パネルディスカッション:第10回国際シンポジウム
外国人労働者と社会統合
―欧州における外国人労働者受入れと社会統合の展開―
(2007年1月17日)

2007年1月17日、労働政策研究・研修機構(JILPT)国際研究部は国際シンポジウム「外国人労働者と社会統合 −欧州における外国人労働者受入れと社会統合の展開−」を開催した。

パネルディスカッション「欧州の経験の意味を考える」

1.社会統合政策の特徴

今野:

欧州は長い時間をかけて移民の問題に取り組んできました。このパネルでは「社会統合政策の特徴」「移民政策今後の展望」「日本への示唆」という三つの論点をとりあげて議論し、欧州の経験の持つ意味を考えてみたいと思います。まず、欧州各国で展開されている社会統合政策について、コンダミナスさんには法律面だけでなくもう少し広い観点からフランスの特徴をお聞かせいただけますか。また、アンツィンガーさんにはオランダの特徴をお願いします。

フランス共和主義原則の尊重が統合政策の基本

コンダミナス:

フランスが今直面している大きな困難についてお話したいと思います。すなわち社会統合を続けるための困難についてです。これはフランス語流の言い方ですが、文化変容の問題です。フランスはもちろん人権を尊重する国です。我々はこれまで多くのヨーロッパの人々を受け入れてきました。50年代、60年代、70年代とスペイン、ポルトガル、その他のヨーロッパ各国の移民の波が押し寄せました。そして、80年代以降は、アフリカからの移民が押し寄せました。幾つかの西アフリカ諸国、そしてアジアの国々も移民を送り出し、我々は求めたわけではありませんが、彼らは滞留するようになりました。我々は彼らの自由を尊重し、好きなように住ませるという状態を続けたのです。そして起こったことは何だったのでしょうか。我々が望んだわけではありません。

人々は集まり、同じ出身地の人だけで住むようになりました。我々は共同体をつくってしまったのです。順を追ってお話すると、まず移民の第一世代が仕事を求めてフランスにやってきた。彼らはフランス社会の原則を尊重しないでも、少なくとも反対することはしなかった。そして時が経ち、彼らの第二世代が生まれてきた。彼らは受け入れ国の文化を拒否し始める。しかしかといって彼らは親の文化、出身国の文化も受け入れようとはしない。彼らは一様に貧しく、教育の機会に恵まれず、次第に失業者となっていった。我々がつくってしまった場所から生まれてきたのは、自分たちの親の文化もフランス文化も拒否する不安定な状況を生きる人々だったというわけです。

我々はこの状況に対して闘っています。これが社会統合です。なぜなら、我々は括弧つきではありますが、「良いフランス国民」をつくるためには、彼らをフランスの価値を尊重させる人々にしなければならないと考えているからです。

幾つかの暴動が起きました。これらの暴動は無理解から生まれたものだと思います。フランスの価値の無理解から生まれた産物です。もちろん社会経済的理由もそこにはあるでしょう。しかし第一に挙げられる点は、彼らが何世紀にもわたってフランスを形作ってきた重要な原則を理解していなかったという点です。

これがフランス共和主義原則の尊重が社会統合政策の基本方針に据えられた理由です。

言語教育の重要性

アンツィンガー:

オランダにも同じようなことが言えると思います。あるいは西ヨーロッパ諸国に共通することかもしれません。文化的な差異が大きければ大きいほど、その差異を認識することが難しくなります。移民を新しい環境に受け入れるということが難しくなるのです。

ヨーロッパにはいろいろな国があります。統合政策に関しては、国民の基本的な考え方、移民の問題が提起している問題が異なるため、各国によって取り組みはさまざまです。フランスにおいては、フランスの原則が重要であるということで、それを基本に統合政策がとられているわけです。一方、例えばイギリスでは、多文化主義が尊重されてきました。それはイギリス国民が、フランス人とは移民についての考え方、あるいはアプローチが異なっていたためです。

オランダの場合は、これも興味深いのですが、イギリスよりもフランスに近い政策がとられてきたように思います。オランダは多民族国家であり、また思想も多種多様です。オランダの1980年代、あるいは90年代においては、多文化主義という考え方が一般的でした。例えば、移民の母国語で学校の授業をするというようなことも行われたのです。また、移民の活動に政府資金も提供されました。

これと同時に、法律的には、移民も移民でない人も同じように取り扱わなければならないという考え方がありました。もちろん帰化することは義務づけませんでしたが、ローカルレベルでは投票権を与えるということも行われました。しかし、10年ほど前からこのような政策は大きく変わり始めます。

