旧・JIL国際講演(2002年10月24日)国際シンポジウム
パート労働問題-公正処遇はコスト増か-

週刊労働ニュース(2002年10月28日発行)より

JIL国際シンポジウム(2002年10月24日開催)

課題はパートとフルの転換促進に/パートの公正処遇を討論

仏、80年代にパート急増/独、15時間未満増加傾向に/職務別賃金へ イオン今年から


日本労働研究機構(JIL)は24日、「パート労働問題−−公正処遇はコスト増か」をテーマに、国際シンポジウムを開催した(東京・西新宿のJILホール)。フランスとドイツでは、同一労働同一賃金原則による公正処遇を義務付けているが、現実には、パートの仕事は低賃金労働が多く、パートのほとんどは女性で、男女間での不平等が拡大しているとの報告があった。他方、日本の参加者からは「働きに応じた公正な処遇」の確立が提案された。独仏だけでなく、日本でも、正社員の労働時間を短縮することや、正社員とパートとの間の転換促進が課題であることが示された。

<出席者>

佐藤博樹 東京大学社会科学研究所教授

アンヌマリー・ドヌリシャール 仏国立科学経済労働研究所教授

スザンネ・コッホ 独労働市場職業研究所教授

井元哲夫 イオングループ人事本部長

逢見直人 UIゼンセン同盟政策局長


佐藤氏は、企業はパートの戦力化を進めており、パートの拡大傾向は続くと指摘。パートと正社員の身分の違いによる処遇ではなく、両者を社員として処遇する方向性を示した。

もはやパートは、バッファーではなく、人的投資の対象になりつつある。パートでも店舗の販売主任のように、同じ仕事で、同じキャリア管理でありながら、正社員とパートの身分により、処遇に差があるケースも出てきた。

佐藤氏は、労働時間の長短で正社員とパートを分けていた雇用区分を取り除き、仕事の違いやキャリア管理で区別することが必要と指摘。それぞれの仕事や職業能力に応じて処遇すべきと提案した。

仏、80年代にパート急増

ドヌリシャール氏は、フランスでは、1980年代初頭まではフルタイムが中心でパートは例外だったが、現在では約400万人がパートとして就業していると報告。そのうちの約320万人が女性だ。

雇用のシェアリングと失業防止のため、1981年と82年の2つの法律により、パートタイムに正社員と同じ権利を与えることが義務付けられた。1993年と94年の2つの法律では、企業がパートの雇用拡大や、正社員をパートに切り替えた場合、税控除も認めている。

ドヌリシャール氏は、パートの拡大は、企業の機能的・数量的な柔軟性を高めたものの、男女間で就ける仕事を分断することにつながったと強調。パートのほとんどが女性のため、男女の不平等は拡大傾向にある。

女性間でも、高学歴でハイスキルのパートと、資格がない短期間勤務のパートで格差が拡大している。いまや低賃金層の8割は女性が占めるため、「労働市場での女性の分極化」という現象も見られるという。

90年代末に失業防止のため、労働時間の削減を目標に、1997年と2000年の2つの法律で、法定労働時間が週39時間から35時間に削減することが定められた。そのため、労働時間が、フルタイムで削減され、週平均38・3時間となる一方、パートの労働時間は増加。90年に21~22時間だったものが、現在週28・3時間に増加している。

同氏は、法律的には平等処遇だが、女性がパートにつく割合が高く、その仕事は低賃金が多いため、パートはより低い労働の地位を意味すると強調。正社員の労働時間削減や、フルとパートの転換を権利として認めることなどで、男女の格差を削減すべきと提案した。

独、15時間未満増加傾向に

コッホ氏は、ドイツでは90年代にパートは男女ともに増加傾向にあると報告。とくに週15時間未満の短時間で働く「僅少パート」が増加傾向にあると指摘した。900万人のパートの半数が僅少パートだ。

ドイツでも、性差が見られる。パートの8割以上が女性で、パート比率は、女性45%に対し、男性は9%。男性のほとんどは僅少パートだ。

90年代後半のワークシェアリングで仕事量を増やし、従業員数でも、僅少パートと通常のパート双方が増えた。80年代半ばから90年代末には、団体交渉で、フルタイムの週労働時間が短縮されたため、企業はパートを採用することで労働力を確保した。

2001年施行の有期労働契約法では、同一賃金や継続職務訓練の保障などで差別取扱い禁止などを規定。とくに従業員15人以上規模で、当該従業員が6カ月以上勤続している場合、労働時間短縮請求権を認めることも定めた。

他方、1999年施行の僅少パートタイム労働に関する法律では、社会保障の拠出責任が生じた。この法律で、学生、定年退職者の僅少パートが減ってきた。

同氏は、今後ドイツでは、社会保障が整った形での、雇用形態の柔軟化が求められていると指摘。労働市場の参入可能性を高めることや、フルとパートの転換促進も課題と語った。

職務別賃金へ イオン今年から

イオンの井元哲夫氏は、同社でのパートと正社員の処遇システムの変更事例を語った。同社では、パート約8万2000人、正社員1万6000人を雇用している。そのうち女性パートは約7万人だ。

同社では今年2月、職能資格制度から、職務別の賃金制度に切り替えた。これにより、同じ仕事をしている正社員とパートについては同一職務同一賃金で処遇することになった。同じ仕事であれば、処遇は時間比例、昇進昇格の機会も均等となっている。

現在、同社では管理職的な仕事に178人のパートがついている(販売主任など)。2005年には1000人に増加する予定だ。

井元氏は、「公正処遇は、人件費ではコスト増かもしれないが、生産性ではコストを上回るベネフィットをもたらす。コストだけでパートを見るとサービス業は成り立たない」と語った。

逢見氏は、パートの意識調査を紹介し、日本のパートの約6割は満足しているものの、昇進昇格の可能性や教育機会、賃金水準の低さについて不満も抱いていると指摘した。

また、会社の事情や労使の協議内容に、組合員ではないパートも関心を寄せている事実を報告。パートだから賃金や会社の事情に関心を持っていないというのは思いこみだと述べた。パートにも、労働条件の決まり方や処遇などの情報について説明する重要性を強調した。