旧・JIL国際講演会
最近のフランスの労働事情
-変容する労使関係と35時間労働制
(2002年6月13日)

週刊労働ニュース(2002年06月17日発行)より

JIL国際講演会(2002年6月13日開催)

名古屋市立大学教授 松村 文人氏

仏型ワークシェアは今/35時間制と企業交渉

企業協定が多様化/雇用創出36万人


不況が深刻化するなか、日本では、政労使合意による日本型ワークシェアリングが議論されている。しかし、すでにフランスでは、1998年に立法により、35時間労働法制を実施し、時短を通じた雇用創出によるワークシェアリングが進行中だ。日本労働研究機構が開催した国際講演会で、松村文人氏(名古屋市立大学大学院経済学研究科教授)がフランス型ワークシェアリングの内実を語った。


フランスの失業率は、97年の12・3%をピークに、2001年の8・8%を底として、上昇しつつある。現在の失業者は267万人。ピーク時から約100万人減っている。1997年に成立したジョスパン左翼内閣の雇用失業対策の効果だ。その失業対策を大別すると、(1)雇用のセーフティネットの強化(2)雇用創出−−の2つ。

一つ目の、雇用のセーフティーネットには解雇規制も含まれている。具体的には、2002年2月の労使関係近代化法施行。労使協議を通じて解雇の規制がなされている。また、不安定雇用(期限付き雇用、派遣)の抑制をすることで、正規雇用の雇用創出をめざした。さらに失業保険制度の改革もなされた。職安に届け出た失業者に対して、雇用復帰援助計画を結ぶなど、所得保障から転職促進への転換がなされた。

2つ目の雇用創出政策では、週35時間制によるワークシェアリング(オーブリ法、第1法・1998年、第2法・2000年)と、公共部門における若者の雇用拡大を実施した。ワークシェアリングでは36万人の雇用創出を実現し、公共部門での雇用拡大では、1997年~2001年までで27万人の若年雇用を作り出した。

フランスでは、35時間労働法制よりも、むしろ公共部門の雇用拡大を評価する傾向が強い。フランスの若年者の失業率は高い。そこで、公共性は高いが人員配置が充分でない領域で若年者の直接雇用がなされた。公共部門の内訳は文化・スポーツ等公益団体、自治体、公共企業(公共交通)、義務教育(補助教員)、警察(パトロールのアシスタント)、司法などだ。

企業協定が多様化

長い間、フランスでは、経営側の専制主義と組合の組織率の低さ(現在9%程度)から、団体交渉が未発達だった。そこで、政府は立法による企業交渉の強制と誘導を行ってきた。

1982年オールー労働法では、50人以上または、組合のある企業では、企業内交渉を年1回、義務づけた。ただし、交渉を義務づけたのであり、合意は義務づけられておらず、交渉は形式的なものだった。

そして、1998年オーブリ法では、経営者が時短と同時に新規採用を組合と合意した場合、社会保障費の支払負担を軽減する規定を設けている。この規定により急激に企業交渉は増えた。フランスの企業協定は、1998年に1万3000件であったものが翌年、3万5000件、2000年には3万件で推移している。

また、企業内の意識においても、90年代以降、労使関係を見直すため対話の機運が生まれた。実際、協定そのものは93年頃から増えている。組合側にも、「提案型」労働運動が広がりを見せた。企業協定の機能は「譲歩型交渉」に変化した。

これにより、企業協定は量的に増加・多様化し、中小企業に広がった。2000年になされた約3万件の企業協定の約半分は50人未満の企業で締結されている。フランスの労働者の約400万人(20%)が企業協定の適用下におかれるようになった。

雇用創出36万人

フランス型ワークシェアリングの特徴としては、第1に、立法により全企業・全事業所に時短を義務付けたことがあげられる。第2に、適用は企業内の労使交渉にゆだねられた。どう35時間を適用するか、何人をどの職種で採用するかは、企業内交渉で決められた。

第3に、企業の社会保障費負担軽減だ。具体的には、10%の時短と6%の新規採用を条件に合意した場合は、社会保険の支払を減免した。第4に、オランダとは違い、雇用の創出は、正規採用やフルタイムを目的としていた。

第5に、賃金カットのない時短が目標とされた。法律は、最低賃金を維持することを想定したが、組合側は、4時間分の賃金も維持しながらのワークシェアリングをめざした。実際には、時間給を上げて、給料を維持しており、大部分の企業が賃金カットなしを実現した。

競争力の低下につながる、賃金上昇をどう相殺したかについては、社会保障費の負担軽減が大きな役割を果たした。そのほか、多能工化、職業訓練など生産性向上の努力に加え、変形労働時間制が多くの企業で導入された。ただし、新規採用の困難な、管理職、エンジニアについては労働強化もみられた。

ワークシェアリングの雇用効果は、企業協定数は約8万4000件、雇用の創出が推定36万人となっている(昨年8月時点)。当初の雇用効果の推測では、大蔵省が1998~2002年で55~60万人の雇用増加を見込んでいた。この予測から見れば、36万人は成果をあげたといえよう。