旧・JIL国際講演(2002年10月28日)
第2次シュレーダー政権とドイツ労働運動の課題

週刊労働ニュース(2002年11月04日発行)より

JIL国際講演会(2002年10月28日開催)

独労働総同盟(DGB)戦略計画総合局長 クリスチアーネ・ツェルファス氏

必要な労働市場改革/労組、派遣労働を容認へ

労働経済省が誕生/「ハルツ委員会」/重要な社会的公正


ドイツ労働総同盟(DGB)のクリスチアーネ・ツェルファス・戦略計画総合局長が日本労働研究機構(JIL)の招きで来日し、10月28日、東京・西新宿で「第2次シュレーダー政権とドイツ労働運動の課題」をテーマに講演した。シュレーダー政権は8月、職業安定所で人材派遣事業を行うことなどを通じて失業者を3年間で200万人に半減させることをめざす首相諮問委員会の労働市場改革案を発表。同首相率いる社会民主党(SPD)は9月の連邦議会選挙で当初、劣勢が予想されたが、この改革案などが功を奏し、接戦ながら政権を維持した。以下は講演の要旨。


社会民主党が政権を維持した今回の総選挙結果によって、ドイツ国民が社会的公正を求めていることは、はっきりした。

社会的公正の実現に向けて、重要な政策は4つあると思われる。一つは、労働市場・雇用政策、2つめは財政・税制政策。3つめは家族・男女平等政策で、最後に教育政策だ。

労働経済省が誕生

労働市場政策については、硬直的な市場の改革が必要だ。シュレーダー首相は、これまで以上に改革推進の姿勢を鮮明にしており、それは人事にも表れている。労働社会問題省と経済省が統合し、スーパー省「労働経済省」が誕生、ノルトライン・ウエストファーレン州首相のクレメント氏を同省の大臣に起用することを決めた。新たな働き方についての労働条件整備や、積極的な雇用政策がこのスーパー省にとっての課題だ。

労経省の誕生には批判の声もある。DGBもリスクは認識している。つまりそれは、労働市場よりも経済政策の方が優先されるのでは、という危惧だ。労働政策をないがしろにすることは言語同断で、国民にとっても利益にならない。そうならないようにDGBではチェックし、警告を発していきたい。

「ハルツ委員会」

首相の諮問委員会であり、ハルツ氏を委員長とする「ハルツ委員会」は8月、労働市場・雇用政策の改革を内容とする答申を提出した。ハルツ氏は、フォルクスワーゲン社の人事担当取締役で、月収5000マルクの賃金で失業者5000人分の雇用を創り出す同社の「5000×5000」をつくった人物として有名だ。ハルツ委員会が打ち出した改革の実現も、スーパー省にとって重要な課題だ。

改革の内容をみると、まず、職業安定所で失業者に職をより早く、しかも効率よく紹介するとしている。欧州平均では、紹介から就職までかかる平均期間は13週間だが、ドイツでは30週間もかかっている。失業者に対し、的を絞った質の高い援助をするため、職安での教育訓練の場や子供の面倒をみる施設を拡大する。

改革はまた、失業者を労働市場へ復帰させることを主眼として、派遣労働や短時間労働を活用するとしている。職業安定所に人材派遣エージェントを設置し、失業者に登録してもらう。効果は未知数だが、長期失業問題の解決が1番の狙いだ。

ハルツ委員会は、こうした政策を盛り込んだ報告書を短期間でまとめ上げた。委員会には労使の代表もメンバーに加わり、協力しあい、双方が妥協することで全会一致でまとめた。組合側はこれまで派遣労働を全面否定していたが、委員会提案を受け、派遣労働も新しい就労の道としてサポートすることにしている。ただ、そのかわり賃金など労働条件は労働協約で定めるべきだ。

大量失業の問題は、ハルツ委員会の提案だけで解決することはできず、雇用創出のための雇用対策も併せて実施する必要があると考えている。

重要な社会的公正

財政・税制政策について、前期のシュレーダー政権は法人税の改革を行ったが、これは大企業に有利に働いたとみている。例えば、ダイムラークライスラーはドイツでは1マルクの税金も払っておらず、これでは社会的公正を達成できない。

家族・男女平等政策については、男女平等に時間を使う権利という視点から、全日制の託児所・学校づくりが鍵。現政権はそれらをつくると表明しており、組合も「支払い可能な全日制」をスローガンとして、それを支持する。

ドイツでは育児は女性に集中している。最近の統計で、トップマネジメントに就く女性の割合はわずか7%だったが、原因は託児所の不足にある。学校が全日制となれば学力向上に役立ち、子供にとってもメリットがあるだろう。