以前は、このような政策をとることは、他の異なる文化を持っている移民に対する尊重であると考えられていたわけです。しかし、現実にはさまざまな問題が認識されるようになり、この考え方は徐々に変化していきます。社会の結束をいろいろなレベルでとっていかなければならない。そのためには一つのまとまった価値観というものが重要となる。多文化を尊重し過ぎると、結果として一部の移民は社会において孤立してしまうことがあり得ると認識されるようになりました。トルコ語を話す人、あるいはアラビア語を話す人がヨーロッパで生活をしようとすると、それは役に立たないわけです。したがって、オランダ語を勉強させるべきではないかという考え方が主流になってきました。

オランダ政府は、2002年にできた新しい法律で、統合政策の中心に言語教育を置きこれを強化する施策を導入しました。新しい移民、特に既にオランダに住んでいる移民の配偶者がオランダに来る場合には、まず自分の居住する国の大使館に行って、オランダ語のテストを受けなければならないということになりました。また、すべての新しく移入してくる外国人は社会統合プログラムのオランダ語コースに参加する義務があります。

同時に厳しい移民管理政策がとられるようになりました。この政策は移民に対して、移民を差別するような社会的な動きにつながってしまう要素も孕んでいます。国民と移民とを完全に分離するような政策は、統合を難しくする状況を生む可能性もあるのです。ですから、個人的には中道を進むべきではないかと思っています。ただ現実には移民政策は政治化され易い問題であり、中道政策をとることが非常に難しいことも事実です。

2.EU拡大に伴う移民政策今後の展望

今野:

それでは次の論点、EU拡大に伴い移民政策が今後どう展開するかという点について、お二人に展望をお聞かせいただければと思います。

域内で移民による混乱は起きていない

コンダミナス:

EUが拡大(第5次拡大)し東欧諸国が加盟したとき、シェンゲン条約に従って我々は域内で国境を開きました。ところがこのとき幾つかの職業団体は非常に動揺しました。つまり、大量の低賃金労働者が東欧諸国から押しかけきて、自分たちの職を奪ってしまうのではないかという懸念からです。この論争は「ポーランド人の水道工」という名前で知られています。自国がポーランド人の水道工で溢れかえってしまうのではと考えたわけです。ところが実際蓋を開けてみるとそんなことは起こらなかった。人々が真に国際化されるためには時間がかかります。世代が変わり、そして言語も変わらないと、域内に移動の自由があったとしても、それほど人は行き来しないということがわかりました。生活水準が異なると生活は困難です。カッサンドラが予言したような恐ろしい事態は起こりませんでした。

確かに、最も貧しいヨーロッパの国から豊かな国に対しての移民流入が起こりかけてはいます。しかしフランスの場合、ポーランド人の移民に関して言えば、増えてはいないという事実があります。以前炭鉱で多くの労働者を必要としたとき単純労働力が必要となり多くのポーランド人が流入しましたが、それ以上の数のポーランド人は来ていないのです。

幾つかの国で増えた部分もあるでしょうが、実際には旧加盟15カ国がそれ以外の欧州諸国から大量の移民を受け入れるという事態にはなってはおりません。域内において人々は移動の自由を手に入れたので、自国に戻っているという現象があるのかもしれません。すなわち、今日EUの中での均衡は乱されてはいないのです。質問の意図が、拡大のために統制できないような移民の動きが起きたかということだとすると、答えはノーです。

将来の供給源はアフリカ、アジアにも

アンツィンガー:

我々は同様の議論を、過去ほとんどすべての拡大の時期に行ってまいりました。例えば一方に先進国があり、もう一方に低開発国があった場合、大量の労働者がこれらの国々からすべて旧加盟国に流れ込むのではないかという議論です。かつてのギリシャ、スペイン、ポルトガルの時がそうでしたし、イギリス、アイルランドが加盟した時にもそういった議論はあったのです。

最近の大規模な拡大、2004年の第5次拡大については、旧加盟国はこれら新規国の加盟に対して当初問題にはならないという態度を見せていました。ところが、ある時を境に突然雰囲気が変わります。特に組合からの圧力があって各国が制限を加えようとする空気が生まれ、同時に、議会も似たようなことを言い出しました。結果、スウェーデン、イギリス、アイルランドの3カ国を除くほとんどの国が制限を設けることになりました。このときの対応の評価についてはいろいろな調査研究がなされておりますが、最近のものを見ておもしろいと思うのは、こういった新規加盟国からの流入は、特にアイルランド、イギリスに多かったわけですが、これらの経済は打撃を受けておらず、結果はむしろその逆となっていることです。アイルランドやイギリスの経済成長にこれらの移民が貢献したとする分析もあります。

