向上。
  • 各空港における空港施設の充実により、乗客の搭乗手続きをスムーズにさせる。
  • 航空行政の規制緩和と国内線の市場開放。
    しかし、2002年末のマニラ空港における労使紛争に見られるように、こうした労働条件の変更や市場開放には、労働組合の強い抵抗があると予想される。
    道路、船舶輸送においては、次の2点の改善が重要視されている。
  • 空港から観光地、空港から港湾への道路を整備する。
  • 外国人観光客を対象とした周遊客船の増設やフェリーの国内線の増設。

Visit Philippines 2003(VP2003)」事業計画

ゴードン観光長官は、いくつかの観光産業発展計画を発表したが、最も注目されたのが、外国人観光客の増加を目的に創設された「Visit Philippines 2003(VP2003)」事業計画である。

この政策の中心に、「Volunteer 12 Program (V‐12)」と呼ばれる事業計画がある。これは、海外に永住しているフィリピン人が、居住国において、外国人にフィリピンに旅行に来るよう、あらゆる機会を通じて、自発的に呼びかけるというものである。外国人のフィリピンへ旅行の誘致に成功した場合は、その外国人旅行者に対し、ホテル代金、国内の運輸機関の運賃、食事代、買い物代金、娯楽費用に対する割引券や優待券が与えられる。

V-12計画は、2001年8月、アロヨ大統領が、マレーシアを訪問した時から開始した。その時、マレーシアに在住する1万人近いフィリピン人が、「tourism olunteer<・」として登録し、その後、今日までに3385人の旅行者をフィリピンへ紹介し、概算で1億8818万ペソの経済効果をもたらしたと見積もられている。

また、アロヨ大統領もVP2003事業に積極的な支持を表明しており、大統領自身が観光地で、サーファー、登山、遊泳をする姿を海外のメディアに積極的に流し観光地の宣伝に努めている。

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