旧・JIL国際講演会(2002年6月27日)
最近のフランスの労働事情
-変容する労使関係と35時間労働制

週刊労働ニュース(2002年07月01日発行)より

JIL国際講演会(2002年6月27日開催)

英TUC幹部講演


イギリスのナショナルセンター、英国労働組合会議(TUC)の幹部が日本労働研究機構(JIL)の招きで来日し、6月27日、東京・西新宿で開かれたJIL主催の国際交流懇談会で、「英国での公共サービスの民営化」について講演した。TUC幹部は、ブレア政権で進められている公共部門の民営化はサービスの質の低下をもたらすと批判し、職員の労働条件の低下にもつながると指摘した。


来日したのは、UNISON(公共部門労働組合)のデヴィッド・アンダーソン副会長、BECTU(放送・エンターテインメント・映画・演劇産業労組)のロジャー・ボルトン書記長、CSP(英国理学療法協会)のレスリー・マーサー労使関係局次長、TUCのシャロン・ジェームス国際関係局政策担当の4人。

英国では、昨年6月に2期目に入ったブレア政権が、公共サービスに対する国民の不満が高まっているとして、教育、鉄道、医療などの公共サービス改革を最重点課題として進めている。改革の手段は民営化やサービスの民間委託などが中心。これに対して公共部門の労働組合は反発を強めている。

英国最大の公共部門労組であるUNISONのアンダーソン氏は、公共サービスの提供を民間主導で行うPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)について、問題点がある調査から明らかになったと語った。

それによると、公共サービスにかかるコストは実は、政府主導より民間主導の方が高くなるという。事業のセットアップコストや資金の借り入れ率が、政府主導よりも大きくなるのが理由だ。コスト高は、職員の賃金の圧迫にはねかえる。アンダーソン氏は、「PFIの経済学は安い労働者の賃金を頼りにしている」と不満を露わにした。新たに雇われたスタッフの労働条件が、以前から勤めているスタッフよりも劣悪に設定されていることが実際に起きているという。

また、アンダーソン氏は、サービスの質も低下すると訴えた。民営化されると、一般の人へのサービスや職員よりも、株主配当の方が優先されるようになる可能性があると指摘。実例として、パスポート手続きや年金支給、海峡トンネルの運営でのトラブルを紹介した。

医療労働者を代表する労組、CSPのレスリー・マーサー氏は、英国の国民保健制度(NHS)の改革を紹介。NHSについては現在、政府によって投資・改革10年計画が実施されている。

マーサー氏によると、病院では生産性管理のアプローチがとられており、実績があがらない病院は、民間に買収されることもあるという。PFIの導入が進んでおり、例えば、病院の建設、クリーニング、ケータリングサービスなどが民間運営で行われていると紹介した。

ロジャー・ボルトン氏は、79年の英国放送協会(BBC)の民営化の影響について語った。ボルトン氏によると、BBCは79年では職員の95%は自ら採用していたが、現時点では45%にすぎないという。79年では警備もクリーニングも食堂も、スタッフとして雇っていた。それが現在は、職域別に民間に委託されている。

BBCの民営化の目的について、ボルトン氏は、「サービスを効率的にするというより、いかに節約できるかに走った結果だ」と皮肉まじりに語った。

BBCでは民営化に伴い、労働組合に対する規制が一時、強められたという。組合費のチェックオフについて、3年ごとに組合員の承認を得る仕組みが導入され、執行委員の選定が5年ごとに郵便投票で行われることが決められた。フリー契約のスタッフが増加し、組織化も難しくなっているという。