旧・JIL国際講演会(2002年1月25日)
ワークシェアリングとコンビネーションシナリオの試み
~オランダモデルの経験から~

 日本労働研究機構(JIL)では、本年1月25日に、オランダFNV(傘下組合員数約120万人、オランダ最大のナショナル・センター〕トップリーダー招聘の一環として、国際交流シンポジウムを開催した。
 オランダといえば、労使協調のコンセンサス形態を背景に、パートタイマーとフルタイマーの均等待遇を確保し、労働時間の削減を雇用の創出に結びつけた「オランダモデル」として名高い。
 今回のシンポジウムでは、ワークシェアリングの問題について、今後の日本の方向性を探るべく、FNVアート・ルヒール書記長の基調講演を元に、脇坂学習院大学教授をコーディネーターに迎え、連合の龍井総合労働局長、日経連の松井労務法制部次長をパネリストとして招き、オランダの労組指導者達とのパネルディスカッション形式で開催した。
 本シンポジウムを通して、オランダ政府が推進する、男女共にパート化を促進し、家事や育児、介護等を分担し合うというコンビネーションシナリオの試みは、現在、確実にオランダ社会に浸透しつつあることが確認されるとともに、オランダとは状況の異なる日本において、今後、ワークシェアリングの「日本モデル」を形成するにあたっての労使合意に至る多くの課題について、活発な意見交換が行われた。
 以下にその概要を紹介する。

 

Ⅰ.ルヒール書記長の基調講演から

ワッセナー合意の意義

 「オランダモデル」とは、政労使が継続して協調する「コンセンサス形態」のことで、歴史や環境を前提としたオランダ文化の表明である。
 1970年代のオランダは厳しい経済危機に見舞われ、80年初めの失業率は12%に達していた。その中で、労使は82年に「ワッセナー合意」を締結し、その内容は①企業の競争力強化②雇用の再分配③労働条件に関する政策立案の地方分権化④責任ある賃金政策の実施というものであった。この合意は、それまでの乖離的な政策に終止符を打った。時短は失業の削減につながるということを雇用主が初めて認め、労働者は賃金抑制の代わりに時短を要求した。

 


アート・ルヒーア
FNV本部 書記長/財務担当役員

パートの促進がワークシェアリングの道へ

 雇用者数は、80年当初500万人だったのが、2000年には700万人へ。伸び分はパート労働によるもので、女性の参加も22%から54%へ増加した。成功は、ワッセナー合意だけでなく86年、93年、97年、2000年と相次ぎ打ち出された合意の組み合わせの賜でもある。オランダではパート=正社員に劣る第2級職という認識はなく、時間当たり給はフルタイムと同等である。多くの女性がパートとして働くようになり、保守的な分業パターンは消失。男性パートも多く生まれ、仕事と育児、介護を両立させる団体協約も増えてきた。

失業率を減らすのにワークシェアリングは有効か

80年代、時短による失業対策が行われた結果、現在のパート労働者は全労働人口の40%を占める。男性の週あたり平均労働時間は36.5時間、女性は25時間となっている。なぜWSが成功したか考えてみると、時短と同時に賃金の安定化が図られた事が挙げられる。公共部門における85年の賃上げ要求は5%だったが、結局週あたり労働時間が38時間に短縮された為、時給は5%アップとなった。最近では状況が変わり、賃上げよりむしろコンビネーションシナリオの促進が図られている。森林部門のWSは、週35時間。WSの導入前後で、1時間あたりの賃金や消費購買力を比べると、3~4%ずつ増加しており、労働者の財力に悪影響を与えてはいない。

オランダモデルの今後の課題

 オランダの政労使は協力関係を維持しているが、組合側からみると不安要因もある。国民の75%は労組の活動を支持しているが、組合員は27%にすぎない。労働人口の伸びは組織率をはるかに上回っており、労組は女性、マイノリテイ、サービス部門の若年層などに人気がない。特に経済繁栄の時代しか知らない若年者は労組の恩恵を認識しておらず、自ら交渉ができると思い込んでいる。

 

Ⅱ.パネルディスカッション

使用者側の主張

 パネル・デスカッションにおいては、日経連松井次長から、以下のような見解が述べられた。
当面は、労働時間を短縮して総額人件費を縮減して雇用を維持する所謂「緊急避難型ワークシェアリング」が、必要に応じ積極的に講じられるべきだろう。これまでも日本企業労使は、WSの考え方を様々な仕組みで導入してきた。それは採用抑制、配置転換、出向、残業規制、一時帰休などであり、WSもそうしたオプションの1つと位置づけるべきで、雇用と賃金、労働時間を多様かつ適切に配分すれば、中長期的に雇用の維持・創出が可能となる。
 オランダのパート労働は、労働時間が短くなる以外、雇用条件が同じということだが、この点を全く同様に取り入れることは難しい。日本の賃金体系は、いわゆる生活給的要素が相当含まれており、年功に応じた支払いも依然多い。連合などは均等待遇を主張するが、生活給的なものは全て捨て去る覚悟があって初めて成り立つ理論だ。

講演模様

労働側の主張

 一方、労働者側の連合、龍井総合労働局長は、以下のような見解を述べた。
WSを取り上げるにあたり、連合は①これほど数多くの失業者がいながらサービス残業を含めた長時間労働が依然横行している事 ②典型、非典型労働者の労働条件格差が拡大している事 ③仕事と暮らしのアンバランスが限界点にきている事、を前提にしている。また、WSは「従来行われてきた個別企業における雇用調整とは異なる」という認識にある。さんざん行われてきた一時帰休や残業規制、それによる賃金カットを飲むということを、今更奨励する必要はなく、わざわざWSというのは、それが限界に来ていて社会合意を通じて「分かち合い」をする必要があるということではないか。日本では、仕事をしすぎている人と、仕事に就けない人の仕事の分かち合いからスタートしなければならない。従って時間管理、鉄鋼の要因協定のような仕事の要因管理をきちっとする必要がある。もう1つは、典型・非典型の区分けをなくしていくこと。
 オランダでは労働時間差別を法律で禁止したが、日本では「仕事」に即した処遇がなく、賃金決定が個別企業労使にあまりにも任されてきた。均等待遇を横断的にルール化するということは、働き方を根本から変えることにもつながるかもしれない。
 政府の役割についていえば、WSは労使交渉の対象で政府の責任はない。ただオランダでは、経済の低迷時に減税や税制改革を行い、社会保障予算を充実させた。雇用の量的な面を解消するには、WSのみでは困難で、日本政府はデフレを止め、雇用創出に至る環境を整備する事が本筋だ。労使に問題提起をするのはいいが、WSが先にありきは本末転倒。だが個別企業が前向きに雇用を守り、時短を行う努力に対しては、何がしかのバックアップがあっても良いだろうし、社会保障面の整備も不可欠だろう。

別添資料

別添Ⅰ   日本におけるワークシェアリングの検討経緯(PDF:10KB)
別添Ⅱ   ワークシェアリングの類型(PDF:39KB)
別添Ⅲ-1 「労働問題研究委員会報告」(抜粋)(PDF:108KB)
別添Ⅲ-2 緊急避難的ワークシェアリング導入にあたっての検討項目(PDF:13KB)
別添Ⅲ-3 「ワークシェアリング」検討経緯(PDF:11KB)
別添Ⅳ-1 新しい働き方をめざして −ワークシェアリングへの挑戦(PDF:27KB)
別添Ⅳ-2  Toward a New Mode of Work -The Challenges of Work Sharing(PDF:25KB)
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