確かにコンダミナスさんが指摘されたように、どの国もポーランドの労働者が多くやってきました。しかし彼らが定住しているかというと、実はそれほどではありません。定住する人たちのほとんどは、そこにいる人たちと結婚したケースです。一方で、ヨーロッパの道路を見るとポーランドのライセンスプレートをつけている車が多く見受けられます。これを見て、何かポーランドに圧倒されるのではないか、新規加盟国に占領されるのではないかという心理が生じるのはお察しいただけると思います。

89年にベルリンの壁が崩壊したときも同じでした。現実は予想とは異なったのです。また、中東欧諸国は将来志向型の経済です。あと数年もすれば、こういった国々も出稼ぎに行く必要性はなくなるだろうと思われます。というより、こうした人たちを我々の経済で誘致することは難しくなるのではないかとさえ思います。例えば、ルーマニア、ブルガリアといった国に頼らざるを得なくなるのではと。さらに将来加盟するかもしれないトルコなどにも、我々は依存しなくてはならなくなるのかもしれません。

さらには、将来に向けての解決策、特にEUの雇用問題に対する解決策は、東欧だけに解決策があるのではない気がします。その他の大陸、特にアフリカに解決策があるのではないかと。また、アジアも一部解決策になり得るかもしれません。こうした国々は大きな人口を抱えているからです。現在も南欧を中心にアフリカからの移民がありますが、これは不法移民が多くを占めます。ご存じかもしれませんが非常に危険な形−人身売買のような形で送り込まれている非人道的なケースも多々あるのです。現在、将来を見据えて、こうした状況を整備していこうという動きがあります。きちんとした規制の枠組みを設けようという動きです。

3.日本への示唆

今野:

それでは最後の論点、欧州の経験が日本にとってどんなインプリケーションがあるかということを議論していただこうと思います。その前に上林さんに研修生・技能能実習生を中心に日本の外国人労働者問題ということを少しお話しいただいてこの議論に移りたいと思います。

日本の問題

上林:

日本の外国人受け入れというのは、専門技術職についてはずっと受け入れているという言い方をしておりますが、先ほどのOECDの報告に見られましたように、現実には数から言うと、労働力として外国人に依存するという割合が低かった歴史があります。それが1980年代に急に外国人がふえて、それから約20年たちました。

アンツィンガー先生の指摘にありましたように、既に入ってしまった外国人を今後どうしていくかということが大きな問題なわけです。先ほどのヨーロッパの例では、政治家は次の選挙のことしか考えない、長期的な見通しがないという指摘がありました。日本でも移民の問題というのは、政治のアジェンダとしてはのりにくい問題であり、表立って議論することができない、したらまずいという雰囲気がありました。ところが、これがFTAの締結等を機に再び関心が集まり、本日こうしてオープンな議論ができるのは画期的なことだと思います。

欧州諸国だけでなく、どこの国でも問題が生じるのは低熟練労働者受入れの問題です。低熟練労働者の日本への入り方は、合法的なものだけを取り上げますと、一つは研修生技能実習生という受け入れ方と、もう一つは日系ブラジル人・ペルー人という属性に基づいた受け入れの方法です。現在、研修生技能実習生で大体14万人、それから日系ブラジル人・ペルー人が大体26万人です。ですから既に40万人ほどの方が日本で働いているわけです。もちろん日本は公式には単純労働力の受入れを認めていませんから、彼らを労働者として一概には扱えませんが、日本でもやはりこのカテゴリーの問題は存在するわけです。

例えば研修生については、一年間研修を受ける目的で来ますが、これは来る研修生も、受け入れる側も、労働目的で賃金を得るということを、多くはお互いの合意の上で承知しています。しかし彼らは研修生ですから最賃法の対象にはなりません。その後二年間、彼らは条件により技能実習生という形で働けますが、普通の労働者に与えられている移動の自由は認められておらず、これも問題になっています。

一方、日系人はその多くが派遣あるいは請負という形で働いています。このためエージェントが紹介料を取り、強制的に転職をさせてしまうことが起こり、結果定着率が低く技能育成もうまくいかないなどの問題があります。

移民は統制できればポジティブな存在

コンダミナス:

日本は主権を持った国で、私が何か日本に対してアドバイスを申し上げるような立場にはないと思います。ただ、日本で社会的な変化が起きていることはわかります。

移民の利点、不利な点について、一般的なガイドラインを引いてみたいと思います。もちろん、私が唯一知るフランスの例を通してです。

第一のガイドラインは、移民は恐れるべき対象ではないということです。移民のせいで国が社会的、経済的混乱状態に陥ると考えるのは間違いです。このことはフランスですでに確認されています。もちろん時代によっては難しい時期もありました。けれども、フランスで確認されたことは、全般的に考えると移民は文化的に国を豊かにする源泉であったということです。

文化交流は、別の文化を受け入れる国に対して豊かさをもたらしてくれるものです。経済的な豊かさも、もちろん当然のことです。フランスも例外ではなく、経済好調期におけるさまざまな仕事が移民の助力なしにはなし遂げられませんでした。大規模な建設プロジェクト、製造業は何十年にもわたって外国人労働力に頼ってきたのです。

第二のガイドラインは、移民の抑制についてです。基本的には移民は豊かさをもたらすポジティブな源泉と考えるべきでしょう。しかしそこには条件があります。自国のアイデンティティーを守ることが重要です。例えば日本が移民を受け入れようとするなら、日本のアイデンティティーを保持し、日本の中に深く根づいている価値を保持しなければなりません。日本は文化も歴史も、古い伝統を持つ国です。その価値を重視するということ、同時に、外国から来る移民をそこに貢献するように利用するということが重要です。移民はポジティブなものです。しかし管理できてこそポジティブな対象と成り得るのです。将来人口減少下で移民が必要になったとしても、統制のとれた移民政策を行うことができるなら、合理的な形で移民との共存は可能だと思います。

介護分野への導入は慎重に

アンツィンガー:

日本のような国にとって、移民の問題というのは非常にデリケートな問題であると同時に、重要な問題であるという理解をしています。日本は人口動態の変化が激しい状況にあります。ヨーロッパ諸国と比較しても急速です。経済成長を今後さらに進めていくためには労働力の確保が必要になると思います。

日本はいろいろな面で、これまでのヨーロッパ諸国と比較しても大変賢い政策をとってこられたと思います。労働集約型の産業を早くから労働コストの低い近隣の東南アジア諸国に移してきました。ところが欧州の場合には、ゲストワーカー−ゲストではなくずっと居続けたわけですが−の受入れによってこのような産業に対応してきました。

ところが外に移せない仕事もあるわけです。その仕事の中には、国民があまりやりたがらない仕事もあります。例えば、建設、介護、清掃といった職種で、先進国においては共通のものです。ここに外国人労働力導入のニーズが生じます。

日本の場合も例外ではないと思います。これについてはいろいろと意見もあるでしょうし、利害の違いもあると思います。一般的に経営者はコストの安い外国人を入れてほしいと考えますが、労働組合は国内の労働者を守るために、それは困ると言うわけです。これは世界中同じですが、バランスをとることが必要です。

介護セクターに関してですが、日本は高齢化しているということで、特に介護労働力のニーズは高いと理解しています。しかしヨーロッパの経験では、これは決して移民を採用するのに容易なセクターではありません。というのは、ほかのセクターと比べて介護という職種は、人との接し方、特に高齢者を相手に接することが要求されるため、言語、文化の知識が必要とされる分野です。これはやはり、その国、その文化で生活をしてきた人の方がすぐれているのは言うまでもありません。

様々な調査を通して、わかったことがあります。例えば、イギリスは介護セクターに外国人労働力を導入していますが、イギリス以外の外国人も英語を話せるという点で有利です。他方、ドイツや私の国オランダ、イタリア、また日本といった国は、そういう優位性を持っていません。

また、こういった人たちを採用する技術的な側面を考えるなら、少なくとも二国間ないしは多国間の条約が必要だということです。また、こういった条約が効果を上げるためには、単に人の採用だけを取り上げるのではなく、その条約の中にいろいろな取り決めを入れなければなりません。例えば年金などの社会保障適用の問題、貯蓄、送金の問題、家族呼び寄せ等々、様々な項目を含めることが有効ではないかと思います。

送り出し国の経済発展にも貢献

ヨーロッパの経験から申し上げて、一つだけ避けなければいけないこと。それは、その国が提供してくれる人材だけを求めているといった印象を与えてはいけないということです。こした印象を与えてしまうと、その後コントロールできないような事態に陥ってしまう危険性があります。不法移民が増えてしまうリスクが高いのです。

この点日本は島国なので不法移民のリスクは低いかもしれません。しかし、欧州は基本的に陸続きですので、なかなか管理が難しい環境にあります。欧州において厄介なのは、労働市場が移民を要求しても社会的秩序を考えると不法移民のリスクから躊躇せざるを得ないというパラドクスです。

ですから、移民を受け入れる場合は、送り出し国との間に包括的な条約の締結が不可欠です。一方で、受け入れ国が送り出し国の経済発展のために何らかの寄与をするということも必要でしょう。そういった条件が満たされれば、非常にバランスのとれた人材の導入が実現するのではないでしょうか。欧州もかなり時間をかけてこういうことがようやくわかってきたわけです。皆さんの今後のご検討をお祈りしたいと思います。

今野:

ありがとうございました。

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